このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 1年(2012年度)です

第18時
実験18:植物の呼吸

     2012 6 6(水)金星の太陽面通過(7:10〜13:48)
     2012 6 7(木)
     理科室、教室    

はじめに
 植物は呼吸しています。呼吸は全ての生物がおこなっている活動で、酸素を使ってブドウ糖(グルコース)を分解し、生活に必要なエネルギーをつくり出す物質代謝です。その結果、水と二酸化炭素が不要物として出されます。呼吸する場所は、細胞内のミトコンドリアです。鼻(ヒト)や気孔(植物)は空気の出入り口、肺(ほ乳類)は酸素と二酸化炭素の交換場所であり、いずれも呼吸場所ではありません。

 ミトコンドリアは高校で学習する細胞小器官ですが、その名称は中学1年で教えるべきでしょう。「細胞の中には顕微鏡で見えない無数のミトコンドリアがあって、そこでブドウ糖を燃やしているんだよ。酸素は燃やすために必要で、二酸化炭素は不要物として排出される。つまり、1つひとつの細胞が栄養分を燃やしてエネルギーをつくっているのだけれど、それを呼吸というんだ。光合成する葉緑体も凄いけれど、呼吸するミトコンドリアも凄いだろ。」と紹介した方が、生徒は納得すると思うからです。もちろん、授業は生徒主体に授業を進めます。

 それから、植物とは何か。その定義にも触れます。(1)光合成で栄養分をつくることができる生物、(2)葉緑体をもっている生物、以上2点を満たす生物を植物、とします。生物の分類方法はたくさんありますが、中学1年生ならこれで十分でしょう。大切なのは、植物の定義をすること、生物を定義するための生命活動の1つとして呼吸があること、定義する理由となるものが細胞内にあること、以上3つを明確に示すことです。私がこの単元を植物ではなく、植物学入門としている理由の1つはここにあります。入門は言い過ぎかも知れませんが、学問の楽しさや門を叩く力強い姿勢をつくることが私の理科教育の目標です。


上:黒板に発表された呼吸に関する生徒の考え


本時の目標
1 植物は呼吸することを知る
2 呼吸とは何か考える
3 呼吸をしないと生物は死ぬことを確認する
4 呼吸は、からだじゅうの細胞内にあるミトコンドリアが行う活動であることを知る

準 備
生 徒 教 師
  • 筆記用具
  • 教科書、理科便覧、ファイル
  • 本日の学習プリント (1/人)


授業の流れ

(1) 本時の内容紹介
 今日の授業プランの詳細は、いつもより未定です。『呼吸』に関する生徒の意見、出てきた意見に対する意見交換の様子を見ながら、どこまで追求するか現場で決定したいからです。もっとも欲張る場合は、呼吸と光合成の化学反応式まで持ち込みます。酸素や二酸化炭素を調べる簡単な演示実験もしたいです。

(2) 問題1:植物は呼吸するか?
 「第1問。植物は呼吸をしますか? イエスかノーで答えてください。学習プリントには問題も書きなさい。問題と答の両方を書くこと」と指示します。


上:本日の一番初めの板書

 3クラスで授業を行いましたが、ほぼ全員Yes でした。No と答えたのは3クラス合計で数人。植物が呼吸するのは、社会の常識になっているようです。すごい時代になりました。

(3) 問題2:呼吸とは何か?
 「植物が呼吸している、っていうことは呼吸している、っていうことです。では、呼吸って何でしょう? 植物も動物も同じように呼吸しているわけですが、呼吸とは何か! 自分の考えをプリントに書いてください。教科書に書いてあることもまとめますが、先生はそれでは満足しません。あまりに簡単すぎますからね。小学生でも分かるようなことを、わざわざみんなで話し合うわけがありません。呼吸の本当の意味を考えてみましょう。間違っていても大丈夫です。みんなや先生がびっくりするような考えを発表してください。それでは、自分のプリントにまとめることができた人から発表してください。第1回戦と第2回戦を行います。第1回戦では、みんなの意見を先生が丸、三角、ペケの3段階で判定します。それを参考にして第2回戦を行いましょう。もちろん、教科書に書いてあることは三角程度です。ユニークで面白い考えを出してください。丸でもペケでも構いません。呼吸についての意見を募集します。何か質問は? ・・・(質問は随時答え、つぶやきは随時拾う)・・・では、書いてください。」


上:黒板に発表する生徒達

 「では、第1回戦です。みなさんと一緒に考え、判定していきましょう。先生は最後に3段階で言いますので、みなさんも1回手を挙げてください。では、1つめ『ブドウ糖を燃やすこと』を丸、だと思う人! (自分の考えを発表しやすくするために先生は腕をまっすぐに挙げて挙手の姿勢を示す)・・・@人。三角だと思う人! (同じように挙手の姿勢を示す)・・・@人。ペケだと思う人! (同様に示す)・・・@人。なるほど、では先生の判定を紹介すると、これは完全な丸です。なぜ丸なのかは、全ての判定が出てから共通点を探せば出てくると思います。2つめ『息を吸ったり履いたりすること』を丸だと思う人! ・・・以下省略」


上:生徒の意見とその判定(第1回戦)

 「では、第1回戦の結果を参考にして、もう一度自分の考えをまとめてみましょう。共通点を探したり、より正解に近いものをまとめてみましょう。」


上:第2回戦後の黒板
 上の黒板のうち、白いチョークで書かれた『酸素を使ってブドウ糖を燃やすこと』と『栄養分を燃やして、生きるエネルギーをつくること』の2つは、私がまとめたものです。


上:他クラスの発表
 クラスによって、同じ発表内容でも私の判定が微妙に違います。これは授業中の生徒とのやりとりによって基準を微調整するからです。1つひとつの細胞内のミトコンドリアが行う呼吸を理解させるための最短距離を模索、選択しているからです。

(4) 実験3:息をどれだけ止めていられるか
 「(黒板に『実験:息を何秒止めていられるか』と板書して、時計の秒針を見て、秒針が真上のになった頃を見計らって)呼吸しなければ死んでしまうことは十分に分かったと思うけれど、ここで簡単な実験をしましょう。息を何秒止めていられるか調べます。やり方は、まず、全員に起立してもらいます。そして、息を止めます。スタートは、理科室の時計(時計を指差して)の秒針が12のところです。一斉に息を止め、そして、息をしてしまったら着席です。時間は自分で測ってください。では、(時計の秒針の位置を確認して)20秒前になりました。準備ができた人は起立してください。・・・(時計の秒針が10秒前になったら)10秒前。測定は1回だけです。本気でお願いします。5秒前、・、3、2、1、始め!」


上:思い思いの方法で集中し、息をとめる生徒達

 「(20秒経過したところで)中学生なら30秒は我慢できるはずです。頑張ってください。(30秒経過したところで)45秒できれば、かなり良いです。60秒以上なら自慢できるレベルです。(45秒過ぎたところで)まだ頑張っている人がいますね。彼らの顔や赤くなってきていることがわかりますか。これは、血管が膨張して血液を送ろうとしているからですね。何とかして酸素を送ろうと、血液がぐるぐるまわっている証拠です。息をしていない振りをしているだけか本当の止めているかは、顔の色を見ればわかるわけです。涙が出てくるようならかなり本物です。」

 「(本当に顔が赤くなっている生徒を探して)A君を見てください。A君は顔が真っ赤になっています。彼は間違いなく息を止めています。もちろん、息をとめるのに慣れている人は逆に青くなることもありますが、青くなる場合は危険なので、すみやかに中止すべきです。もちろん、息を止めている振りをしているだけの人は顔色が全くかわりません。(80秒を超えるようなら)無理して倒れないようにしてください。すでに新記録、完璧です。」

 「(全員着席したら)自分の時間をプリントに記録してください。」

(5) 問題4:なぜ、顔が赤くなったのか
 「先ほど、先生が答えを言いましたが、もう一度質問します。息を止めていると死んでしまいますが、その前に顔や全身が赤くなってきたのは何故でしょう。その理由を説明できる人? ・・・(後略)」

写真右:板書例
 このクラスは、顔が赤くなった理由を理想的にまとめることができました。顔が真っ赤になったA君がいたからです。息を止めると酸素が不足して、酸素を脳に送ろうとして血管が拡張することがとてもリアルに分かりました。ちなみに、記録は85秒ほどだったと思います。
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上:他のクラスの板書例
 若干言葉が違いますが、キーワードは細胞です。細胞と酸素は外せない語です。なお、このクラスの『だんだん体じゅうの血管が膨らんで、二酸化炭素を出して酸素を体じゅうの細胞へ運ぼうとする』というまとめは、問題3として扱っています。以下の問題番号4が上の問題番号4と同じなのは、このクラスの実践記録だからです。

 以下の(6)と(7)は1クラスだけでまとめました。他の2クラスは、これらを飛ばし、一気にミトコンドリアを紹介しました。

(6) 問題4:酸素がなくって1番初めに死ぬ細胞は?
 上の問題『顔が赤くなる理由』を考えさせる過程で、息を止めていると死んでしまうことはわかるよね、とヒントしました。さらに、死んでしまうのは何かな? すべての細胞が一斉に死んでしまうのかな? とヒントを追加しました。これは口頭なので、時間のゆとりがあるクラスは板書することにしました。


上:酸素がなくって死ぬ細胞の順序
 正しくは、血流が止っても生きていられる時間です。脳細胞は3分、筋肉細胞は2時間としましたが、これもかなりアバウトです。目的は細胞の種類によって生き延びることができる時間が違うこと、細胞にはいろいろな種類があってそれぞれの特性があることを理解することです。なお、授業では次のような配慮をしました。「死ぬと言う表現はあまりよくありませんが、わかりやすいと思うので使います」「3分間息を止めたとしても細胞は死なないから大丈夫です。酸素は少なくなりますが、血管が膨らみ、心臓がどきどきしてカバーするからです。カバーできなくなってからが危険な状態になります。例えば、首を締められて完全に血流が止ると本当に3分で危険な状態になります。」

(7) 問題5:酸素は細胞の中で何をする?
 上の黒板のようにまとめました。

(8) 問題6:細胞内で呼吸する部分の名前は?
 答えはミトコンドリアです。これは紹介するだけです。ミトコンドリアを知っていた生徒は、3クラスで1人いました。どこで覚えたのか、本人もよくわからないようでしたが、よく知っていたものです。面白かったのは、私がヒント「ミトコ・・・・」を出した時、生徒が「ミトコウモン」と答えたことです。中学生も水戸黄門を観るのかなあ。


授業を終えて
 呼吸とは何か? 呼吸の話で盛り上がってしまい、2クラスで反応式をまとめる時間を失いました。ちょっと失敗です。それにしても、呼吸とは何か? 難解なテーマの討論で1時間終った不思議な授業でした。

金星の太陽面通過 2012 6 6(水)7:10〜13:48

授業冒頭の15分弱、金星の太陽面通過を学習しました。1時間目から5時間目まで観測できるので、合計3クラスで指導しました。授業がないクラスにも専用グラスを2つずつ配付し、放課中に観測できるようにしました。

授業でのポイントは、金星の大きさ、および、その時の金星の位置です。


上:板書例

ついでに、同じ距離から見た時の水星、地球、金星、木星、土星の大きさも紹介しましたが、ここでやっと、日食における『皆既日食』と『部分日食(金環日食を含む)』の違いを理解できた生徒が5、6人いました。しかし、彼らは立派です。公転軌道が楕円になっていること、見かけの大きさが変化すること、以上2点を理解できたからです。

その後、太陽グラスで観察しました。わー、本当だ! という友達の声を聞くだけでも、嬉しいものです。というのは、視力0.5以下の場合、金星がつくる黒い小さな点が小さ過ぎ、ハッキリ見えないからです。

私の矯正視力は1.2ぐらいですが、これぐらいあると、「ええっ、あるある、本当にある。見えるよ見える! まじで見える! ちょっと、みんなも見て! 次は105年後だから、金環日食より珍しいから見ないとダメだよ。小さいけれど、見て!」という感じのアピール度になります。

右:理科室の窓から観察する生徒
観察する時は、必ず、太陽グラスを使わせます。日食よりも危険です。なぜなら、太陽がほとんど欠けていないからです。しかも、金星の位置がわかりにくいので、比較的長時間凝視することになるからです。


上:自宅から持ってきた専用グラスを使って観察する生徒
 3年前のものだから、かなり役立っていますね。


上:放課中、教室の窓から観測する生徒

関連ページ
 実験3 植物の呼吸 1年(2002年)
 実験2 植物の呼吸 1年(1999年)

実践ビジュアル教科書『中学理科の生物学
第2章 細胞の構造とはたらき   動物細胞と植物細胞の比較
 エネルギーをつくるミトコンドリア 
 栄養分を燃焼させよう
 2つの呼吸!
 p.24
 p.36
 p.36〜p.37
 p.40〜p.41

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実験17 植物がつくるデンプン

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実験19 光合成と呼吸

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