中学校理科の授業記録index

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イカ(無セキツイ動物)の解剖

静岡県富士市の中学校の遠藤先生からのe-mail

2010年9月20日

福地先生、はじめまして。

 わたしは静岡県富士市の中学校で理科の教員をやっています、遠藤と申します。

 教員採用試験になかなか受からず、3年間の講師経験を経て、正教員として3年目を迎えているのですが、講師時代からずっと、福地先生のホームページを授業の参考にさせて頂いています。先生の教材研究に対する姿勢に、とても感銘を受けています。先日はついに、先生のお書きになった本を購入させて頂きました。

 このたびメールさせて頂いたのは、先生にアドバイスをいただきたいと思ったからなのです。11月に、富士市の理科の先生が一堂に会して一つの授業を参観するという教員の研修があるのですが、そのときの授業者となってしまいました。

 せっかくなら、指導要領に新しく入ってきた無セキツイ動物の単元に関する授業を参観してもらおうと思い、無セキツイ動物の中でもイカの解剖を行うことに決めたのはいいのですが、いざ、授業案を作成しようと思うと、50分の授業でどの程度できるのかイカの体内を初めて見た生徒は、どの程度作業ができるのかどこにポイントを絞って解剖をしたらいいのかどのような授業の流れにするのがいいのか、悩んでいます。

 福地先生のHPにもイカの解剖が載っていましたが、なにかポイントを教えて頂けたら・・・と思って、メールをさせて頂きました。是非、アドバイスをよろしくお願いします。



遠藤先生
こんにちは
返事が遅れてすみません!

 教員生活6年目になられるのですね。しかも講師経験があるので、いくつかの応用が利くのではないかと思います。赴任された中学校で精一杯がんばって下さいね。

 さて、11月に富士市の理科の先生が一堂に会する場所で授業を行われるとのこと。お疲れさまです。さっそく、ご質問に回答させて頂きます。

1 50分の授業でどの程度できるのか?
→ それまでの生徒の実力が反映するので分かりません!(すみません)

2 イカの体内を初めて見た生徒は、どの程度作業ができるのか?
→ はさみを切って内蔵を取り出すだけなら、ほぼ全員できます。料理 のときは、足を引っ張ると「つるん!」と内蔵が出てきますが、はさみで切った方が解剖している気分になります。

 一般に、生物の解剖実習は「きもちわるい」「いやー」「くさい」「さわれない」などの声が飛び交いますが、イカの場合は、かなり違います。私は「早く解剖を終えてイカ焼きを食べよう!」という雰囲気を十二分に作るので、生徒は「早く食べたい」という気持ちだけになります。授業前に、遠藤先生が『しょう油味のイカ焼き』を作っておいて、理科室に良い匂いを充満させておき、授業の導入で、美味しそうに食べながら、「これはイカの筋肉ですが、目で見て確かめた後に、舌でも確かめてみましょう。先生の舌によると、しょう油味が最高です!」とでも話せば、生徒のやる気は120%になると思います。ただし、50分授業で焼いて食べて片付けるためには、先生と生徒の両者の手際良さが要求されます。私はぎりぎりやり遂げます。

3 どこにポイントを絞って解剖をしたらいいのか?
→ 消化器官(口、胃、腸)、鰓、心臓、肝臓、生殖器官(卵巣あるいは精巣)、筋肉で十分でしょう。

4 どのような授業の流れにするのがいいのか?
→ 私なら次のようにします。

(1)先生が美味しいイカを食べる。(2分)
※ しょう油焼き、イカそうめん、イカの塩からなど
※ 希望生徒に食べさせる方法もお勧めです!

(2)先生が、イカを食べるための準備として、解剖することを示す。 (10分)
 (ア)はさみで切る。
 (イ)内蔵を観察する。
 (ウ)上記観察ポイントを確認する。
※ 実際のイカは、個体によってかなり違います。事前にいくつかの魚
屋いろいろな種類のイカを購入し、調べる必要があります。
※ 丁寧に指導するなら、イカの図を印刷したプリントを用意してくだ
さい。
※ もっと丁寧にするなら、イカの内蔵図を示したプリントも用意して
ください。
 (エ)スケッチすることを確認する。
※ 事前に、イカの全体図だけは印刷しておくべきでしょう。
 (オ)イカの焼き方、食べ方を説明する。
 (カ)生ゴミの捨て方の注意をする。

(3)生徒に解剖実習させる。(35分)
※ 観察、スケッチができた班は、遠藤先生に合格印をもらうようにさ
せると良いでしょう。
※ 合格した班から、舌による実験を行わせて下さい。
※ 焼くための時間がかかることも計算し、小さく切って焼くことも視
野に入れてください。

(4)片付けさせる。(8分)
※ 十分な時間を確保してください。

 最後に、1つアドバイスさせて頂くと、『生徒にイカを持参させる』ことをお勧めします。生徒のやる気が全く変わるからです。そして、できるだけ新鮮なもの、冷凍ではない生のものを持参させてください。刺身で食べられるようなものは値段が350円以上しますが、内蔵もピカピカに光っていて美しく観察できます。肝臓を使って、美味しい塩辛もできます。生徒に食べさせると、ほとんどの生徒は病付きなって「もっと食べたい」と言います。騙されたと思って、生徒に食べさせてください。美味しいものは中学生でも分かります。女の子もばくばく食べますよ。

それでは失礼します。

名古屋市立東港中学校
福地孝宏



福地先生、こんばんは。

 以前、イカの解剖の授業で研究授業をやると言うことで、授業の相談をさせていただいた遠藤と申します。その節は、お返事のメールの中で、丁寧にアドバイスをくださり、ありがとうございました。昨日、その研究授業が終わりました。

 イカの解剖なんて、やったことない、という先生方が多く、「今日は勉強になった」という感想をいただくことができました。結局、以下のような授業の流れにしてみました。

1.外観の観察
2.イカの口を探す
3.口から先の内臓はどのように配置されているか想像する
4.実際、口からスポイトで空気を送り、肛門までどのような道になっているか調べてみる

 という感じです。50分の授業で、考えさせながら解剖をやるっていうのは、このくらいしかできないのかなぁなんて思いながら、授業案を作成しました。

 あまりにもまだ、言い足りないので、翌日ももういちどイカの解剖の続きをやりました(目や、エラ、心臓など、詳細を紹介して最後は食べるところまで)。生徒には2人で1杯のイカをわたしたので、どの子もイカに触らざるを得ない状況で、よく、がんばったなぁと感じました。

 今回の研究授業を通して、多くのことを学びました。福地先生にも、感謝しています。また、これからも、先生のホームページを参考にさせていただき、自分の授業のスタイルを試行錯誤していきたいと思います。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

                             遠藤



遠藤先生、お疲れさまでした。

 無事に研究授業を終えることができて、よかったですね。他の先生方から、「今日は勉強になった」という感想を頂いた、ということを聞かせもらい、私もとても嬉しいです。やったー! です。

 とくに素晴らしいと思ったのは、スポイトを使って空気を口から送って消化器官を調べることです。私は、すぐに食に走ってしまうのでダメです。私も次のイカの実習では負けないような方法を編み出したいと思います。

 それから、今回の件で遠藤先生から頂いたメールをHPに掲載してもよろしいでしょうか。若い先生の励みになると思いますので、是非、許諾頂きますようにお願いします。『静岡県富士市の中学校の遠藤先生』ということで考えていますが、もっと正確に、もっとプライバシーを守って、というご希望がありましたら、それもお聞かせください。

 それでは、また何かありましたら、是非メールをください。お待ちしております。

   福地



福地先生

 こんばんは。富士市の遠藤です。わたしのメールをHPに掲載してくださる件、とても光栄です。お断りする理由はありません! いつも参考にしているHPに、自分が少しでも貢献できたら、とても嬉しいです。ありがとうございます。その、「静岡県富士市の中学校の遠藤先生」で、良いです。

 消化管に注目する、という解剖は、好評でした。時間はもちろん、これだけで終わってしまうので、
翌日、その途中まで開いたイカを使い、講義形式の解剖をやりました。わたしが、実物のイカをモニターに映して解説をしながら、生徒も解剖です。

 「えっ」という驚きの声が多く、うれしくなりました。特に、教科書通りではなく、一通りヒトの体のつくりを学んだ後にイカの解剖を行うように、単元内の内容の流れを入れ替えてありますので、驚きも大きくなったのではないか、と内心大喜びしています。(学習指導要領では、イカの解剖からは、無せきつい動物の特徴を押さえればよい、程度しかなく、わたしの解剖は、そこまでやる必要があるのか、とか、単元内の内容を入れ替えたことに、授業案を検討してくださった先生方の頭を混乱させてしまったということを経ていたため。)

 解剖二時間目の後半は、外套膜を舌で味わう、ということで、焼いて生徒に食べさせたのですが、あのイカを焼いているにおいは、中学生でも「おいしそう」と感じるみたいですね。前の時間に違うクラスの生徒がイカを焼き、そのあと入ってきた別のクラスの生徒は、最初からやる気満々になっていました。福地先生がおっしゃっていた、「イカのにおいを充満させておいて、生徒のやる気をわかせる」ということが、とても実感できました。

 解剖が終わったクラスは、「イカとヒトの体の共通点や異なる点」ということを挙げさせました。別にイカの解剖図を見ながらでもなく、教室での作業だったのですが、たくさん意見が挙がり、イカの体のつくりをここまで覚えてしまったのか、とまた、嬉しく思ったところです。

 動物分野が終わると、天気の単元になります。すっかりトーンダウンしないように、また、教材研究に励みたいと思います。もちろん、福地先生の書籍やHPを参考にさせて頂きます。これからも、よろしくお願いいたします。
                             遠藤



遠藤先生

 おはようございます。ご快諾いただき、ありがとうございます。早速、これまでのメールの整理を始めましたが、遠藤先生の立派な実践がよくわかる文章なので、嬉しく思います。どうしようか迷っている若い先生の励みになると思います。
 
 とくに、単元内の順序を入れ替えて、イカの解剖実習を動物の学習のまとめに位置させたことは大正解だったと思います。生徒だけでなく、授業案を検討してくださった先生方も当日驚いたということですが、感動や驚きは周到な準備によって生まれるものです。大きな自信と経験になったと思います。これからもカリキュラムをびしばし入れ替えてください。
→ 参考:Taka先生のカリキュラム案 人体・動物、生態系
 最後にイカを食べたことで、次の生態系(食物連鎖)へつながります!

 次の時間は、途中まで開いたイカをモニターに映し、先生が解説しながら生徒に解剖させる講義形式の授業をされたようですね。解剖技術の習得、観察ポイントへ照準を合わせること、に専念したことも大正解です。これは、生徒から「えっ」いう驚きの声がたくさん出たことから証明されています。

 授業後半の『外套膜を舌で味わう』も好評だったようですね。次は、肝臓と外套膜と食塩を使った『イカの塩辛』に挑戦してください。新鮮なものは、とろけるような旨さです。肝臓は、最高の栄養がたくわえられていることを感じさせてください。アミノ酸から作られたグリコーゲンです。もし、遠藤先生がお嫌いなら、騙されたと思って食べてみてください。自分で作ったものを、です。

 そして、実習後の教室内で、活気あふれる授業ができたことは、容易に想像できます。これまでの授業研究と実践の努力の賜物です。本当にお疲れさまでした。これまでの苦労が報われたことと思います。

 さてさて、次に学習する『気象』のポイントは、やっぱり「雲」でしょう。大気中の水です。水は3つの状態になります。ふだんは目に見えない『水蒸気(気体)』ですが、雲は目に見える水(液体)や氷(固体)に変化し、大気中に浮かんでいるものです。目に見えない水分子の動きをイメージできるようになれば完了です。科学的想像力に溢れる子どもを育てることが目標の1つです。

 毎時間、授業の初めに窓を開け、雲を見てください。雲を観察し、解説してあげてください。ただし、雲の分類はとても難しいので「積雲のような雲」「層雲と乱層雲のあいだの雲」で十分です。自然は、数学のように完全に割り切れるものではないことを教えることも重要です。風向は、雲の動きから分かります。そして、毎日の天気、教室内の気温と湿度も記録させます。これだけで、私たちを取り巻く大気をかなり意識できるようになり、感性が研ぎすまされていきます。
→参考:Taka先生のカリキュラム案 気象学入門

 それではまた。

 福地

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