このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 年(2017年度)です

第73時

実験2 誘導コイル 

2017 1 12(金)
理科室

はじめに
 前時は静電気しましたが、本時は動電気を学習します。動電気という語句は授業で紹介しませんが、これは文字通り動く電気(電子)を意味します。電流、ということです。

 電子の速さは秒速30万km、つまり、光を同じ速さです。これは抵抗がない場合なので、空気中を飛ぶ場合(放電)や導線の中を通る場合は遅くなります。

 さて、本時のタイトル『誘導コイル』は電圧(電子が飛び出す圧力)を大きくするものです。家庭用電気の電圧は100Vですが、これを数万V(100倍以上)にすることができる装置です。電圧が高くなると、電子は空気中を飛ぶようになり、理科室にあるものは5cm〜10cm飛ばすことができます。自然界における雷も同じ現象で、10億Vになる場合もあります。


図1:本時の学習プリント(クリックすると拡大します)


本時の目標
・電流の正体は電子であることを知る
・誘導コイルによる空中放電を観察する
・電流は大きなエネルギーを持っていることを体感する
・クルックス管の実験から、電子はマイナスであることを理解する
・人体に有害な放射線を浴びる危険性があることを知らせる

準 備

生 徒 教 師
  • 教科書
  • 理科便覧
  • ファイル
  • 本日の学習プリント(1 /人)
  • 誘導コイル
  • バンデグラフ
  • 導線
  • クルックス管(十字入り)
  • クルックス管(スリット付き)
  • クルックス管(羽根車付き)

誘導コイル
(1)高電圧(数万〜10万V)にする装置
(2)高電圧の電子による空中放電の距離は、5cm〜10cm
(2)内部にはエナメル線を数10万回巻いたコイルがある
(3)エンジン内の電圧発生装置はイグニッションコイルという

バンデクラーフ
(1)摩擦によって高電圧をつくる装置
(2)乾燥していると数10万Vになるが、湿っていると帯電しない

放射線
 高速の電子が金属に衝突すると、エックス線などの放射線が発生します。本時は『誘導コイルによる放電』、『クルックス管による実験』で発生、被爆します。

授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (1分)

(2)誘導コイルの紹介 (5分〜7分)
 高電圧を発生させる装置です。ばーん、と紹介してください。

誘導コイル
(1)高電圧(数万〜10万V)にする装置
(2)高電圧の電子による空中放電の距離は、5cm〜10cm
(2)内部にはエナメル線を数10万回巻いたコイルがある
(3)エンジン内の電圧発生装置はイグニッションコイルという

 ある程度黒板にまとめたら、危険性も告知し、実験台の最前列でみたい生徒から前にくるように伝えます。最前列の生徒は丸椅子を持参させてください。動きがなくなったら、その他全員を前に移動させます。そして、空中放電や電子線によって紙を燃やす演示実験をします。以下は、17年前の実践記録『演示実験 クルックス管2年(2000年)』の転載です。

転載記事

1 誘導コイルの紹介
 大型の変圧器で、数万Vの電圧を発生させます。下の写真を見て下さい。Mr.Takaが人さし指で示している部分に高電圧がかかります。先のとがった棒状のもの、丸い皿のようなものの間に電子が飛ぶことになります。

2 理科室の暗幕を閉める

3 空中放電させる
 空気は絶縁性が非常に高いので、空中放電させるためには高電圧(3万V/cm)が必要です。そこで、前に紹介した誘導コイルを使います。この装置には、プラスとマイナスの切りかえスイッチがついているので、電子がマイナス極から飛び出していることは、ここで分かります。

 触りたいと言い出す生徒がいますが、どうぞ、その生徒の責任で触らせて下さい。有害なエックス線も照射されているので全くお勧めできませんが、実際に実験をすると、あちこちから空中放電がおこなわれ、先生は何度か痺れることになるでしょう。必ず、予備実験をして、どこから高電圧が漏れでるか、目の前の誘導コイルを使って試しておいて下さい。

4 放電している光線の中に紙を入れる
 1分以内に燃え出します。

(3)クルックス管の演示実験 (15分〜20分)
 以下は、 17年前の実践記録『演示実験 クルックス管』の転載です。

転載記事

7 暗幕を閉める

8 クルックス管(十字板つき)
 まず、十字板つきクルックス管を観察しました。下の写真では、激しい蛍光の中に十字形の影が映っています。これは、マイナス極から飛び出た電子は直進することを証明しています。なお、下の写真の十字形の下にクリップが写っていますが、これがプラス端子です電子はマイナスからプラスに飛びますが、この場合は、電子はマイナス極から真横に飛び出していると説明します。

6 クルックス管(羽根車つき)
 陰極線が当たると、くるくる羽根車が動いていきます。プラスマイナスを逆にすると、今度は反対向きに動いていきます。まるで、光の粒子や圧力によって回転しているようですが、実際は、羽根の温度が上昇するラジオメーター効果によって運動しています。

写真下のような形をした羽根つきクルックス管もあります。

7 クルックス管(スリットつき)
 磁石を近付けると陰極線が曲がります。曲がる方向は決まっていますが、詳細は、フレミングの左手の法則を学習するときに説明します。今日は、マジシャンのように「それでは、光を曲げて御覧に入れます。えいっ! 今度は反対方向に、えいっ!」とだけ紹介しておきましょう。


8 クルックス管(偏向電極つき)
 下の写真では分かりませんが、直流電源装置を使って、プラス・マイナスの電気に対する反応を調べます。結果はとても単純です。プラス極に引き寄せられ、マイナス極に反発します。

(4)放電管の演示実験 (3分〜5分)
 以下は、 17年前の実践記録『演示実験 クルックス管』の転載です。

転載記事

9 放電管
 下の写真には、4本の放電管が並んでいます。それぞれ真空の度合いが違います。空気中の放電現象は、空気の割合によって大きく異なるので、詳しい説明をしなくても楽しく観察することができます。教室の天井についている蛍光灯は、これと同じ原理で、ガラス管の内側に蛍光塗料が塗ってあり、水銀(気体)が充填されています。ネオン管も同じ原理です。

(上の2枚: 1番上と3番目に電圧をかけてみました。)

(5)バンデグラフ (10分〜15分)

(6)本時の感想、考察 (5分)


授業を終えて
 最近、教育界で放射線について話をする機会が多くなってきました。

 放射線は自然界に普通にあるものですが、大量に浴びると死ぬこともあります。日本では2011年の福島第一原発事故により、人的な放射線がもれ続けています。この事故は世界最悪の事故と言われていますが、日本人の多くはその事実を知らないようです。6年間調査しても放射性物質がどこにあるのか不明。当然、処理方法も不明で、汚染物質にフタをすることもできず、収束のメドは立っていません。

 この事故は日本政府による安全神話が崩れたのではなく、日本政府は信用できない存在であることを証明した、と言うべきでしょう。国土の一部が失われ、人々の命や土地や生活が奪われました。1986年のチェルノブイリ事故よりもひどい現状です。同レベルであっても、今後100年、200年は毎年2兆円程度の税金が使われることでしょう。被害総額ではなく、今後も払い続けなければいけない金額は世界最高額のはずですが、国民はまったく知らないようです。

 人類は1954年から2011年の57年間で2カ所(旧ソビエト連邦、日本)で、現在の技術では返済できない負債を抱えました。放射性物質の半減期は短いもので万年単位、長いものは100万年単位です。日本がユーラシア大陸から分離してから1万年しか経っていないことを考えれば、1万年後の日本は『現在と全く違う地形になっていること』は簡単に想像でできます。それでも放射線量はあまり変わらないのです。

 科学的に考えてください。このまま原発の運転を続けるなら、2068年までの追加事故件数は2件です。科学的に思考できる人は、過去の事実から誰もが認める未来図を描くことができるはずです。

 かなり脱線しましたが、本時のテーマである誘導コイルは、その放射線を出します。

 私が教員になった1984年当時、誘導コイルの危険性はほとんど指摘されていませんでした。その後、いろいろな研究、政府のよる原発推進政策、福島原発事故などにより、学校でも放射線について学習するようになりましたが、安全に関するガイドラインは2017年現在もあいまいです。

 2021年から完全実施される学習指導要領では、さらに深い内容まで扱うようになるようです。私は放射線の学習は必要だと思いますが、中学理科では『原子』『分子』『電子』までを中心にするべきだと強く主張します。原子核の分裂で生じるさらに小さな粒子(放射線)は高校理科で扱うべき内容です。今回示されている内容は、理科ではなく技術科で教える内容です。教科の特性を知り、きちんと内容を振り分けてください、と強く要望します。

 また、中学生の先生と生徒に対して、この実験における注意を喚起します。人体は、放射線は受けることで損なわれます。とくに、水晶体、消化器官、造血器官、生殖器官に障害を起こしやすいと言われています。大変参考になる記事を見つけましたので、以下に紹介します。

真空放電の実験 先輩に聞くBから
  十字型クルックス管で60cm離れて実験をした場合、年間被曝量の上限とされる1mSvに達するのに要する時間は早くて約1時間ということです。クラス数の多い中学校の理科の先生は、一応記憶に留めておくべきかも知れません。

 他に適切な資料を見つけられなかったので1つしかありませんが、年間1mSv(ミリ•シーベルト)という値に着目してください。これは、それほど大きな値ではありませんが、これは中学の先生と生徒だけが被爆する量です。自然界から受ける年間被爆量の平均2.4mSvに加算されるものです。

自然界から受ける年間被爆量 2.4mSv 
                      (環境省HPから)
 平成23年12月に、(公財)原子力安全研究協会は20年ぶりに、日本人の国民線量を発表しました。調査の結果、1年間に受ける日本人の平均被ばく線量は5.98ミリシーベルトであり、そのうち2.1ミリシーベルトが自然放射線からの被ばくであると推定されています。
 (中略)
 放射線検査による被ばく線量は個人差が大きいのですが、平均すると日本人の被ばく量は極めて多いことが知られています。特にCT検査が占める割合が大きくなっています。
 なお、上記の国民線量の算定では、東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故の影響は考慮されていません。今後は、これまでの平常時の被ばく線量に、東京電力福島第一原子力発電所事故による被ばく線量が加算されることになると考えられます。

 また、実験器具の距離が近くなると、線量は極端に大きくなります。私は専門ではないので詳しいことはわかりませんが、クルックス管を手で持つようにして実験しなければならない先生の被曝量は10倍量以上になると思います。十分に気をつけてください。 

関連ページ
演示実験 クルックス管2年(2000年)

実践ビジュアル教科書『中学理科の物理学

第72時 ←
実験1 スロトーの静電気

→ 第74時
実験3乾電池の電圧を測ろう
↑ TOP

[→home
(C) 2017-2018 Fukuchi Takahiro