このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2004年度)です

物体に働く2つの力(合力)
              
                   2004 6 14(月)
                   第1理科室

 現行学習指導要領では、2つの力の合力を指導しなくてもよい。しかい、生徒の立場からすると、力の分解(分力)は省略できても『合力』を知らなくては力学全体の理解が進まない。そこで、本年度は2時間使い、平行四辺形の法則を使った合力の求め方を学習させた。

(上:学習プリントの後半)

 生徒の持ち物: 三角定規セット
 教師が配付したもの: 物体、矢印、斜面を印刷した学習プリント


◎ 授業の流れ
1 合力の求め方(6つ)

 以下のように、物体に働く2つの力の合力を求めさせた。説明例を示す。
 「ここに丸い玉があります。A君が紐をつけて引っ張りました。同時に、B君の紐をつけて引っ張りました。黒板のように、えいっ!、と引っ張ると、玉はどちらの方向へ飛びますか?」ここの説明では、物体に紐をつけて引っ張る場合を考えた。他の説明では、物体を押し出す方法もあるが、紐を使った方がごく自然な考えが方ができる。また、引っ張る力は、じわじわっとではなく、えい! と一瞬のうちに力をかけるようにする。
 「そうですね。右です。簡単です。2人が力を合わせて飛ばせた力を合力と言います。次の問題は、その大きさです。A君とB君は同じ力だったので、同じ長さの矢印で書きましたが、2人の合力の矢印の長さはどこまででしょう。同じ長さですか?それとも、2倍の長さですか?」
「そうですね。2倍の長さです。それではプリントに2人の合力を描いて下さい。ただし、長さを正確に測って下さい。プラスマイナス1mmの誤差でお願いします。一番初めなので、単純な足し算として考えさせる
 「次は、A君B君とも同じ大きさで引っ張りましたが、方向が違います。A君は真上、B君は右です。2人が同時にえいっ! と引っ張ると玉はどちらの方向に飛びますか?」
 「そうですね。右上です。簡単です。しかし、大きさはどうなるでしょうか。今度は、2本の矢印を使って正方形を作って下さい。その対角線が力の大きさになります。これもプラスマイナス1mmの誤差でお願いします。答は多数決で決めるので、後から全員に発表してもらいます。平行四辺形ではく、まず、正方形を考えさせる
 ・・・
 「ということで、多数決により3.4cmに決定しました。テストの時は、3.3cmから3.5cmまでを正解とします。」
 「次は、A君B君の綱引きです。正反対の方向に同じ力で働きました。合力はどうなるでしょう?」
 「そうです。ゼロです。矢印では書けないので、合力の色のペンで、ぐるぐるっと点を書いて下さい。それで出来上がりです。また、このような場合を、2つの力がつり合っていると言います。」
 「ここで平行四辺形が登場する。さて、右図の場合はどうなるでしょう。玉が飛んでいく方向はだいたい分かると思いますが、大きさは分かりませんね。そこで、今度はAとBを使って平行四辺形を書きます。その対角線がAとBの合力になります。では、一緒に書いてみましょう。シャープを用意して下さい。まず、三角定規をAに当てて下さい。その三角定規の残った2辺のどちらでもいいですから、もう1つの三角定規を当てて下さい。そして、初めの三角定規を動かせば出来上がりです。すうーっと動かして、矢印Bの先端で止めて薄い線を引いて下さい。」机間巡視し、個別指導すること。3分で20人程度が成功していることを確認できるはずだ。一度に全員点検できなくても、次の例題の後に、残された生徒を見れば良い。主なチェックポイントは次の通り。
1 矢印になっているか
2 補助線が残されているか
3 誤差プラスマイナス1mmになっているか
 「今度は角度は同じですが、Bが短くなりました。考え方は同じです。平行四辺形の対角線が答です。分かる人はすぐに作図して下さい。」再度、机間巡視。全員の点検作業を終え(3分)てから、合力の求め方を黒板にまとめる。
 「最後の問題です。A君とB君が綱引きをしていますが、A君の方が強いようです。2人の合力はどうなるでしょうか?」
 「誰か説明してくれる人はいませんか?」」
 「それでは、C君お願いします。」
<説明のポイント>
・ A−B、つまり、2.4− 1.3は駄目
・ A+B、つまり、2.4+(−1.3)
・ A君が引っ張っても、B君の分だけ戻される

2 斜面を滑り落ちる物体に働く力
<説明の例>
 「次に床に置いた物体について調べてみましょう。この物体にはどんな力が働いていますか?」
 「そうですね。重力が働いています。長さ(大きさ)は3cmにしましょう。物体が床と接しているところから真直ぐ下の方向に3cmの矢印を書いて下さい。」
 「できましたね。ここでちょっとした実験をします。床から120cmの所に黒板消しを置きます。手を離すとどうなるでしょう。・・・パタン!・・・落ちました。重力が働いています。しかし、120cmの高さを保ったまま、ちょっとだけ移動させて、(黒板のサンに載せて、手を離して)・・・、あれ! 黒板が落ちません。どうしてでしょう?1年生で学習した力が働いているのですが、それは何か分かりますか?」
 「凄い! よく覚えていましたね。垂直抗力です。床から垂直に重力と同じ大きさだけの力が働いています。」
 「ここでちょっと垂直抗力について復習しておきましょう。今、教卓の上には何もないので垂直抗力は0ですが、黒板消しを置くと黒板消しと同じ大きさの垂直抗力が発生します。そして、先生が机の上に乗ると、・・・ほら、天板が歪んでいるのがわかりますか? 板が歪んで私の体重と同じだけの60Kgの力が発生しました。もし、40Kgの人なら40Kg、80Kgなら80Kgの力が発生します。もちろん、300Kgの人がのって板が耐えきれなかったら、ばりっと割れてお終いですが、板の限界(弾性の限界ですが、)以内なら、同じ大きさの抗力が発生します。」
 「斜面に置かれた物体に働く力を求めましょう。まず、物体の中心ではなくて斜面と物体が接しているところに点を打ちます。そこから真下に3cmの矢印を書きます。この力は何ですか?」
 「そうですね。重力です。次に、斜面から垂直に働く力を書きますが、長さは平行四辺形を書かなければ分からないので、まず、シャーペンを用意して、斜面に垂直(直角、90度)の線を引きます。薄く引いて下さい。後から余分な線を消します。」
 「書けましたか。次に、重力の矢印の先端に小さな点を書いて下さい。その点から垂直抗力に平行な線を書きます。そして、斜面と交わったところに小さな点を打ちます。」
 「書けましたか。今度は、その小さな点から重力に平行な線を書きます。ほら、平行四辺形ができました。これで、垂直抗力の長さが分かりました。合力の長さも分かりました。」
 「出来た人は、緩やかな斜面の場合もやってみましょう。重力の大きさは同じ3cmです。矢印を色分けして下さい。出来た人は合格印をあげますので持ってきて下さい。」

先生のためのワンポイント
 授業ではいくつかの点を便宜的・意図的に説明を省略しながら進めています。正しい力は以下の通りです。

(1)重力の作用点は、物体の中心
 →上図では、重力の作用点を斜面上に移動している
 →重力の抗力は、斜面と関係ない物体が地球を引く力(万有引力)

(2)上図の垂直抗力は、物体が斜面を垂直に押す力の抗力です
  →上図には、物体が斜面を垂直に押す力が書かれていない


◎ Dさんの学習プリント


<評価基準>
1 自然事象への関心・意欲・態度
 B 重力、垂直抗力、合力(物体が斜面を滑り落ちようとする力)を色分けできる

2 科学的な思考
 B 2つの力を1つ力で表わすことができることを気づく

3 実験・観察の技能・表現
 B 平行四辺形を作図し、2つの力の合力を求められる

4 自然事象についての知識・理解
 B 2つの力の合力は平行四辺形の対角線で表わされることを理解できる


授業を終えて
 斜面を滑り落ちる物体に働いている力は、重力(重力は物体が斜面を垂直に押す力物体が斜面に沿って滑り落ちようとする力の2つに分解される)垂直抗力斜面が物体を垂直に押す力の2つ。斜面の角度によって重力の大きさは変わらないが、垂直抗力の大きさは変わる。その結果として、2つの力の合力の大きさ(物体が斜面を滑り落ちようとする力)が変わるのである。しかし、新指導要領では、重力と垂直抗力の説明を省略し、『緩やかな斜面では小さな力、急な斜面では大きな力』が働く、と説明すれば良い。実際生徒に説明してみると、あまりにも簡単で科学的な喜びを見出せない。

 本時は、旧指導要領では4時間かけて指導していたものを2時間に短縮して実践したうちの第1時であるが、ほぼ全員の生徒が平行四辺形の対角線が合力であることを理解し、作図できるようになったと思う。もうすぐ行われる1学期定期テストで、学習の定着率を確かめたい。

ベターな指導方法
→ 2004年7月13日の追記

← 前 時
実験4 斜面を滑り落ちる台車(テスト)

次 時 →
慣性の法則(斜面上の物体に働く力)

↑ TOP

[→home(C) 2004 Fukuchi Takahiro