このページは『Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第2章 How to 授業

8 骨格となる先生の言葉

─ 一語一句を疎かにしない ─

 授業は先生の言葉に始まり、先生の言葉に終わります。当たり前のことですが、無言で始まったり終わったりすることはありません。そして、日本国の授業は日本語で覚え、日本語で思考します。先生は言葉を選び、責任を持って話して下さい。これは国語だけでなく、全ての教科に共通することです。義務教育はすべての事象を言葉に置換えて学習する、と考えることができます。

 さて、このページは、私が2008年6月20日に行なった理科の授業実験11 2つの水を混ぜる2008年、3年物理学の言葉を、ほぼ完全に記録しました。この授業は実験が中心なので、私が話した時間は15分に過ぎませんが、それらの言葉の背景を読んで下さい。私の軽いノリや、その場の空気や雰囲気を言葉に置き換えているところにも注目して下さい。

 できれば、下の黒文字の言葉を声に出して読んで下さい。以下の記録は、実際の授業でそのまま使える話し言葉として、句読点まで留意してあります。なお、音読する時は、大きな声を出してはいけません。大きな声は睡眠を阻害したり大脳を傷つけたりするだけです。行間を読み取り、言葉の意味に合った声の大きさ・音程・音色、スピードを考えてながら練習して下さい。魅力的な語りができるまで、繰り返し練習してみましょう。
→ 関連ページ『普通教室での話し方

先生の語り、生徒との会話の内容
 授業の1番初めに話すこと(1分)
 気分を変えて、次に話すこと(30秒)
 筆記具を持ち、書きながら考えさせるために話すこと(3分〜4分)
 カロリーを計算して、温度を求めるための練習(3分)
 頭をリフレッシュさせ、理論と実験(体験)を直結させる(30秒)
 実験手順やテクニックは、詳細に鮮やかに丁寧に演示する(3分〜4分)
 実験開始から5分以内にかける言葉の例
 実験開始から5分後にかける言葉の例
9 
実験開始から5分以降にかける言葉の例
10
 終業10分前にかける言葉の例 (10秒)
11 授業のまとめ、あるいは、深い考察(1分)
12 
終了のあいさつ(10秒)

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1 授業の1番初めに話すこと (1分)
 「今日は、2つの水を混ぜる実験をしましょう。100gと200gを混ぜたら300gになる、という簡単な実験ですが、温度も同じように足し算できるのか、確かめてみましょう。授業は前半と後半に分かれます。前半の10分は練習問題です。それは、後からやる、みなさんの実験結果が正しいかどうかを、計算で調べるためです。まあ、5℃と10℃で、15℃になるか、それとも2つの間になるか、それとも、もっと違う温度になるのか、という話です。これができたら、後は実験です。正確な実験なら、みなさんの実験結果と理論値が一致するはずです。(ここで、ビーカーに入った氷を手に取り、)今日はあいにくの小雨模様の天気ですが、氷を使って涼しげな実験を楽しむことにしましょう」
解説:授業の初めに生徒が望むことは、これから始まる1時間の様子を掴むことだ。初めての町を散策するとき、何の当てもなくさまよい歩くのも楽しいが、小高い丘に登って、町の全貌を見渡すのはとても気持ち良い。町の中心に位置する高い建物、緑溢れる公園、それらをつなぐ道路を見れば、町の散策もより一段と楽しくなることだろう。授業も同じように、手際よく、1時間の流れを生徒に説明しよう。あなたは、これから始まる授業のガイドなのだ。このとき、生徒を驚かせる必要はない。どんな町にも授業にも、中心となるものがあるから、それを正確に説明するだけで良い。それ以上のことを付け加えると、町や学習内容そのものの楽しさを邪魔する可能性だってあるのだ。町の散策や授業は、こそを歩いたり調べたりする本人が、つまずいたり発見したりするから、楽しく有意義なものになる。

2 気分を変えて、次に話すこと (30秒)
(約10本の温度計をワシづかみにして)「では、手始めに温度計について確認しておきます。今日は温度を測定する実験ですからねえ、、、(温度計を1本ずつ読みながら)この温度計は、27.1℃。これは27.0、これは27.2、これは27.1、これは27.0、ということで、この部屋の温度は27.1℃になりましたが、1本600円程度の温度計では、0.2-0.3℃の誤差は必ずあるので、ほどほどの正確さで十分です。ただし、目盛は正面からじゃないと、0.5℃は簡単に間違うので、必ず正面から読んで下さい。これはかなり重要です」
解説:本来、温度計の読み方は『実験手順』のとこで話す内容である。しかし、実験を始める前には、もっと重要なことを確認・説明しなければならないので、簡単な内容は授業中に分散させた方が良い。この授業では、温度が鍵を握っているので、私は温度や温度計について興味を持たせるため、授業の冒頭近くにこの操作を配置した。ほとんどの生徒は、私の正しく正確で手際よい計測、そして、すばやい平均の取り方に「あっ」、あるいは、「はっ」とし、自分も同じように温度計を手に取り、測ってみたいという欲求にかられたことだろう。簡単なことであればあるほど、かっこ良く正確に決めるのがプロの仕事だ。先生がジェームズ・ボンドのように決めれば、生徒はいまさら何でと考える暇もなく、「温度計によって温度が分かる」ということ驚くことだろう。これが生の授業でしか味わえない、知的高揚感である。

3 筆記用具を持ち、書きながら考えさせるために話すこと (3分〜4分)
 「では、次に簡単な練習問題を2つやりましょう。みなさん、プリントを見て下さい! 空っぽのビーカーが3つ印刷※1してあるので、初めの2つに水を100mlずつ入れて下さい。(黒板に素早くビーカー3つを板書し、初めの2つの中央に線を引き)はい、こんな感じで半分ぐらい水を入れて下さい。ビーカーいっぱいに入れると、混ぜたときに溢れるので、200mlビーカーのイメージでお願いします(ここで、3つめのビーカーの上部に線を引く)。ところで、水の密度は1g/Dなので、水の場合、体積『 D や ml 』と質量『 g 』は同じで良いこと※2を確認しておきます。先生は、これから「グラム」という言葉で授業をしますが、実験するときは「ミリ・リットル」でやって下さい! では、問題! 100gと100gを足すと、いくらになりますか? A君! (A君が答えてから、)はい、そうですね。200gです※3。では、温度はどうなるでしょう? これは難しい問題なので、皆さんに質問します。27℃と5℃を混ぜると、何℃になりますか? (生徒の反応を見て、)えっ、3人しか分からないのですか! 仕方ありませんね※4。じゃあ、3人全員に答えてもらいましょう。では、左から右へ、B君、C君、Dさんの順に連続して答えて下さい※5。はい、B君! (B君が16℃と答えたらすぐに、)C君! (C君が16℃と答えたらすぐに、)Dさん! (D君が16℃と答えたら、)ということで全員正解なんですが、その計算方法は先生が説明します。ま、27と5の平均は16だから、16で良いような気もしますが、、、(次の式を板書しながら、)27+5=32、32を2で割って16で答えが出たのですが、これは、たまたま2つの水の量が同じだったからです。次の第2問は、水の量を変えますので、それが解けるように熱量で計算する方法を紹介します。まず、100g、27℃のビーカーの水の熱量を計算すると、Dさん※6、いくらですか? (Dさんが答えに困っているときに、)突然当ててすみません。ちょっと復習しておきますと、(以下を板書しながら、)1g、1℃で1カロリーだったので、100g、27℃なら何カロリーになりますか? もう一度、Dさん! (Dさんが2700カロリーと答えてから、)そうですね、2700カロリーになります。では、100g、5℃はいくらですか。E君! (E君が500カロリーと答えてから)はい、正解です。ということで、2つを混ぜると、2700カロリーと500カロリーを足せばいから、、、Fさん! (Fさんが3200カロリーと答えてから、)そうですね、3200カロリーになります(ここで、計算式2700+500=3200を書く)。ここまで計算できたら、水の量200gと、熱量3200カロリーから、温度が計算できる訳です。つまり、(次の計算式を書きながら、)3200÷200=16。つまり、16℃になるわけです」

※1 ビーカーなど印刷しておいても仕方ないように思うが、私が印刷しておいたビーカーの大きさや配置は、この先、生徒の模範となる。もし、印刷しておかなければ、生徒はとても小さなビーカーを書いてしまい、水の量をイメージできない絵を書くことになるだろう。もちろん、ビーカーの大きさを口頭で説明することもできるが、こんな簡単なことに、私の言葉を聴くという集中力を使わせる必要はない。
※2 密度について、わざわざ説明する必要はないが、よく学習している生徒にとっては、気がかりな問題なので、一言触れておくべきだろう。だたし、本時の目標から外れている密度は、板書する必要はなく、むしろ、してはいけないことである。口頭での補足説明にとどめ、興味関心がある生徒だけが、ノートにメモする内容である。もちろん、この部分が理解できない生徒もいるので、できなかっかとしても何ら問題がないことも押さえること。
※3 とても簡単な問題なので、わざわざ生徒に質問するまでもないが、生徒に質問することで生徒全体の集中力が高まる。この問題は、100+100はいくつ? という大変簡単な問題なので、クラスの中でもいつも答えられない生徒を先生が指名すると良い。その生徒が、きっぱりと正解を言うことで、その生徒は大きな自信を持つことだろう。その他の生徒は、自分が突然当てられた時、答えられなかった大きな恥をかくことになると思い、私の説明により集中することになる。
※4 前にA君を指名してなければ、あるいは、A君が間違った答えを言っていれば、もっとたくさんの生徒が手を挙げたと思う。手を挙げない生徒でも、半数以上は、平均の16が正解だと思っているだろう。この場合、自信がなくて手を挙げられないだけなのだ。これが授業の流れというもので、同じようなことは、教師の表情、発問でも起こる。
※5 私は最近、生徒を連続して当てる方法が気に入っている。授業に勢いがでるだけでなく、たくさんの生徒が発表できるからだ。今回は全員同じ答えを発表したが、難しい問題についても同じように発表をさせる。この時のルールは、前に発表した友達と違っていても、自分の答えを発表させる。もちろん、自分の順番になって、「まちがっていました」と発表してもよい。それはそれで、授業に集中力を与える意味で、十分な価値がある。
※6 ここで指名するDさんは、理科や数学が得意ではない生徒から選ぶ。なにしろ、してもらう計算は、100×27=2700なので、絶対にできるからだ。しかし、Dさんを含め、クラス全員は、掛け算すれば答えが出て来ることを忘れている。そこで、「突然当ててすみません!」と謝罪した上で、「1g、1℃で、1カロリーだったから、」と板書しながら丁寧に復習する。これでDさんは何のヒントもなく正解を発表できるので自信をもつことになり、その他の生徒は復習していなかった自分を戒めることになる。復習が必要でない生徒は、教師が板書してもノートに書かないはずだから、どれだけの生徒が「はっ」として鉛筆を動かしているか観察してみると良い。
解説:この問題の数字設定は重要である。上の説明では、教室の室温27℃と5℃を使って説明したが、1つ前の時間の授業では27℃と10℃を使った。この差は非常に大きい。なぜなら、前者の答えは16(計算式(27+5)/2)、後者の答えは18.5(計算式(27+10)/2)、になるからである。一番初めは、直感で分かるような簡単な問題がよいので、もっと洗練させるなら、12℃と4℃のような組み合わせが良い。ただし、その時の教室の室温を使いたいので、事前に調べておき、どんな数字の組み合わせが良いか、クラスのレベルに合わせて考えておくと良い。小数点を入れた難しい問題の方が適しているクラスだってあるのだ。ただし、それは理科教師の責任の範囲外なので、踏み込むべきではない。私にはやらなければならない涼しげな氷を使った実験がある。

4 カロリーを計算して、温度を求めるための練習
 「では、第2問! 水の量が違う問題です。これができたら実験なので、頑張って下さい。さっきとほとんど同じです。(黒板に図を書きながら、)1つは100g、1℃、もう1つは200g、2℃です。プリントに書けましたか?※1 問題は水の量ではありませんよ。水の温度ですよ。水の量は100gと200gでオシマイですからね※2 、、、。では、制限時間1分で、正解が出た人にはボーナス得点を差し上げます。解けた人は、黒板にところにプリントを提出しなさい。チャンスは1回、班で相談しても良いですが、エントリーは個人単位です※3。では、始め!」 (先生、どこまで求めるんですか? という声が飛んだら、「適当なところで四捨五入して下さい」と答える) (しばらくすると、20人ぐらいが押し寄せてくる)
 「あ、プリントに名前の書いておいて下さいね。エントリーする人は、机に並べて下さい。あと、20秒で締め切りです。・・・・・・・・・後10秒、・・・・5、4、3、2、1、0。はい、締め切りです。今、机の上にあるものだけにします。後ろに立っている人は「さようなら〜」※4(正解者のプリントだけに合格印を押して、)それでは、自分のプリントを持ち帰って下さい。正解は1.7℃、または、1.67℃でした」
 「ここで、解き方を確認しておきます。説明はこれが最後なので、よく聞いて下さい。1つめのビーカーの熱量は、100g×1℃=100カロリー、もう1つは200g×2℃=400カロリーです。2つを混ぜると、100+400=500カロリーです。また、水の質量は100+200=300gです。したがって、500カロリーと300gから温度が計算できますよね。足し算かな? 引き算するのかな? かけ算かな、割り算かな、どれかな? 、、、F君! (F君が割り算と答えたら)正解です。(次の式を板書しながら)500÷300=1.6666666になりますから、適当な位置で四捨五入して、1.7か1.69を正解とします」

※1 私が何も言わなくても、生徒は印刷したビーカーのすぐ下に、同じような大きさで書いている。
※2 ここで、教師が「100+200=300ですね」と言ってしまったら、問題は台無しである。「100gと200gでオシマイですね」と言うから、生徒は『自分で足し算をした』つまり『1つのステップをクリヤーした』という実感が持てるのである。この先残されたステップは、2つのビーカーのカロリー計算、それらの足し算、最後に、小学4年生レベルの割り算が1つ待っているだけである。
※3 生徒は、はっきりとした形で認められることが大好きである。とくに、それが得点に直結するとなると異常な興奮を覚える。授業中に、この手法で生徒の理解度を確かめることは、次の授業展開を修正するために多いに役に立つ
(関連ページ合格印で誉めたたえよう。もちろん、後日、生徒個人の能力を評価するためにも役に立つ。こうした方法を使ってよいのは、その授業の中で教師が十分な説明を行い、授業の終わりには、生徒全員が正解になることを想定している場合である。
※4 せっかく正解を持ってきた生徒には可哀想な気もするが、時間をきっちり守ることは大切である。さもないと、1秒が5秒になり、それが10秒、20秒になり公平さを失うばかりか、授業の目的さえ失ってしまう。あくまでキッパリ、帰ってもらおう。その時、「さようなら〜」と手を振り、最高の笑顔を持ち帰ってもらうことを忘れずに。。。それが生の授業の楽しさである。また、制限時間が短くて誰も来ない場合は、全員に時間を延長することを告げる。訂正するときは、それをくり返すことがないようにすること。生徒の目にはっきり見える修正を何度も加えることは、生徒からの信頼を失う結果になる。私は、生徒が誰も時計を見る余裕がないことを良いことに、1分という時間を勝手に操作している。もちろん、締め切り20秒前を設定した後は、全員にはっきり分かるように声に出し、秒を刻む。あくまでさらりと正確に。
解説:私の予想では、少なくとも10人の正解者を予定していた。しかし、実際は2クラス(70人)で3人だけ! この数字には危機感を抱いたが、これ以上の解説はしなかった。それは泥沼を意味するし、私にはこの他にやらなければいけないことがある。もしかしたら、実験をやることで、この算数の問題が解決するかもしれない。もっと言えば、3人の正解者がいるなら、次の問題では少なくとも10人に増えるだろうし、その10人が同じと班の友達に教えることができるはずだ。理科教師は、実験を使ってアプロオーチすることを最優先にしなければならない。これ以上の時間をかけることは許さない。

5 頭をリフレッシュさせ、理論と実験(体験)を直結させる
 「それから、みんな、ちょっとイメージしてみよう! 計算なんなする必要がないんだよ。もちろん、計算しないと正解は出ないけれど、それよりももっと大切なことがあます。それは温度に対する感覚、直感ですが、1℃と2℃のうち、多いのは2℃だから、平均の1.5℃より高くなるか低くなるか、どっち? 、、、そうだよね。2℃に近くなるだろう。しかも、1℃が100g、2℃が200gだから、どれぐらい2℃に近いと思う? 、、、ん、この辺は感覚を磨く必要があるけれど、それができない人は、さっきみたいに計算してもらって、1.67℃を出して下さい。先生は計算が嫌いだから、感覚で解いちゃうんだよな。みんなもできるかなあ?」
解説:この部分はとくに重要だ。実験はたくさんのことをイメージしながら、具体的な操作をしなければいけないからだ。実験というと、いろいろな器具や物を触るから、とても分かりやすいように思うが、実際は極めて高度な『イマジネーション』を要求している。ぼやっと触っているだけでは、何も分からないし、発見も感動もない。今回の温度もその例外ではなく、考えれば考えるほど、温度をイメージすることは難しい。水の温度とは何か? あなたは答えられるだろうか。冷たい水と温かい水は、いかなる違いがあるのか。温度計は、その違いをいかにして目盛りに刻み、ある数値として示しているのか、あなたは具体的にイメージできるだろうか。私は、『水分子が運動している様子』や『水分子の運動エネルギーがアルコール分子に伝わる様子』を具体的にイメージできるが、これはかなり訓練しなければ無理だと思う。少なくとも、このページよりも何倍もたくさんの紙面を使って、イマジネーションのトレーニングをしなければならないだろう。話が逸れてしまったが、とにかく、実験の目的はイメージする力の育成でもある。私の目標は、50℃と60℃の水を混ぜたら110℃になる、なんて言い出す生徒がいなくなること。そして、50℃の方が多ければ、50℃に近くなる、と直感で答えられるようになることだ。計算はその後で良い。この授業が終わる時に、先の問題で『1℃と2℃を混ぜたら3℃になる』として提出した5人の生徒がいなくなれば良い。

6実験手順やテクニックは、詳細に鮮やかに丁寧に演示する
 「では、いよいよ実験です。水の量も温度も、みなさんは好きにしてもらって良いのですが、良い結果を出すための実験ポイント※1を説明しましょう。まず、氷の溶かし方ですが、(以下実演しながら)300mlビーカーに、水200gぐらいを入れて、それに氷を2、3個入れてかき混ぜます。本当は温度計でかき混ぜてはいけないのですが、今回は、正確な温度を測る、ということで許してらいましょう。ただし、温度計は割らないように上手にお願いします。さて、先生がぺらぺら喋っているうちに、ほとんど氷が解けてきましたが、まだ次の水と混ぜてはいけまん。だって、溶ける前に温かい水と混ぜてしまうと、そこで氷が溶けてしまうからです。それでは今測っている冷たい水の温度が、間違っていたことになりますからね。さて、そろそろ溶けたようなので温度計を読んでみましょう。えっと、(温度計をじっと見つめながら、)14.3℃、14.0℃、13.8℃、・・、13.7℃、・・・※2、あれ、そろそろ下がらなくなってきましたねえ。今は13.6℃、うーんと、今の気温は27.1℃だったから、もしかしたら、そろそろ止まって、逆に上がってくるかも知れませんから※3、もう一度見て、13.6℃ですか。ということで13.6℃にしておきましょう。ところで、みなさん! 温度ばかりに気を取られていてはいけませんよ。水の量も正確にしましょう。今は、ビーカーの目盛を読むと、だいたい、(ビーカーの目の高さに持上げて、ほぼ水平にして)230ぐらいなので、水を足して250にしましょう。その方が、計算が楽になりますからね。もちろん100の方が簡単なので、100にしてもらっても構いません。(と言いながら、水道水を加えて、)あれっ、入れ過ぎちゃったので、ちょっと捨てて(実演して)、これで250mlビッタリです。もちろん、みなさんは実験台に上において、ビーカーを水平して読んで下さい。なお、ビーカーの目盛りの精度は、温度計よりもさらに低く、5mlぐらいは簡単に間違っているので、やっぱり「ささっ」と操作して、目盛りを読むことが大切です。さてさて、ここでもう一度、温度計を読み直さないといけないから、、、(実演しながら)くるくるっと混ぜて、、、温度は少し上がったと思いますが※4、さっきと同じように変化する量と速さをイメージして、、、(温度計を読んで、)はい、15.7℃、250gの水の出来上がりです!! これと同じように温かい水を作ったら、さっさっと2つを混ぜて、さっと温度を読んだら、実験おしまいです。とにかく「ささっ」とやらないと、温度はすぐに変わってしまうので、手際よくやって下さい。温度計は、2本突っ込んだままで良いですよ。それらの平均、2本の中間を答えとすれば、より正確、かつ、素早い実験ができますからね。何か質問はありますか? (挙手がないことを確認して※5、)温かい水は、やかんの中にあります。では、始め!」
※1 私は「良い結果を出すポイント」ではなく、「実験を失敗するためのポイント」を説明しましょう、と切り出すことがある。そうすると、生徒たちに注意力はさらに高まるが、今回は危険な実験ではないので、通常の切り込み方にした。もっとも危険な実験を行う場合は、さらに具体的に、次のように話すと良い。「試験管を爆発させて顔にガラスの破片が刺さって病院に行く方法は、ゴム管を折り曲げておくことです。その状態で試験管を加熱すると、試験管内の気体が膨張し、試験管の表面にあるちいさな傷をきっかけにして試験管が爆発します。そのようなときは、目に入ったら大変なので、ぐさっと刺さるのはホッペタにだけになるように、して下さいね。ただし、どの方向にどれだけ飛び散るかは誰にも予測できないので、危ない状態になったら先生に教えて下さい。もちろん、初めからゴム管を折り曲げないようにすることが最も重要です。先生は、実験を中止して誰かを病院に連れて行ったり、これから先、先生の理科の実験の信用がなくなって全ての実験ができなくなることは嫌ですからね」
※2 先生が見た目盛りを、そのまま言葉にして読んでみよう。つまり、視覚と言葉を直結させるのだ。このとき、初めは同じ時間間隔で読むが、温度の下がり方が遅くなり、その同じ時間内に0.1℃下がらなくなってしまったら、次は、0.1℃下がる毎に読んでみよう。そうすると、生徒は、温度が下がり難くなってきたことを先生と同じように捉えることができる。そして、先生がどのような温度変化を予測しながら、じっと黙って目盛りを見つめているか、先生と同じ気持ちになって体験できるのである。
※3 先生がどのようなことを考えているか、具体的な思考の過程をすべて言葉にしよう。生徒は、先生と同じように思考すれば良いことを理解し、できる生徒は、さらに優れた推測や思考をするようになる。先生ができる思考は、すべて言葉にして伝えなければならない。以心伝心でわかるだろう、などの思い込んではいけない。どんなに簡単なことでも、当たり前だと思うことでも、言葉にして教えなければならない。常識や当然と思われることほど、言葉にして伝えなければならないものである。
※4 ここでも、目盛りを読む前に予測して、言葉に出してみよう。「先生は16℃ぐらいだと思うけれど、、、」と言いながら目盛り読めば、さらに良い。
※5 ここで生徒から質問が出るようでは、先生の説明は失敗である。生徒はやり方のすべてが分かって、すぐにでもやりたくて仕方ない状態でなければいけない。
それでも、一応「質問はありますか?」と問いかけることで、生徒は心の中で「ありません!」と答え、自分に責任をもって質問することなく実験をしようと誓うのである。

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実験開始

7 実験開始から5分以内にかける言葉の例
 (なし)
解説:実験が始まったら、先生は一切の説明をしてはいけない。実験中に大声で指示を出している先生がいるが、それは実験の集中力を失わせ、生徒に混乱を与える効果しかない。先生の説明から開放されたばかりの生徒は、友達と声を掛け合い、実験装置を準備をしたり、目の前にあるものに夢中になっているので、先生の声を聞く耳を持たない。それでも重大事故を引き起こすようなことを発見したら、直ちに実験を中止させ、全員を席に着かせ、全員を教師に方に注目させてから話を始めなければならない。もちろん、このような状況になってしまった授業は、単純な失敗授業であり、次のクラスで再びくり返さないよう、教師自身が猛反省しなければいけない。なお、教師は机間巡視をしながら静かに個別質問に答えても良いが、実験開始直後は、教室の前で全体の様子を見渡し、生徒の動きを観察し、つぶやき声に耳を澄まし、5分後の行う『実験のポイント』の内容と説明方法を錬るべきである。じたばたせず、今後の展開とアプローチ方法をじっくり立てたまえ。
実験の手順:ここで、実験手順を板書するのも悪くない。生徒は単純な実験でも、どんな手順で何をしたら良いのか不安に思うからである。よくよく考えてみたまえ。誰でも一度やってしまえば簡単にできるものでも、初めてのことは不安に思うものである。

実験手順の板書例
1 ビーカーに氷2〜3個、水100gぐらい、を入れる
2 温度計で混ぜながら、全て溶かす
3 水の量と温度を正確に測定する
4 湯も、同じように正確に測定する
5 3と4を混ぜて、温度を測る(実験終了)
6 実験の理論値を計算する
7 実権結果と理論値を比較する

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8 実験開始から5分後にかける言葉の例
 「(黒板に『実験の目的:実験結果を理論値を比較する』板書してから、)実験結果が出たら、理論値を計算して下さい。計算方法は、さっき説明した通りです。その理論値と自分の実験結果を比較して、2〜3℃の誤差なら、合格ということにしておきましょう。プリントには、実験結果と理論値を書いておいて下さいね。簡単な図もあると、分かりやすくていい感じなると思います。では続けて下さい」
解説:実験を始めて5分ぐらいすると、実験が不得意な班も、手際が良い班も先生の説明を聞きたくなってくる。ただし、実験中の確認や補足は、言葉だけでは絶対にいけない。板書したことの補足説明や、具体的な装置や結果の解説、という形で進めること。さもなければ、生徒の視線は自分の手元から動くことはないだろう。

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(上:氷を溶かしたり、ヤカンの湯を使って実験をする生徒)

9 実験開始から5分以降にかける言葉の例
 「ささっと! とにかく、ささっと測って、ささっと混ぜて、ささっと測って終了! たらたらやってると、誤差だらけになります!」※1
※1 非常の簡単な注意、聞き流すだけでも良いレベルの注意は、数回くり返しても良い。ただし、文章で伝えようとしてはいけない。単語レベルをくり返すようにすること。

 「そんなに氷を入れてはいけません。これだけの氷で全部の班がやるんだから、ちょっと考えて下さい」※2
※2 自分勝手なことをしてる場合は、大声で1回だけ注意すれば良い。誰も同じような注意をされたくないように、しっかり感情を込めて大声で注意して下さい。
 「実験台の温度も考えて下さい。実験台の温度は室温と同じ27.1℃付近にあると思いますから、それもイメージして、できるだけ誤差が少なくなるようにしなさい」※3
※3 この注意は実験誤差を少なくするための1つのヒントに過ぎない。したがって、生徒はこの注意点に気をつけるものの、さらに精度を上げるための工夫をしなければならない。つまり、この注意は聞き流すレベルのものでなければいけない。
 「みなさん、氷がほとんどなくなりましたので、温度の組み合わせを工夫して下さい。また、冷たい水が残っている人は、それを捨てないで下さいよ。それをそのまま使えば良いじゃないですか。時間の節約にもなります」※4
※4 この言葉は、氷がほとんどなくなった時に使った。この頃、生徒たちは少なくとも同じ実験を2回終了していた。
解説:実験開始5分後からは、しっかり机間巡視すること。そして、具体的な実験操作を注意したり、実験結果や理論値の比較、誤差を少なくするための工夫や個別に聞いて回るようにする。先生は、生徒から多くの発見を教えてもらうことになるだろう。

10 終業10分前にかける言葉の例
 「さて、そろそろ実験終了です。切りが良い班は片付けに入って下さい。まだやりたい人は、最後の1回にして下さい。そして、理論値との誤差について感想を書いて下さい。とくに、どんな工夫をしたら誤差が少なくなってきたか考えて下さい。
解説:終業10分前は、そろそろ終わるよ、という予告をするに止める。授業のまとめは、数分後、全員を着席、その手を止めさせ、先生に注目させてから行わなければいけない。

11 授業のまとめ、あるいは、深い考察(終業7分前に)
 「今日の実験で凄いのは、温度が足し算できないという点です※1。それなのに水の量、つまり、質量や熱量が足し算できるのはどうしてでしょう。これは、かなり面白い問題ですよ。足し算できるものって、何なのでしょうね。考え方によっては、足し算できない温度の方が、自然なのかもしれませんね。ま、この深遠なる問題は次にチャンスにとっておき、今日は、温度を求めるためにはカロリーを出せば良いことを確認して終わります。また、温度と同じように得体の知れないものとして『濃度、%』があります※2。濃度の問題が嫌い、できない、という人はたくさんいると思いますが、実は、濃度も温度と同じようにして計算できるので、次を楽しみにしていて下さい。しっかり教えてあげます。1時間で達人になります。では、本日の授業はこれまで。残り時間は、今日の授業の感想、実験での発見や疑問を書きなさい」
※1 机間巡視の時点で、本時のねらいは十分に達成したことがわかったので、最後のまとめは自然科学の核心に触れることにした。つまり、足し算とは何か? 私は単純な演算を質問したに過ぎないが、その奥には、数字とは何か? 数字で表される自然とは何か? しかも小数点を使う自然の事象とは何か? この質問の答えは、また別な機会に紹介しよう。興味ある人は、私が著した『実験でわかる物理学(誠文堂新光社、2007年)』の第1章にあるので、どうぞ。話が逸れてしまったが、ここで今日の実験の様子を報告しておこう。実は、今日の実験は1年のうちに1度あるかないかの盛り上がりだった。それは、理論値と実権結果が完全に一致したからだ。私は2、3度の誤差なら十分だと思っていたが、実際は0.1度の誤差でぴったりだった。信じられないかも知れないが、少なくとも1クラスで10回以上は完全に一致したのだ。しかも、実験をした後の計算によって、実験が正しかったことが証明されるのだから、それは、生徒自らの計算によって証明されるのだから興奮しないわけがない。「先生! ぴったり!」の歓声が教室にこだまし、質量や温度を変えて同じような実験をくり返し、小数点を含む面倒くさい計算をくり返す生徒達の姿を見れば、誰もが興奮を覚えるだろう。もし、計算だけの授業だったら、20分もしないうちに落ちこぼれが出現するだろうが、今回は全員の気が可笑しくなってしまったのではないかと思われるほど計算に熱中していた。
※2 別ページ『』で解説する。
解説:少なくとも終業3分前に、先生の言葉は終わること。残りの時間は生徒個人の時間でなくてはいけない。授業の初めと終わりは十分なゆとりがなければいけない。最後に慌てるようなことは、人生の終わりになってジタバタするようなもので、見苦しいだけである。静かに1時間を振り返り、次へとつなげるようにすること。

12 終了のあいさつ(終業10秒前)
 「今日はここまで。実験台を片付けた班から解散しなさい。みなさん、さようなら!」
解説:私は、終業のチャイムと同時に起立して、全員で挨拶をする儀式に重きを置いていない。そもそも、私が生徒へアプローチする授業は3分前に終了している。この時は、全員が私の目を見て話を聴き、授業のまとめをして満足する。もちろん、私は言葉だけでなく、言外の深い意味や板書できない(しない)重要なヒントを与えようとしているので、それを読み取ろう懸命になっている生徒も多い。この1分に満たない授業のまとめ後は、完全なる生徒個人の時間であって、どの生徒も自分のプリントに向かって必死に感想を記録したり、実験中に間に合わなかった記録をまとめている。小さな発見やホットな感動は、すぐその場で記録しなければ永遠に失われてしまうことを生徒達は知っているからだ。
 また、生徒達は自由に帰るが、実験台が汚れていたり、ぞうきんがけができていないような状態なら、次の実験はない。その約束は、年度当初にできているし、私はその約束を実行する強い意志を持っている。

2008年6月22日公開
2010年5月9日画像、通し番号、リンク追加


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