このページは、Taka先生による中学校理科の授業記録 地球科学 です。

Taka先生のカリキュラム案

物理学 単元2

気象学入門

 「みなさん、西の空を見て下さい。真っ黒です。寒冷前線です。気温が3度下がり、雷をともなった積乱雲が土砂降りの雨を降らせるでしょう。ただし、あっと言う間に終わるので、へッドスライディングの練習をしたい野球部員は急いで準備して下さい。なお、湿度は100%になりますが、外気温より窓や廊下の床の温度の方が高いので、露で転ぶ可能性はありません。窓の開け放しと急激な気温の低下に注意して下さい。」

 暑い夏の放課後、こんな劇的なチャンスが訪れたなら全校放送のスイッチを押して下さい。それが理科の教師の仕事です。生徒は、先生が予想した通りに天気が移り変わることに驚くだけでなく、ダイナミックな気象現象が科学的に分析できることに感動をおぼえ、気象にとどまらない大自然のすばらしさをより高い次元の視点で見つめることができる自分に心時めかせることでしょう。

 さて、この単元は次のように構成されています。

第1章(10時間)
身近な気象観測

第2章(5時間)
気 団

第3章(5時間)
天気図を書く
1 気温と湿度
2 飽和水蒸気量と露点
3 風向、風速、大気圧
1 日本の四季
2 4つの前線
3 雲の観察
4 低気圧の誕生から消滅まで
1 天気図記号
2 天気図を書く

(上図:Taka先生の地学カリキュラム案2『気象』)

 カリキュラム編成上、最後まで悩んだのは雲の観察の位置でした。私が扱った教科書は、いずれも気象学の導入として雲の観察をさせましたが、授業における生徒は、「へー、10種類に分類できるんだ!」と、クイズ番組の答えに驚いた時のような反応でした。唐突な分類にピンと来ないのです。自分の目で確かめたり、過去の経験から推測できなければ面白くないのです。そこで、私のカリキュラム案では第2章の最後に移動させることにしました。ただし、実際の授業では、特徴的な雲が現れた時には、教室や理科室の窓から観察させる必要があると思います。

 また、日本は四季によって気候が大きく変わります。学習する季節を考えて順序を変更することは当然です。とくに、梅雨の季節、台風シーズンは最高です。理論的なカリキュラムは一切無視して、今起こっている気象現象の原因を調べて下さい。

中学生にとって難しいこと
1 低気圧や高気圧の中心の風のふき方
2 低気圧と高気圧の3次元的なイメージ(このイメージが確立されれば磁界のイメージのイメージもできるようになるでしょう。
距離の二乗に反比例することは問題ではない。3次元的空間における凹みをイメージする方が難しい。その次のイメージ、つまり、時間と空間を同時にイメージする方が簡単だと思う(私の場合)。
3 前線面の角度や雨雲の範囲を立体的にイメージすること
(平面地図における雨域なら無理矢理暗記することで解決しますが、、、)

地震、火山について
 私たちの生活に直接関係する災害情報を発信している気象庁は地震や火山に関することも扱いますが、このカリキュラム案には含まれていません。これは一般的な気象学の分類と同じです。地震や火山に関する学習については、
Taka先生のカリキュラム案1岩石と鉱物、地震を参照して下さい。

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授業の展開例
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20時間完了
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第1章 身近な気象観測

第1時 気温と湿度の測定2年(2003年)
 気象観測の第1歩として、もっとも身近な気温と湿度を測定させたい。そして、オーガスト乾湿計の使い方をマスターすることで、飽和水蒸気量や露点への興味関心を引き出したいと考えている。また、オーガスト乾湿計を廊下に設置することで日常的に気象観測を行わせ、継続的な観測の面白さを味合わせたい
(参考Aさんの記録。なお、この授業記録は第5時なので、第1時で行い場合は次の流れをおすすめします。
<主な授業の流れ>
1 温度計で温度を、湿度計で湿度を測定する
2 湿度100%の状態を考える
3 オーガスト乾湿計で湿度を求める
4 生徒実験 湿度を測定する

<準備> 温度計、湿度計、オーガスト乾湿計、ガーゼ、水
<他の年度の実践例>
観測1 身近な気象
2年(2000年)

第2時 気温と湿度の関係2年(2003年)
<ねらい>
1 2つの縦軸をもつグラフを書かせる
2 「晴れ」と「曇り」日の、気温と湿度の関係をまとめる
3 自由研究として、継続的に計測・グラフ化させる
<準 備> オーガスト乾湿計、生徒用机、

<他の年度の実践例>
観測2 気温と湿度の関係
2年(2000年)

第3時 気温と飽和水蒸気量2年(2003年)
 1時間で終了したいところだけれど、中学2年生でありながら100%の意味が理解できていない。算数レベルでつまづいている現状を無視することはできないので、実際は2時間必要になるでしょう。練習問題もしてあげましょう。忍耐が大切です。
<ねらい>
1 飽和の意味を知る
2 空気中を飛び回っている水分子をイメージする
3 飽和水蒸気量曲線から湿度や水蒸気量を求める

第4時 ゆとりの時間
 飽和水蒸気量についてじっくり復習して下さい。2000年度の実践
飽和水蒸気量のように、教室内の水蒸気量を求めるのも面白いと思います。とにかく、こんなところで気象を嫌いになってもらったら困ります。

<実践例>
飽和水蒸気量2
2年(2000年)
湿度の求め方2年(2003年)

第5時 露 点2年(2000年)
 理科室の露点を測定しましょう。露点とは、空気中の水蒸気が露(水滴)に変わる時の温度です。その時の湿度は100%になっています。その時の水蒸気の様子を、分子モデルを使って説明できるようにすると楽しみが倍増します。なお、露点は測定する日の湿度によって大きく左右されます。

<準 備>ステンレス製コップ、温度計、氷、ビーカーとセロハンテープ

<他の年度の実践例>
実験2 露点の測定
2年(2003年)・氷を使った実験

第6時 雨(雪)を作ろう2年(2000年)
 ここには3つの実験方法が載っていますが、温度を下げる方法は次の2つです。1つはドライアイス、もう1つ空気の断熱膨張を利用することです。後者の実験として、試験管、ゴム栓とガラス管を使った実験1の2雲を作ろう2年(2003年)が簡単で良いと思いますが、他にも工夫して下さい。
<準備> ビーカーとドライアイス、ゴム栓、ゴム管、ピストン、線香、試験管、ゴム栓とガラス管、雲発生装置(市販品)
<他の年度の実践例>
実験1 雲を作ろう
2年(2003年)
実験1の2 雲を作ろう2年(2003年)

第7時 風向・風速の測定2年(2003年)
 難しい内容が続いたので、そろそろ気分転換をしましょう。簡単な風向測定装置を作って教室を飛び出し、できれば、校外の公園で自然な風を身体で感じましょう。
<ねらい> 
・ 校内で風向を調べる(天白川も面白そう)
・ 風向(16方位)と風力(13段階)
・ 方位磁針もいっしょに持たせる
<準備> 割り箸、鉛筆、ビニールテープ、虫ピン、セロハンテープ、鋏

<他の年度の実践例>
観測1 身近な気象
2年(2000年)

第8時 等圧線(平面図と断面図)2年(2000年)
 先生、どうして風が吹くの?と質問されたときの答えが用意してあります。なお、2000年度の等圧線(平面図と断面図)では、平面図に等圧線を書く作業をしました。これは、平面図から断面図を書く作業よりもセンスが必要です。
<ねらい> 
<準 備> ワークプリント

<他の年度の実践例>
実習2 等圧線
2年(2003年)

第9時 大気圧2年(2000年)
<ねらい> 
<準 備> アネロイド気圧計、蓋付きのペットボトルやアルミ缶、水、ビーカー、ガスバーナー、三脚、金網、できれば焼けど防止用の軍手(雑巾)、マグデブルグ半球

<他の年度の実践例>
観測3 気圧の測定
2年(2003年)

第10時 ゆとりの時間
 これまでの知識が定着しているか小テストを行うのも悪くないでしょう。また、単純に大気圧の復習をするのも悪くありません。

<他の年度の実践例>
基本操作 ガラス細工
2年(2000年)
番外編:ドラム缶を使った大気圧の実験2年(2000年)

第2章 気 団

第11時 日本の天気2年(2003年)
 日本の周りには4つの個性的な空気のかたまり(気団)がありますが、これらは季節によって力関係を変えます。これが日本の四季の原因です。内容は簡単なので、色鉛筆を使ってきれいに楽しくまとめて下さい。
偏西風、貿易風など『地球からみた大気の大循環』は、社会科の学習範囲なので、事前に担当の先生に相談して下さい。

補足: 大陽エネルギーの照射量による季節変化については、次の天文分野の授業記録を参照して下さい。
日本の四季(3年)2004年
四 季(1年)1999年

第12、13時 4つの前線2年(2003年)
 2時間使って学習しましょう。合わせて雲の観察もさせますが、雲はタイミングが大切なので、本時から第14時いろいろな雲の間は、毎回観察して下さい。天気に応じて指導順序を入れ替えることも必要です。雲に限らず、天気は1時間で大きく変わることもしばしばです。
<学習内容>
1 寒冷前線(2種類の雲)
2 温暖前線(8種類の雲)
3 停滞前線
4 閉塞前線
・ 前線は2つの気団の境界にできる
・ 4つの前線を断面図を書き、前線面の形、雲や雨の降り方、天気の変化をまとめる

第14時 いろいろな雲2年(2003年)
 私の実践記録では、気象学の第1時として雲の観察をさましたが、生徒レベルではピンと来ないのが現実。そこで、このカリキュラム案では、学習の最後に近い位置に持ってきました。これで生徒の雲を観測する目は相当に育っているはずです。さあ、校外の広々とした公園や、校舎の屋上で360度全天を見渡しながら雲を観察しましょう。

<準 備> 屋上へ出る鍵、あるいは、校外にでる許可
<他の年度の実践例>
観察1雲
2年(2000年)

第15時 低気圧の誕生から消滅2年(2003年)
 低気圧が誕生から消滅するまで、どのような雨を降らせたり、どのような前線変化をさせるのかを調べます。できるなら、平面的な前線ではなく、立体的な前線面をイメージしながら学習したいです。

第3章 天気図を書く

第16時 天気図を書こう12年(2003年)
 ラジオ気象通報を聞き取れるようになると嬉しい! その単純な喜びを1人でも多くの生徒に味合わせたいこと、中学校を卒業して一般人になってからも新聞の天気図を簡単に読み取れるだけの知識は身に付けさせるために4、5時間計画で天気図の学習を始めましょう。さて、1時間めの今日は風向風力天気気圧気温の記述方法に確認を中心に行いますが、とくに天気の記号については初めてなので、じっくり1時間使っても悪くないでしょう。
<準 備> 本日のNHK第2ラジオの『気象通報』を録音したテープ、CD、天気図用紙
参考資料:雹ひょうの画像

第17時 天気図を書こう22年(2003年)
 今日から本格的にラジオ放送を聞きながら、天気図用紙に書き込むようにします。時間に余裕がある場合は、左上の一覧表(写真右)だけに止め、平面図への書き込みは次時に行って下さい。
<準 備> 同上

第18時 天気図を書こう32年(2003年)
 一覧表ではなく、直接平面図に書き込むようにします。また、緯度や軽度に注意しながら船舶からの報告も記入させます。できない生徒は家庭学習にさせてもよいですが、興味関心を引き出すような工夫が必要です。数週間前から新聞の天気図の切り抜きを集めさせておくことも有効です。

<準 備> 同上

第19、20時 ゆとりの時間
 さらに、4種類の前線を書き込ませて下さい。完成したら、どこが晴でどこに雨が降っているのか、具体的に考えさせてみましょう。天気図や気象衛星ひまわりからの写真と合わせると、大変面白いです。なお、等圧線を記入することもあまりお勧めできません。実際の天気図に書き込むには、相当に適当なセンスが必要になります。大きな台風や低気圧がある場合なら話は別ですが、、、。それでは、毎日の天気予報と気象通報をマメにチェックしながらタイムリーな授業を展開して下さい。
<準 備> 同上

以上です!

note
観測項目 定義(測定方法)、最小単位
降水量 雨や雪などの量
雪、あられ、雹、みぞれなどは溶かしてから測定
0.1mm
積雪量 地面からの高さを測定
1cm
風 向 風が吹いてくる方向
10分間の平均値
16方位
風 速 風の速さ
10分間の平均値
1m/秒
気 温 大気の温度
0.1度

湿 度
大気の湿度
1%
日照時間 太陽が照らした時間
0.1時間(6分)
 上記の項目を自動的に観測するシステムをアメダスAutomated Meteorological Data Acquisition Systemといいます。1974年11月1日から運用が開始され、2005年現在、全国約13000箇所に測定所があります。


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