クロッキー F 美術館

第1章 クロッキーの描き方(基礎)
モデルとの距離

1 モデルとの基本的な距離
 基本的な距離は、モデルを一目でみわたせる1.5m〜5mです。ここで覚えて欲しいことは、距離がモデルのポーズによって変わることです。手足を折り畳んだ小さなポーズなら1.5m〜2.5m、手足をいっぱいに伸ばした立ちポーズなら4m〜5mです。したがって、本来はポーズ毎にモデルとの距離を調節しなければいけませんが、クロッキーの現場で理想を求めるのは非現実的です。毎回、理想的なポジション(距離や角度)を求めて動き回るのは、クロッキーの基本のページ『ポーズが決まると同時に描く』で述べたように避けるべきです。


上:
クロッキーゼミ2010-7は、2.5m〜3mで描きました。これは一目で見える距離ですが、良い姿勢と頭(顔)の位置を保つことも重要です。モデルと画面は、眼球を動かすことによって見ます。安定したポジションは、クロッキーの基本です。

2 距離と見え方の関係
 表1は、距離と見え方の関係を表したものです。これを参考にして、ごく自然に見える位置を覚えて下さい。遠慮して遠くから描くと、望遠鏡で覗いたような絵になます。逆に、モデルに近づき過ぎると遠近感が不自然になります。

表1 モデルとの距離と見え方の関係

近過ぎる場合
1.5m以下
. 遠過ぎる場合
5m以上
実際より縮小して描くことになる モデルの大きさ 実際より拡大して描くことになる
強調される 遠近感 失われる
 描き手のちょっとした位置の変化で、見える面が劇的に変わる。正確性は失われやすいが、回り込む面を観察しやすい。

回り込む面
 ほぼ真横まで見えるが、距離が遠いので平面的に見える。
かなり違う

左右の目の見え方

ほぼ同じ

右図:モデルとの距離が1メートル以内になると、小さな紙に全身を入れることは難しい。遠近感も強調される。
クロッキーF美術館コレクション vol.2008 dec 3から)

※写真撮影に関するページ『標準レンズでモデルに近づく』も覧下さい。

3 見え方が変わる原因
 モデルとの距離によって見え方が変わる原因は、次の2つです。
(1) モデルに近づいた方が、よく見えること
(2) 私たちの人間の目で見える範囲(一目でみわたせる範囲)には限りがあること

4 個人的なクロッキーの場合
 モデルと1対1でクロッキーする場合、私は0.7m〜2mの距離で描きます。通常よりも近いのは、より親密な関係をもった交流ができるからです。これは親しい友達と会話したり活動したりする、手を伸ばせば触れられる距離と同じです。

5 物理的な距離と内面的な距離
 これまで、モデルとの物理的な距離を紹介しましたが、内面的にも同じ距離を保つようにします。心情的、感情的、肉体的に入り込むと、必ず失敗します。気になる部分だけを描き込み過ぎる失敗はよくあります。モデルと心が通わない場合は厳しいクロッキーになります。また、モデルを無視した『他人に見せるための作品』を作ろうとする場合も失敗します。作家は『作品との距離』も上手に保つ必要があります。

参考資料2009 Sep 8のクロッキーnoteから

 2日前のクロッキーでも考えていたように、私が理想とする距離は0.7〜2mではないかと思う。一般的なクロッキーや絵画と比較すると非常に近いが、これは日常会話より少し遠いぐらいの距離だ。

 私が求めるクロッキーFを『平面表現を媒体としたモデルと作家の非言語の会話』と定義するなら、あまりに遠くては会話にならないし、あまりに近くては自分のテリトリーをおかされてしまう。その結果として、前述の距離が生まれる。ただ、これはこれまでの経験から得られた仮説だから、実際の現場で検証する必要がある。

6 目の高さを決める
 あなたが描く位置は、モデルとの距離でだけでなく、あなたの目の高さによっても左右されます。距離だけ、あるいは、左右の角度だけを意識するだけでは不十分です。近づいたり遠ざかったり、あるいは、モデルの周りをぐるぐる回っているだけではダメです。もう1つ重要なポイントは『あなたの目の高さ』です。この問題については、別ページ『目の高さを決める』をご覧下さい。

2010年3月12日公開

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