このページは『福地先生の教育の相談箱』です。

BOX2 中学校の先生

6 『主体的、対話的で深い学び』について

       教員3年目、標題の学びを教室で行うことを模索する理科のJ6先生

       → 調べ学習
       → テスト作り

J6先生からのe-mail(その1)

 私は、◎◎市で中学の教員をしています。J6と申します。教科は理科で現在3年目です。今回ご連絡さえていただいたのは現在の学習指導要領で出されている『主体的、対話的で深い学び』についてです。

 現在中学1年生ですが、ボリュームがあるカリキュラムを終わらせる、理科を好きになってもらうために実験を多く取り入れることで時間に追われています。そこでご相談なのですが、『主体的、対話的に授業を行う』上で、実験以外、教室で行う講義の際にどのような案がありますでしょうか。学校状況的に、毎時間理科室で行うことは不可能です。

 現在は「火山」で、日本のいろいろな種類の火山を4人1班程度で、調べ学習からの発表を行おうと考えております。

 現在、化学分野が終わり、物理分野に入ろうとしています。物理分野で主体的、対話的に行うためには、なにを根底に置けば良いでしょうか?

J6

福地先生の回答

 『主体的、対話的で深い学びを教室で行う理科授業』

 初めに確認すべきことは、授業とは何かです。J6先生のご質問の中に、『講義』という語句がありましたので、それを使ってひもといてみたいと思います。授業と講義を比べてみましょう。いずれも教師が責任をもって行うものですが、授業は子どもが主体となり対話的に進められるもの、講義は教師から一方的に行われるもの、になります。授業について振返ると、授業は理科室で行っても普通教室で行っても本質は同じです。子どもが主体となる学びの時間です。

 次に、『主体的』と『対話的』を定義します。主体的は『教師ではなくて子どもが主体になるような』で良いでしょう。問題は『対話的』です。対話は子どもと誰がするのでしょう。多くの先生は子どもどうしが対話する、と考えているようです。2人で対話させたり、3人以上のグループで対話させたり•••。グループづくりの方法もたくさんあり、さまざまな授業研究会で新しい提案がなされていることと思います。しかし、私は違います。子どもと対話しなければいけないのは先生であり、学校現場にグループ対話にかける時間はない、と考えています。

 対話とは何か、もう一度考えてみましょう。対話は2人以上で成立するものです。その対話を一斉授業で行う場合、初めは小ブループであっても、最終的に全体で行う必要があります。全体で対話させる『授業』を成立させるためには、その司会者にかなりの技量が必要になります。子どもに司会者にする方法もありますが、私は毎日の授業では先生が行うべきだと考えています。

 主体的な子どもが集まる対話『授業』において、司会者は自分の意見を言うことはありません。第1の仕事は、子どもたちみんなの考えを引き出し、発表させることです。これは9教科すべてに共通するステップです。次のステップから教科の特性が出てきますが、理科は自然に関する多様な考えを『ある視点』から分類•整理し、規則性や法則性を求めていくことになります。したがって、先生の第2の仕事は、どのような視点があるか、その視点における分類•整理の出来映えについて考え、意見を出させることになります。

 以上が基本的なスタンスです。これを持っていれば、どのような学習内容であっても主体的•対話的な授業ができます。

 次に、J6先生は1年地学分野『火山』で4人グループで調べ学習を行い、それを発表させる方法を考えていらっしゃるとのことですが、時間は大丈夫でしょうか。学校現場に与えられた時間は限られています。時間が許せばそれで良いと思いますが、もしないのなら、クラス全員と先生が対話すれば良いと思います。対話を主体的にするポイントは以下の通りです。

対話を主体的にするポイント(複数の視点がある場合)
(1)対話のテーマを先生が明示する
(2)対話の材料を先生が示す
(3)対話するための視点を先生が示す
(4)子どもが『その視点』から『与えられた材料』について考える
(5)子どもが自分の考えを発表する
(6)全員の子どもが自分の考えを発表できたと実感できるレベルにする
(7)友だちの考えについて、自分の考えをぶつけたり重ねたりする
(8)子どもたちが、新しい視点を生み出す
(9)子どもたちが、新しい材料を探し出す

 以上で、先生は完全に司会者になっていることがわかると思います。これが主体的•対話的な授業です。ちなみに、私は毎時間このような授業を実践しています。また、私の著書『一斉授業の教科書(学陽書房)』にその詳細が記述されています。

 さてさて、上記(1)〜(9)の対話『授業』ができる学習内容は限定されています。1年地学分野『火山』は視点が複数ありますが、とても単純な視点で、すべての視点が教科書に明記されています。したがって、上記(1)(2)までしか行うことができません。実際は、次のような展開になるでしょう。

視点が少ない(単純な)場合の授業展開
(1)対話のテーマを先生が明示する
(2)対話の材料を先生が示す
(3)材料をまとめるための『視点(教科書に記述されている)』を発表させる
(4)『その視点』にあてはまる『自然事象』を発表させる
(5)明確にあてはめることができない自然事象について、考えさせる
(6)(5)について、考えを発表させる
(7)全員の子どもが自分の考えを発表できたと実感できるまで、発表させる
(8)友だちの考えについて、自分の考えをぶつけたり重ねたりする
(9)できれば、クラスで1つの結論(教科書と同じ)を出す

 以上のような展開ができるのは、理科の教科特性が関係しています。自然は多様で、画一的に分類できるものは多くありません。教科書が言い切っている内容でも、言いきれないものはたくさんあります。2018年にノーベル賞受賞した本庶佑氏は「世の中のことは嘘が多い。教科書が全て正しかったら、科学の進歩はない。基本は人が言っていること、教科書に書いてあることをすべて信じない。なぜかと疑って行くことが重要」と述べられましたが、私も賛同します。中学3年生で学習するニュートン力学、小学校で学習する距離=速さ×時間などは、アインシュタインの一般相対性理論によって正しくないことがわかっていますし、近い将来、一般相対性理論も不備が指摘されることでしょう。

 最後に『深い学び』についてです。『深い』という感覚は主観であるだけでなく、子どもの発達段階や子ども1人ひとりの個性によって変わります。したがって、議論すべき問題ではないと思います。『学び』については省略させて頂きます。

回答は以上となりますが、不明な点や再度の質問を心待ちにしております。
ぜひお願いします!

福地孝宏

 

J6先生からの2回めのe-mail

福地先生

 お世話になっております。様々あるので、頂いた文章順に沿ってご質問させていただきます。

 対話的が生徒と教員で行うという点に関しては、私の考えに全くありませんでしたが、とても賛同しました。

 全体で対話させる授業というのは、全体であーではない、こーではないとある視点について話し合うということでしょうか。例えば1年生の気体の性質をまとめる際の『色、におい、空気と比べた重さ、水への溶けやすさ等々』を生徒が見つけ出してあてはめていく、というようなイメージでしょうか。

 また、問題点もあります。現任校は、すごく興味関心が強いのですが、学力がとても低い子が多いのが特徴です。私自身と生徒が会話が多いのが私の授業の特徴なのですが、何か質問を投げかけると、そこに関係することの質問がどんどん出てきます。もちろん理科に関することなので、素晴らしいことなのですが、どこまで拾ってどこまで捨てるのかの線引きが、いまいちまだできていません。福地先生は何か線引きがあるのでしょうか。

 調べ学習に関しては時間はとれるように動いているので可能だと思います。その際の視点も生徒とともに決めるほうが良いでしょうか。決めたほうが主体性、自主性は取れると思いますが、脱線したとき、私の意図しない方向に向かってしまうと、収拾が大変だと思いました。

 火山に関しては上記と被るところがあるのでやり取りの中で随時聞かせていただきたいと思います。

J6


福地先生の2回めの回答

 J6先生、こんにちは。再度のご質問をいただき、うれしく思います。2学期はとくに忙しい時期なので、いつでも大丈夫です。教員生活を楽しんでくださいね。

 全体で対話させる授業は、全体であーではない、こーではないとある視点について話し合うということでしょうか。
→ その通りです。視点を決めて話しあうことです。視点はできるだけ狭く、限定してください。絞れば絞るほど、議論•対話しやすくなります。議論•議論とは、『学級という場で、
(1)ある子どもが主体的に発言した内容に対して
(2)他の子どもが賛成・反対・質問したり、
(3)追加説明、別視点からの説明などをしたり、
することです。

 例えば1年生の気体の性質をまとめる際の『色、におい、空気と比べた重さ、水への溶けやすさ等々』を生徒が見つけ出してあてはめていく。というようなイメージでしょうか。
→ まとめは対話終了後、の作業です。ポイントは『いかに短時間・端的に終了するか』です。よくある無駄な作業は、教科書と同じ内容をまとめることです。同じ内容なら、教科書の本文や図表にマーカーペンでチェックさせるだけで十分です。浮いた時間で、実験1つを追加しましょう。

 現任校は、すごく興味関心が強いが、学力がとても低い子が多いのが特徴です。私自身と生徒が会話が多いのが私の授業の特徴なのですが、何か質問を投げかけると、そこに関係することの質問がどんどん出てきます。もちろん理科に関することなので、素晴らしいことなのですが、どこまで拾ってどこまで捨てるのかの線引きが、いまいちまだできていません。福地先生は何か線引きがあるのでしょうか。
→ 私が経験した9校のうち、6校はJ6先生と同じ特徴でしたが(現任校は違います)、私はどこでも同じように授業をしてきました。
  「何か質問を投げかけると、そこに関係することの質問がどんどん出る」場合に必要なことは、発言・発表のルールです。これは理科の先生だけでなく、少なくとも学年単位で取り組むべき『しつけ』なのですが、とりあえず、F先生のできる範囲でがんばってください。「Fルール」を作るわけです。そのルールは次のようなものですが、子どもたちの現状に合わせて、しなやかに変更•修正を行い続ける必要があります。
 繰り返しますが、絶対的なルールは存在せず、あくまで、その学校、その学級、その日のその時間の子どもたちの状況&教室環境に合わせ、微調整を繰り返してください。大きな事件があれば、まったく違うルールを設定しなければならないこともあります。ルールは線引き、と置き換えられる部分もあります。

(1)先生の命令には絶対服従
(2)ただし、命令は極力避ける
(3)以降のルールは、その学校(あるいは学級)に最も大きな影響を与える1人の子ども』を制御するために作ります(日本国憲法が権力者(首相、大臣など)の権力を制限(=暴走しないように)しているのと同じです)。その子どもが不登校気味なら、2番目、3番目という順に影響の大きな子どもに合わせます。なお、一般的な第3のルールは『挙手し、指名された者しか発言できない』ですが、F先生の現任校ではムリのようですね。

 次に、私がサバイバルで得た対処法を思いつくままに羅列します。
(ア)発表希望者全員に板書させる
  黒板に充分なスペース(半分以上になることも多い)とチョーク10本を用意すr。ルールは以下のとおり。
 ・誹謗中傷は禁止
 ・わいせつなものは禁止
 ・みんなが読める字で書く
 ・黒板のところで話合うことは禁止
 ・板書する手が止まったら自席へ戻る

  子ども全員が戻ったら静粛にさせ、先生が1つずつ検討(対話)していきます。アンダーラインで強調したり、色分けしたりしていきます。検討(対話)終了後の黒板は乱雑になっていると思いますが、先生は重要なものを明示してください。1、2、3などの番号をつけておくとわかりやすいです。子どもは、それを中心にしてノートにまとめます。それは『対話の記録』です。結果は教科書と同じように見えても、授業での思考過程が記録されています。
(イ)挙手しないままの発言は認めない
 ただし、すぐに発言しなければ収まらない子ども5人が同時に挙手した場合、次のように対処します。まず、『先生も友だちもコメント無し』で5人連続して聴くことを宣言してから、5人の発表順を指示します。そして、すべての発表が終わってから1つずつ板書していきます。間違った意見も板書し、何がいけないのか考えたり対話させたりします。5つの考えをすべて議論し尽くした後、時間が許す限り、再度、挙手させ、挙手した全員の意見を同じように連続して聴きます。このような作業をしなければいけない学習内容の場合は、通常3回ほど繰り返すことになります。
(ウ)子どもの興味関心が高い(脱線)キーワードを言わない
 わいせつなことを連想する言葉は論外ですが、子どもが何に反応して脱線するかはわかりにくいものです。複数クラスを担当する場合は、先頭クラスで得た経験を活かしてください。授業は脱線で盛り上がるのではなく、本題で盛り上がった方が面白いことに気づかせていきましょう。1学期の終わりには、学習内容そのものに興味を持つ子どもが大半を占めるようになるはずです(性的刺激を含む語句は、明確な目標があるときだけ使用する)。
(エ)先生の質問に対する質問返しには、絶対に答えない
  どんなに小さな質問返しでも、それは脱線の始まりである、と認識しましょう。ただし、先生の問題設定が間違を指摘された場合は感謝&賞賛し、質問を修正します。また、それが、次の学習内容に関係するもの、復習に最適な『良い質問返し』なら、特別に素晴らしい質問・学習ポイント・対話の視点として取り上げ、それを先生のからの質問にしてしまいます。

 調べ学習に関しては、時間はとれるように動いているので可能だと思います。その際の視点も、生徒とともに決めるほうが良いでしょうか。決めたほうが主体性、自主性は取れると思いますが、脱線したとき、私の意図しない方向に向かってしまうと、収拾が大変だと思いました。
→ そもそも収拾する必要はないと思います。枠にはめるではなく、いかに枠を外してやるかそれが調べ学習の目的です(比較:授業は1つに収拾すること(学習目標を達成すること)を目的の1つとする)。
  ただし、先生の仕事は1年と通した授業実践で、主体的な学習・知的遊び(=調べ学習)ができるように手助けすることです。
  なお、理科から脱線してしまった調べ学習は、「これは社会科」「これは技術科」というように、調べた内容が何であるのか教えてあげましょう。理科は自然を対象とする教科です。何であるか不明なら、自然について深く考えるチャンスを得たのですから、子どもと一緒に考えてください。

それではまたご質問ください。

福地孝宏


J6先生からの3回めのe-mail

 福地先生、以下の3点について伺わせてください。

(1)「全体で対話させる授業」の視点の例として、どのようなものが挙げられるでしょうか。私がイメージする視点とは、火山でいうところの【山の形】、【マグマの粘り気】など?  
 
(2)福地先生は「すぐに発言しなければ収まらない子ども5人が同時に挙手した場合、(中略)5つの考えをすべて議論し尽くした後、時間が許す限り、再度、挙手させ、(中略)通常3回ほど繰り返すことになります。」とされていますが、3回行うと相当な時間がかかると思われるのですが、どれくらい時間を取られるのでしょうか。
 
(3)調べ学習は、程度進んでから、技術科であったり社会科であったりと教えてあげると思うのですが、そこから方向の修正は行わせるのでしょうか。 行わせない場合、発表の際に子供達の中で「なんか違くない?」という空気が流れてしまうことが懸念されます。また、行わせる場合は、時間が足りるかが心配です。

J6


福地先生の3回めの回答

 J6先生、大変お待たせしました。2学期評定の下ごしらえ(学習プリントの評価)をしておりました。さっそく回答させていただきます。

(1)「全体で対話させる授業」の視点の例として、どのようなものが挙げられるでしょうか。私がイメージする視点とは、火山でいうところの【山の形】、【マグマの粘り気】など?  
 → 火山の分類は対話させるのではなく、先生が一方的に手短にわかりやく説明すべき内容だと思います。なぜなら、形やマグマの成分比は連続的に変化しているので明確に分類できるものではないし、写真の写し方によって別物に見えることもあるからです。「全体で対話させる授業」における視点の例として、最近のものを2つ紹介します。

食塩水が電流を流す理由を考える(15〜20分)
(3年化学『食塩と水は電流を流すか』2018年から)


個体名と分類名(3分〜5分)
私たちの名前(5分〜15分)
ホモサピエンスをさらに分類する (5分〜10分)
種(しゅ)とは何か (5分〜10分)
(3年生物『個体から地球へ』2018年から)

(2)福地先生は「すぐに発言しなければ収まらない子ども5人が同時に挙手した場合、(中略)5つの考えをすべて議論し尽くした後、時間が許す限り、再度、挙手させ、(中略)通常3回ほど繰り返すことになります。」とされていますが、3回行うと相当な時間がかかると思われるのですが、どれくらい時間を取られるのでしょうか。
→ 3回の合計時間は15分です。内訳は初回7分、2回目5分、3回目3分です。初回に生徒3〜7人が挙手した場合について紹介ましょう。実際のところ、調子に乗って挙手しているだけの子どもが何人かいるはずです。その子は10秒です。10秒で終えるポイントは、発表中に誰も(生徒も先生も)突っ込んだり質問したりしないことです。言葉に詰まったら「残念でした。ご着席ください」と指示します。全員が発表したら、発表内容を順に板書していきますが、内容確認のために必要な時間は3分〜5分になるでしょう(以上、初回合計7分)。先生と学級全体の対話は、この板書&作業の間に行われるわけです。
 2回目はそれを受けての発表なので、深い内容になります。見当はずれなものはなくなり、いくつかの意見は同じになるでしょう。5分使い、しっかりまとめてください。
 3回目は意見が出尽くしていると思うので、3分あれば十分です。むしろ、3回目はあまり意見しか出ないように、2回目に深いレベル(初期目標の達成)まで対話させます。
  なお、難問の展開は次のようになります。初回は考える時間を制限し(1分弱)、とにかく意見が1つ出るようにします。2回目はそれに元気づけられた意見で3分程度。3回目にようやく内容のある意見、対話が始まります。4回目に深化させ、終了です。
  また、3回目でも5人以上出るようなテーマなら、視点を広げ過ぎている可能性があるので、とりあえず意見を聞いてから、先生の方で絞り込んでください。

(3)「調べ学習」はある程度進んでから、技術科であったり、社会科であったりと教えてあげると思うのですが、そこから方向の修正は行わせるのでしょうか。行わせない場合、発表の際に子供達の中で「なんか違くない?」という空気が流れてしまうことが懸念されます。また、行わせる場合は、時間が足りるかが心配です。
→ 調べ学習は家庭で行うものです。子どもは完成したものを先生に提出するだけなので、方向修正は不可能です。また、発表は『しない』『教室掲示』『廊下掲示』『理科室掲示』のいずれかになりますが、その選択は子どもの意見を参考にします。授業内で発表することはありません。

2学期末に近づき、慌ただしくなってきましたが、体に気をつけ、ご活躍ください。またのご質問をお待ちしております。

福地孝宏


J6先生からの4回めのe-mail

 福地先生、こんにちは。大変間が空いてしまい申し訳ありません。11月以降生徒指導対応と成績に追われ返信するのが遅くなりました。

 福地先生に教えていただいたやり方を自分なりに解釈しながら、試行錯誤しております。本当に少しずつですが、生徒との対話に関してはまとまりが出てきたような気がします。時々答えられないような質問が来て勉強不足を痛感する日々です…

 調べ学習についてですが、提出には期限を設けていますでしょうか?
いつでも出していいぞー、というパターンなのか知りたいです。また、成績の加味についても教えていただけると幸いです。

 流れからは全く関係ないのですが、テストはどのように作成されていますでしょうか? 勤務校の担当学年は他の学年に比べ、とても学業が苦手な生徒が多く、今まで通り作成してしまった結果、平均点がとても低くなってしまいました。簡単な問題を多く入れようとすると、どうしても知識理解の問題が多くなってしまい、思考の問題が減ってしまいます。ご教授ください。

 お忙しいとは思いますが、よろしくお願いいたします。

J6


福地先生の4回めの回答

 J6先生、明けましておめでとうございます。昨年12月23日に頂いたメールを放置してしまい、大変申し訳ありません。遅ればせながら返信させて頂きます。

調べ学習についてですが、提出には期限を設けていますでしょうか?
いつでも出していいぞー、というパターンなのか知りたいです。また、成績の加味についても教えていただけると幸いです。

→ 提出期限はありません。これまでの経験から、「授業中に使える内容ではない」ことが多いからです。良いものは理科室前廊下に掲示し、そうでないものはコメントを添えて翌日返却します。原則、成績に入れませんが、内容に応じて興味•関心に加点しても良いでしょう。

テストはどのように作成されていますでしょうか? 勤務校の担当学年は他の学年に比べ、とても学業が苦手な生徒が多く、今まで通り作成してしまった結果、平均点がとても低くなってしまいました。簡単な問題を多く入れようとすると、どうしても知識理解の問題が多くなってしまい、思考の問題が減ってしまいます。
→ 点数配分
 4観点が均等になるようにしています。
  全50問(各2点)、4観点25点ずつで100点満点です。

→ 平均点
 授業の様子をみて、平均点が55点〜63点になるように作成してください。
 平均点が低過ぎると理科嫌いになり、高過ぎると評定がつけ難くなります。

→ 子どもの学力
 子どもの学力は、地域や学年によって大きく異なります。転勤によって、大きな学力格差を体験することになると思いますが、学力はテストの得点能力だけで決まりません。また、注意しなければならないことがあります。それは、先生の指導力は毎年アップしていく(年齢を重ねる)けれど、中学生の学力は変わらない(毎年13歳〜15歳を教える)ことです。その結果、相対的に先生ができるようになるので(経験を重ねた自分と新しい中学生を比較して)「最近の子どもはできない、勉強しない」「昔の子どもは良くできた!」と言ってしまうことがあります。ご注意ください。逆に、「最近よくできる子どもが増えた!」という感想はあまり聞かないものです。

→ 問題の難易度
 思考の問題に限らず、4観点すべてにおいて、簡単な問題から難しい問題まで作成します。難易度が正規分布になるようにします。全員が正解となる、簡単な思考問題から作り始めることも一案です。

→ 先生の意識改革
 もしも、簡単な思考問題を作ることが難しく感じるなら、「思考」に対する意識改革をする必要があります。難しい思考に至るまでには、無数の簡単な思考があるはずです。無数にある簡単な問題、の1つを取り出すだけのことです。

→ それは思考か知識か
 それが知識であるか思考であるかは、子どもの発達段階によって変わります。
 例えば、小学校1年生で1+1=2の考え方を教えるなら思考です。

→ 『それ』の観点別項目は、J6先生の授業で決まる
 授業中に『それ』に興味を持たさせたなら関心、『それ』を思考させたなら思考です。『それ』を訓練させたなら技能、『それ』を覚えさせたなら知識です。同じ内容であっても、評価項目が変わることがあります。先生と子どもが共通認識していれば、(常識の範囲内で)どれでも良いのです。
 
→ 結論1
 どれをどう評価するかは、授業者の裁量に委ねられています。そうでなければ、全国の先生が熱心に議論する必要はありません。文科省に従うしかないからです。実際のところ、文科省も決めることができない問題であることを肝に銘じておきましょう。

→ 結論2
 テストは、授業を評価するためのものです。子どもを十分に理解していれば、予定通りの平均点になります。テストづくりに苦労するようなら、それは授業に偏りがあったことを意味します。バランスの良いテストづくりができるように普段から心がけるように反省しましょう。4観点は先生が反省するための視点、です。「テストは先生自身の反省材料にすぎない」と考えれば、気持が楽になるはずです。

 最後に、私が作成した校内テスト問題を添付します。F先生だけにお送りするものなので、丸秘でお願いします(将来、公開予定ですが、、、)。それではまたご質問ください。

福地孝宏


J6先生からの5回めのe-mail

 福地先生、お世話になっております。遅れましたが、本年もよろしくお願いたします。

調べ学習について
  このような形で、テーマだけは地震の発生についてと絞り、募ってみたいと思います。ありがとうございます。

テストについて
 結論1、結論2、『それ』の観点別項目はF先生の授業で決まる
授業中に『それ』に興味を持たさせたなら関心、『それ』を思考させたなら思考です。『それ』を訓練させたなら技能、『それ』を覚えさせたなら知識です。同じ内容であっても、評価項目が変わることがあります。先生と子どもが共通認識していれば、(常識の範囲内で)どれでも良いのです。
上記からすごく気が楽になりました。授業の中で子供たちと取り組みながら考えていきたいと思います。また、私自身3観点でしかテストを作成していなかったので、関心の項目があることに驚きました。

 前回のテストto今回のテストの範囲だけでなく、今までの範囲から出すことで理科への関心を図るということでしょうか? それとも三年生で受験があるから、そこを範囲として含んだということでしょうか?

 お忙しい中、いつもありがとうございます。よろしくお願いいたします。

J6


福地先生の5回めの回答

 J6先生、こんにちは。返事を失念しておりました。申し訳ありません。季節が変わり、校庭の沈丁花が春の到来を告げています。F先生におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。名古屋市立中学校は3月5日(火)に卒業式を終え、私は授業がなくなり、今春の転勤準備に取りかかる準備をしています。HPは過去3年間取りまとめ完了のメドがたってきました。
http://www.ons.ne.jp/〜taka1997/

 さて、1月16日に頂いたご質問の回答をさせて頂きます。

前回のテストto今回のテストの範囲だけでなく、今までの範囲から出すことで
理科への関心を図るということでしょうか?
それとも三年生で受験があるから、そこを範囲として含んだということでしょうか?

→ ご質問内容「前回のテストto今回のテストの範囲だけでなく、今までの範囲」の意味が不明なのですが、
回答してみます。

 私は3年生で受験のためのテスト問題を作成することを嫌います。その一方、受験生は入試で高得点を取りたいはずです。これらの相反する事項をひもとく鍵は、学校の先生がつくるテストは『校内テストであること』『それは授業の習熟度を調べるもの(先生の授業を評価するもの)』ということです。結論は『校内テスト=授業反省』です。

 私の授業目的は『入試で高得点を取らせること』ではないので、そのような問題を作ることはできません。もちろん、そのような授業をすることもできますが、私は意図的にしません。それは簡単過ぎる目標であると同時に、その目標達成に疑問を持っているからです。高得点を取ることを目的にした授業は、生徒の人格形成に悪影響を与えると思うからです。自然を感じたり楽しんだりする心を蝕むことになりやすいからです。

 ただし、現実問題として、受験問題としてよく出題されるものについては、その問題を解くためのポイントを教えるようにしています。それは個別問題対応ポイントではなく、関連問題の核心となるポイントです。例えば、3年の『電気ブランコ』関連問題のポイントは『磁界の中央にある導線の一点』に着目する、です。このようなポイントは通常の授業で伝授していますが、受験生の希望によって復習します。

 以上、今回は私の回答がピンぼけかも知れませんが、よろしくお願いします。時間ができましたので、さらなるご質問をお待ち申し上げます。失礼します。

福地孝宏

メールをやり取りした期間:2018年10月〜2019年1月
掲載日:2020年2月28日

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