このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2018年度)です

第22時
実習19 仕事率  

     2018 6 11(月)、12(火)
     普通教室

はじめに
 同じ仕事をするなら、速い方が『仕事の効率(仕事率)』が高い。これは物理の世界でだけでなく、日常の仕事や勉強にも当てまるようです。


上:本時の板書


本時の目標
仕事 ÷ 時間 = 仕事率、であることを理解する
・仕事率に関する練習問題ができる
・電力と仕事率の関係を理解する

準 備

生 徒 教 師
  • 教科書
  • 理科便覧
  • ファイル
  • 本日の学習プリント(1 /人)

授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (1分)

 「今日のタイトルは、仕事率です。仕事率とは、文字通り『仕事の能率』です。これは、物理に限らず日常の仕事や君たちの勉強にも当てはまります。その意味や計算方法を確認してから、練習問題を行いましょう。うまくいけば、ここまでの20分で終わると思います。その後、2年生で学習した電力との関係を調べますが、やりすぎると分からなくなるので、みなさんの様子を見て、余裕を見て終わりたいと思います」

(2)仕事率の紹介 (3分〜5分)
 「教科書◯◯ページを開けなさい。仕事率について書いてある部分を探しチェックしなさい。(子どもたちがチェックしたのを確認して)チェックできた人は、学習プリントプリントにもまとめておきましょう。


上:仕事率とは何か(板書)

 「次に、仕事率の公式をまとめます」

 「仕事率は仕事と時間で決まるので、仕事 × 時間ですか? それとも、仕事 ÷ 時間ですか? ・・・ そうですね。教科書に書いてありましたね。仕事 ÷ 時間です」

 「単位も書いておきましょう。・・・(中略)・・・ポイントは仕事率の単位です。仕事(ジュール)ワル時間(スモール・エス)になりますが、ジュール ÷ スモール・エスは『ワット(W)』になります。これはワットという科学者の名前に由来します。ワットはイギリス人ですが、彼について紹介してくれる人はいませんか! では、A君、お願いします。(A君が答える)・・・ということで、蒸気機関車の発展の大きく貢献した人で、当時、石炭や鉄などの重い荷物、物体を運ぶ仕事の効率、を表す単位として、ワットが使われるようになりました」


上:仕事率の公式(板書)

先生へのワンポイント・アドバイス
 ここでは『仕事率と電力の単位は同じ』であることを伏せておきましょう。子どもたちから、「これって電力と同じ単位ですか?」と質問されたら、「同じ単位ですが、それを今説明すると混乱するので、まず、練習問題ができるようにして、テストで点が取れるようにしてから、まとめることにしましょう」と誘導します。

(3)仕事率の練習問題(5分〜15分)
 (2)までの内容は、学習プリントの左ページに書きますが、練習問題は右ページです。「では、さっそくプリント右側にある練習問題をやりましょう!」と声をかけると、子どもたちは授業前半を10分で終えた気分になり、軽やかに練習問題へ進みます。計算に対する苦手意識を失わせる作戦です。

 作戦はさらに続きます。一番目の問題は、とてつもなく簡単にします。子どもたちが「え、かけ算するだけ」「それを4で割るだけ」「ほんとにそれだけ」と疑心暗鬼になるほど簡単にします。

練習問題その1
(1)2N、6m、4秒の仕事率は?

  まず、
  仕事は・・・  2 × 6 = 12
  だから、
  仕事率は・・・ 12 ÷ 4 = 3

 ポイントは、数字ではなく単位です。Jをs(スモールエス)で割ると、J/ s(ジュール割るスモールエス)になり、それはW(ワット)と等しいことです。数値はそのまま、単位だけを置き換えれば良いことを示します。

練習問題その1
(1)2N、6m、4秒の仕事率は?

  まず、
  仕事は・・・  2N × 6m = 12J(12Nm)
  だから、
  仕事率は・・・ 12J ÷ 4s = 3W(3J/ s)

 この単純作業を数回繰り返します。わずかな変化を加えながら、同等ともいえるレベルの問題を繰り返します。1回めは不安でも、2回目で「そうなんだ」、3回目「なるほど」になります。子どもの順応性の高さは、先生の想像を超えています。


上:仕事率の練習問題3問

仕事率の練習問題3問
(1)2N、6m、4秒・・・(2N×6m )÷4s = 12J÷4s =3J / s =3W
(2)500g、4m、2秒・・・(5N×4m )÷2s = 20J÷2s =10J / s =10W
(3)240J、1分  ・・・ 240J÷ 60s =4J/ s =4W

 本校の生徒は理解度が高いので、以上3問で終了しましたが、生徒のレベルに合わせて練習問題を追加してください。以下に、低いレベルのメニューを紹介します。

理解度が低い場合の練習問題
(1)2N、6m、4秒・・・3W

(2)4N、6m、4秒・・・6W
(3)5N、6m、4秒・・・7.5W
(4)300g、4m、2秒・・・6W
(5)500g、4m、2秒・・・10W
(6)1kg、4m、2秒・・・20W
(7)1.5g、4m、2秒・・・25W
(8)240J、1分  ・・・4W
(9)240J、2分  ・・・8W

(4)仕事・仕事率・時間の関係を図示する(3分〜5分)
 小学校で学習した『距離・速さ・時間』のように、三者の関係を三角形に配置します。教科書によっては円に配置しているものもありますが、 (6)〜(8)のような発展的思考につながらないので、三角形にしてください。(教科書を出版されている皆様、よろしくご検討ください)


上:仕事・仕事率・時間の関係図

仕事・仕事率・時間の関係図のポイント
(1)距離・速さ・時間(上図右)を参考にする
(2)名称(上図左)と単位(上図中央)に分ける
(3)三角形の左下に、割り算の形のものをおく
(4)(3)の位置は速さ仕事率が入る
  速 さ(距離÷時間)(km / 時
  仕事率(仕事÷時間)(J / s )
(5)仕事率の単位『J / s』を『W』にかえる
※中学3年生は速さ(m / s )とするべきであるが、あえて、小学校5年の速さの単位(km / 時)とした


上:黒板に発表する生徒2人

(5)2年生の復習:電力、オームの法則を図示する(3分〜5分)
 2年生の復習です。電圧・電流・電圧の関係、および、オームの法則を(4)と同じように図示します。


上:電力、オームの法則の関係図

電力、オームの法則の関係図のポイント
(1)名称単位の図に分ける
(2)三角形の左下には、割り算の形になるものをおく
  ・オームの法則は、抵抗が『割り算の形』になる
  ・電力関係図には、『割り算の形』がない

関連ページ
熱量(calとJ)について(2003年)

(6)(5)の2つの三角形を合体させる(1分〜3分)
 はじめに教科書出版社の方へのお願いですが、(6)〜(8)の内容は掲載するべきではありません。理由は、現在の教科書の多くは内容が精選されてないからです。現在240ページあるものを180ページにできたら(週3時間の場合は150ページ)、逆に、掲載をおすすめします。なぜなら、単位は物理学において根幹をなすものだからです。子どもたちの発達段階に合わせた単位、公式、計算式を骨格の1つにすえた編集をされれば、日本の物理学は大いに発展するだろうと思います。

 また、(6)〜(8)内容を一般公開するのは、世界で本ページが初めてだと思います(2018年6月23日)。知的財産を共有しましょう。下図右端の図形です。


上:オームの法則に電量を合体させた図

 この図と出会ったのは、本校に赴任した8年前(2010年)のことです。私よりも頭脳明晰な中学生に教えてもらいました。それ以来、電力(W、ワット)を教えるたびに紹介しています。ポイントは、W(ワット)が斜めになってることです。オームの法則を『基準』として電圧(V)と電流(A)を見ると、それらは斜めになるので、それらを掛け合わせた電力(W)も斜めにします。ワットを斜めに書ける子どもは、図形の意味を正しく理解しているといえます。

 「電力とオームの法則ができたところで、問題です。この2つを合体させてください」

 「実は、昨年、私は2年生の君たちに教えたのですが、つまり、先生が受け持った人は全員知っているはずですが、覚えているかなあ。・・・言われてみれば簡単なことですが、とても高度な考え方、無限の可能性・発展性がある考え方です。覚えている人は手を挙げてください! ・・・おっ、5人手が挙がりましたね。だれか、黒板に書きにきてくれませんか? ・・・(A君の腕がすっと伸びる)・・・では、A君お願いします。・・・(A君が板書する)・・・さすがです。Wが斜めになっているので、完璧に理解していると思います」

 「ワットが斜めになっているのは、こんな感じで(先生は体を右60度に傾けて、VとAが水平になるようにして、そのままの角度でWを板書して)こんな感じで、VとAをかけ算するとWができるので、ワットは斜めになっているのです」

(7)仕事と仕事率と電力を合体させる(5分)
 
(6)ができれば、比較的簡単に、以下の図形ができるはずです。が、このような思考経験がない子どもにとっては(大人もですが)、とてつもなく難解であることも忘れないように指導してください。子どもによって、大きな差があることを十分に理解した上で、端的かつ明快に確認てください。くれぐれも、先生自身の自己満足にならないようにご注意ください!


上:仕事率(電力)と仕事(電力量)の関係図

仕事率(電力)と仕事(電力量)の関係図のポイント
(1)s(秒、時間)とJ(電力量、仕事)を正立させる
(2)仕事と仕事率電力量と電力、をそれぞれの色で統一

Taka先生のつぶやき
 上記(2)のように仕事と仕事率電力量と電力は、それぞれ対応させることができます。このようなシンプルな図形にすれば、すっと理解できるはずですが、実はほどんどの子どもが混乱しています。もちろん、図形にしてもしなくても大混乱の様相です。その原因は明確です。名称が悪いのです。改善策として、以下の名称を提案します。ご検討ください。

 仕事量と仕事率電力量電力

 このように対比させれば、子どもの理解は大きく進むでしょう。

(8)さらに、いくつかの公式を合体させる(5分)
 
ここから先は、子どもたちに実力に合わせます。先生から提示することなく、子どもに任せてください。何も出なかったら、潔くあきらめてください。

 三角形の組み合わせは無限です。合体方法はいくつもあります。三角形ではなく、四角形やその他の形を組み合わせる子どももいます。先生以上の発想が飛び出してきたなら、ほめ讃えてください。それと同時に、先生の指導力は無限に高くなったと自負してください。もし、生徒の考えが理解できなくても大丈夫です。生徒が先生の代わりに、他の生徒に解説してくれるでしょう。教室は、互いに教えあい高めあうための場所です。

 「みなさん、A君に書いてもらいます。黒板に注目!」

 「ポイントは最終的な答えではありません。A君が何を考え、何を、どのような順序で書くかです。どこで迷い、どのようなスピードで書いていくのか注目してください。みなさに見て欲しいことは、A君の頭脳です。先生も非常に興味があります。素晴らしい彼の頭脳が、どのような動きをするのか、みんなで黒板LIVEを楽しみましょう」


 「A君、ちょっとここで、どんなものができたのか、みんなに見せてあげてください」
と指示し、大脳を休ませたり思考時間を確保させたりする。

上:A君による黒板LIVE

 「拍手!」

(9)本時の感想、考察 (5分)


上:A君の感想


授業を終えて
 机間巡視すると、(8)でとても複雑な形を考えている生徒が何人かいました。正しい部分と間違っている部分が混在したものです。今回クラス発表はしませんでしたが、時間がたっぷりあるなら、希望者に発表させると学級全体の理解度が劇的に上がると思います。

note:生徒と先生の会話
 「A君、ちょっと待って!」
 「え」
  ・・・ぱち
 「 写真掲載しても大丈夫だった?」
 「はい」
 「ありがとうございます!」
 「じゃあ、もっといい写真とります」

note:

 子どもたちに「君の勉強効率はどうですか?」と質問すると、一様に「低い」と答えます。なぜ、低いと答えるのでしょう。それは勉強についてほめれた経験が少ない、自分に自信を持てないからです。その責任は私たち大人にあります。では大人が悪いのか、というと、私はそうではないと思います。その背景にある効率主義、営利追求の資本主義が原因のように思います。江戸時代の庶民は貧乏であるにもかからわず心豊かで礼儀ある生活をしていた、と聞いています。国家レベルの問題だと感じています。

 日常生活において、仕事率という考え方は重要ですが、それ以前に『仕事』の内容を考える方が重要です。

 私たち大人は『どんな仕事』を目標としているのか明確にする必要があります。効率、金、社会的地位でしょうか。私は大多数の人が無意識のうちにそれらを求めているように思います。底なしの欲望、金や権力を目標にしている限り、心の平和は遠のくばかりです。当然、子どもの小さな成果や目標達成をほめることもできない人になります。

 私が大人になる子どもたちに見つけて欲しいことは、『生涯の仕事』です。本当に自分がやりたいことです。仕事の種類は何でもかまいません。

 他人に迷惑をかけずに自分がやりたいことをやる。

 自分がやりたいことを仕事にできれば、時間と無関係に楽しく働くことができます。すべてが自己実現という目的のための活動であるだけでなく、結果です。すべての瞬間が楽しい、仕事率という概念そのものが成立しない生き方をして欲しい、と願っています。もちろん、私自身もそのような生き方がしたいと思っていますし、今、こうしてキーボードを打ってる瞬間も楽しく、このページが完成した瞬間も同じように楽しい瞬間であり、完成した後に「次は何をしようか」と思う瞬間もまた同じように楽しい時間です。充実した時間を作ること、それが私の仕事であり、このページを読んでいるみなさんがワクワクしてくれるなら、それが私の最高の仕事であり最高の幸せの1つです。

 

実践ビジュアル教科書『中学理科の物理学

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