このページは『Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第2章 How to 授業

3 指導案の書き方

─いくつかの指導案を模写してみよう─

1 基本的な姿勢
 基本的に、あなたのオリジナリティーは必要ありません。指導案の形式は、教えられた通りで十分です。単元の意義など壮大な内容は学習指導要領(文部科学省)、指導案例集(各教育委員会)、指導書(教科書の出版社)、その他インターネットに掲載されている指導案をアレンジすれば十分です。大切なのは、目の前の子どもですから、その実態を加味して、少しだけ変更して下さい。ただし、本時の指導だけは、頑張って下さい。地域の特色を活かした授業、生徒1人ひとりの個性を活かした授業を計画して下さい。
※他人の著作権を侵害しないように注意し、出典や参考にした資料、文献を明記して下さい。

2 形式
 指導案には絶対的な形式があるわけではなく、その時代の流行、その時の責任者の嗜好によって左右されます。したがって、情熱溢れるあなたが不満に思うことがあっても、若手教師はその時代の形式に合わせなければなりません。今、私が指導案を書けば時代遅れなものとして笑われるか、独創的すぎて受け入れないでしょう。私が教員になった時と、今の形式はかなり違います。

 形式は、あなたが選んだ先輩の丸写しで良い、と思います。たくさんの先輩の指導案を写し、それを実践するうちに、子ども達が見え、生かせるようになるでしょう。これを繰り返すうちに、あなたと先輩の違いが見え始め、あなたの個性が自然に現われてくるでしょう。したがって、初めは丸写しで十分です。どんどん真似して下さい。優れた子どもは、優れた先生を見抜き、その姿を真似ることから始めます。あなたも子どものように成長して下さい。

 また、優秀な指導者や上司は、子どもを観察した量と質で指導案を点検してくれるでしょう。

3 指導案に必要な項目
(1)表題(副題)

 2008年現在は『@@学習支援案』、『@@学習プログラム案』ということもありますが、『2年3組理科学習指導案』のように書けば十分です。あなたが生きている時代に合わせて下さい。

 私が指導案のを書くなら、表題は『1日の星の動き ─360度(日周運動)+1度(年周運動)=361度―』のように、ある1時間に焦点を絞ります。そして、その目標に到達するための準備、実態調査、方法、予測、結果の分析方法などを書きます。
※実践例『星の1日の動き(年周運動)(3年)2004年』←指導案ではありません

(2)指導者
 『名古屋市立東港中学校 教諭 福地孝宏』のように、先生が勤務されている学校名と氏名を書いて下さい。氏名のあとに押印すこともありますが、貴重な時間を無駄にしないように気をつけて下さい。日本の伝統を守ることは大切ですが、現場教師は目の前の子どもを優先させて下さい。
(3)指導の日時、場所
 『2008年1月2日 第3限(10:45-11:45) 東港中学校 第1理科室』のように、授業を行なう日時と場所を書きます。あなたの勤務校と違う場合は、それも明記して下さい。
(4)単元名
 『私たちの宇宙』のように、使用している教科書の単元名で良いでしょう。教科書でいけないと言われた場合は、学習指導要領(文部科学省)、指導案例集(各教育委員会)に合わせることになると思います。そのように指示された場合は、その他の項目についても、同じように合わせて下さい。頭を痛める必要はありません。機械的に写して下さい。
(5)理想的な単元
 この部分は難しいので、先輩の考えを丸写しにするぐらいの勢いで書いて下さい。現場経験が乏しいあなたの理想は、空想や妄想になる危険性があります。このページの冒頭で示した基本的な姿勢の通り、本当に必要なのは、次の(6)『子どもの実態』です。この部分に十分な時間をかけて下さい。
(6)子どもの実態、対象(クラスの実態)

子どもの実態の項目

1)クラスの人数
 30人と40人学級で同じ指導案で授業を行なうことはできません。
2)男女の構成比
 
男女平等とはいっても、実際の授業において性別を無視することは無策に等しいです。
3)授業のキー・パーソンとなる生徒について説明
 関連ページ『
五月蝿い生徒を活かす
4)学校の学力レベル
 ※例えば、国立教育大学の付属中学校が作成した指導案は、一般の公立中学校で使えません。
  関連ページ『
学校の特色』『授業のレベル設定』
(7)実態に応じた『単元の目標』
 (5)と(6)がしっかり書ければ、この(7)は自ずから書けてしまうことでしょう。繰り返しますが、(5)にオリジナリティーは必要ありません。いろいろな資料をしっかり調べて下さい。(6)はあなたの目の前にある現実です。しっかり観て下さい。現場をしっかり観る目を持つことが現場教師の第1の仕事です。
(8)特に指導したいポイント
 先生が指導したい山場を書いて下さい。はっきり申しますと、その他の部分は丸写しで構いませんが、1つの単元について、1つは山場を作って欲しいと思います。これは別ページ『』でも説明したように、ポイントを作ることによって、学習の目標がはっきりするだけでなく、その他の部分の役割が明確になるからです。(現実は無理ですが、)生徒が単元の構成を十分に認識できるなら、ある1時間は基礎練習だけ、ある1時間は発表だけでも良いのです。
(9)単元の構成(指導計画)
(10)本時の目標
(11)本時の指導計画(予想)

 この部分は大切です。各教科によっていろいろな形式がありますが、あなたを指導してくれ先生の形式にしたがって書いて下さい。主な形式については、このページの下に示したのでご覧下さい。

 また、次のA〜Fも記述して下さい。

A 生徒数、学習単位と座席表
 (ア)生徒数(男女別)
 (イ)個別か、班単位(目的別、任意、男女別、番号順など)か、一斉か

B 準備するもの
 (ア)チョーク、教科書、資料集、この指導案
 (イ)DVD
 (ウ)ビーカー、水

C 板書案

D 授業の評価方法

 この項目を設けている指導案は、あまり見かけません。しかし、授業を反省してよりよいものにするためには不可欠だと思います。この反省の資料として必要なのが、子どもの達成度です。ただし、子どもの評価は目的ではないことを間違えないで下さい。2007年現在の指導案は、子どもの評価方法を細かく設定してありますが、その目的が曖昧です。もし、子どもを評価することが目的なら、それは本末転倒だと思います。子どもを評価する目的は、先生の授業を評価することです。子どもの評価ではありません。素晴らしい授業を展開すれば、全ての子どもが合格、通知表なら『5』、観点別評価もオール『A』です(2007年現在、名古屋市)。そのようにならないのは、先生の授業レベル設定が子どもの実態に対応し切れていないか、指導方法が未熟だからです。

E 生徒の観点別評価規準
 2007年現在、かなり詳細な規準づくりをしていますが、実際の現場で不可能なことをしようとするのは有害です。あなたが実際にできる範囲で規準を作って下さい。必要なことですが、必要以上のことをしてはいけません。前にも述べたように、子どもが規準をみたせないのは、先生が原因です。

F 資 料
 (ア)教科書、副教材、学習プリント
 (イ)抽出生徒の実態

(12)ご高評

 ここは、あなたが書くものではありませんが、スペースを用意しておくことは重要です。また、あなたが特に指導したい内容がある場合は、その点について項目をおこして下さい。

 (ア)本時の授業結果
 (イ)本時の授業の考察
 (ウ)今後の課題

4 本時の指導計画

時間 内 容
(学習過程)
教師の活動
(説明、発問、指示、板書など)
(準備するもの)
生徒の活動

生徒の意識
(さまざまなレベル別)
備 考
(留意点、評価など)
5分 導 入 (1)本日の授業内容を紹介する
 ・目標は何か
 ・どようにして目標に到達するか
 ・時間配分はどうなっているか
 ・重要ポイントは
 ・盛り上がる面白いポイントは
 ・難しいか簡単か
 ・教科書は何ページか
・基本的に、黙って聴く ・今日は「それ」をやるんだ
・まあ、ふつうの内容だな
・面白いところもありそうだ
・教科書は2ページだね
・生徒が食いつき、思わ
ず先生に話し掛けたり、
質問してきたり
するよう
なら最高の状態である。
その場合、生徒の発言を
拾って、関心意欲を最大
限に引き出す
35分 展 開 (1)教科書を読ませる
(2)重要語句をチェックする
 ・教科書に下線をひかせる
 ・教科書や資料集で説明する
 ・ノートにまとめる
 ・語句に関連することをまとめる
(3)本日の目標に迫る
(4)生徒の考えを発表させる
(5)それぞれの考えについて、意
  見交換させる

 この部分は、地域と子どもの実態をよく観て、計画して下さい。
 もっとも大切で、ワクワクする部分です。

8分
まとめ1 (1)生徒の考えをまとめる ・黙って聴く ・なるほど、先生の言う通り
・これは重要だから、しっか
りまとめて復習しよう
・生徒が声を出すような
ら、展開部での議論が不
十分な失敗授業
まとめ2 (1)各自が、自分の考えをまとめ直しているのを見守る ・友達の考えを聴き、さらに1歩踏み込んだ自分の考えをまとめる ・友達は自分の考えと違うけれど、それも間違っていないし、素晴らしい ・多角的な視点、新しい考えを自分のものにするように促す
2分 次時の予告 (1)次の授業内容を紹介する
 ・家庭で準備するものは
 ・復習しておくことは
 ・予習しておくことは
・基本的に、黙って聴く ・次の時間も面白そうだ
・どんどん深みにはまって、
・生徒が食いつき、思わ
ず先生に話し掛けたり、
質問してきたり
するよう
なら最高!

5 おわりに
 指導案は、その指導案を見れば誰であって指導できるように書かなければならない、と言われています。私もその通りだと思いますが、本当に目の前にいる子どもを対象にして作られた指導案は、2度と使うことはできません。同じ教師であっても使えません。なぜなら、子どもは常に変化しているからです。優れた指導案は、その1回の授業のためだけのために作られたものです。

 若い先生は、生きた授業をすることだけを心掛けて下さい。指導案は必要ですが、授業が始まったら『案』は捨てて下さい。現実を優先させます。私はよく海外旅行をしますが、どんなに精密な計画を立てても、現地の事情によって変更を余儀なくされます。辺境の地では、土砂崩れでバスが走れなかったり、国境が閉鎖されていたり、、、そんな時、自分の計画を押し通すことはできません。大切なのは、入念な計画と同時に、何ごとにも対応できる柔軟な心です。授業の現場においていは、子どもの心の変化を見抜く鋭さと、それに対応する柔軟性の他に、細かな教育技術、事前の教材研究が要求されます。

2008年1月2日


2004年10月8日の手記
 新人教師に個性ある指導案を求めるのは間違っている。何のオリジナリティーもない100種類の指導案を手書きで書き写させる方が、どれだけ効果があることか。私は20年目にして基本に忠実になってきたし、基本の大切さが分かってきた。文部科学省が全ての指導案を示し、次に、各自治体の教育委員会が全ての指導案を示せばいい。個性は基本の上に成り立つから、現場での経験がない新人に、机上の指導案で膨大な時間を消費させるのは、教育現場の荒廃を招くだけである。どうしても指導案が必要ならば、指導室などで専門に研究している人々が、全教科、全単元、全授業について細案を書けば良い(学力格差がないというなら、基本的な1つの指導案でよい)。新人教師は、その指導案にそって1年間授業を行えば、ある程度の力量を備えることになるだろうし、自分の個性や生徒の実態にあった指導案を書けるようになる。私自身の経験に照らしあわせても、外部の人を満足させる指導案が書けないのは自分の責任ではないと感じている。新人教師の教育カリキュラムにもあると思う。

 一方、指導案の書き方にも流行があり、2004年現在は『評価規準』がクローズアップされている。しかし、私は、学力を細かく分析し、ランク分けすることを好まない。学校や授業の目的が、数値化できる学力の向上に偏る危険性があるからだ。数値による評価は、人間を管理する者の発想なので、私は戦争を起こそうとしているのではないかと強く懸念している。

 指導案は、時の指導者を満足させるものであってはいけない。

2005年sep05
 どんなに立派な授業案であっても、その通りに実践できるわけがない。また、立派な指導案であればあるほどできない。例えば、ダビンチの有名な絵を模写することを考えてみたまえ。立派な指導案の通りに書けば、本当に際どいところまで近付くと思うし、輪郭も外形も色の深みも同じようになるだろう。写真でとったり、遠くから眺めるだけなら、本当に同じようなものになるだろう。しかし、一番大切なものは忘れてしまっている可能性が高い。ダビンチとダビンチのモデルの心、そして、それを模写する人の心だ。もちろん、立派な指導案の根幹は心になっているはずだから、すぐてれたものなら外見は全く違っても、同じ心を伝える絵画を完成させることだろう。

 しかし、教育は直接生きている相手がいる。相手によってのみ成立する活動である。ということは、絶対に相手の個性と教えるものの個性がぶつかりあわなければ成立しないものである。相手に個性があり、教えるものが画一されているなんてあり得ない。

note
・評価の目的は、教師自身をチェックして、授業内容や方法を修正することにある。
・個々の生徒について調べた方が良いに決まっているが、実際の授業においては不可能である。全体の流れをみて授業の方向を決めていくしかない。

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(C) 2007 Fukuchi Takahiro