このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 1年(2012年度)です

第47時
実習23:溶解度曲線

     2012 10 18(水)、19(木)
     理科室

はじめに
 私は3つのクラスを担任していますが、3つとも展開を変えました。テスト直前で、他の先生と進度を合わせる必要があったからです。ある1つのクラスは、前半25分で『食塩の再結晶の観察(授業記録『観察22':再結晶した食塩』参照)』、後半25分で『温度による粒子の運動量の変化のイメージ』をさせました。時間切れになり、このページの表題『溶解度曲線』を教えられませんでしたが、生徒の理解度は十分だったと思います。

 他のクラスは、前半25分で『温度による粒子の運動量の変化のイメージ』、後半25分で『溶解度曲線』の学習をしました。これに、定期テストのための問題練習を適切に取込み、最終的に3クラスとも同じ内容になるように仕上げました。※前後半25分は便宜上設定した時間です。

 ということで、このページは次の3つを紹介します。
(1) 『食塩の再結晶の観察 授業記録『観察22':再結晶した食塩』と重複します!
(2) 『温度による粒子の運動量の変化のイメージ
(3) 溶解度曲線

 これら3つの中の最重要項目は、(2)粒の運動量のイメージ、です。これができなければ、高得点をことだけを目的とする学習塾と同じです。目に見えない小さな粒子をイメージできる子どもを育てましょう。なお、本時に溶解度曲線を教えることができなかったクラスは、次時に問題なく完了しました。


上:ミョウバンの溶解度曲線を示した板書


本時の目標
1 水溶液中の溶質(粒)を擬人化し、低温になると不活発、高温になると元気になることをイメージする
2 物質はそれぞれ固有の溶解度曲線をもつことを理解する
3 水温によって変化する飽和水溶液の濃度を正しく理解する
4 溶解度曲線のグラフと、任意の量の溶質(g)から水溶液の濃度を計算する
5 再結晶する質量(g)計算する

準 備
生 徒 教 師
  • 筆記用具
  • 教科書、理科便覧、ファイル
  • 本日の学習プリント (1/人)

授業の流れ
(1) 食塩の再結晶の観察  (合計25分)

 主な流れは次の通りです。詳細は授業記録『観察22':再結晶した食塩』をご覧ください。

1) 食塩の再結晶の観察、スケッチ (10分)
 生徒観察の時間を10分とります。観察、スケッチの視点は、食塩の粒をイメージすることです。目に見えない食塩の粒が、集合して見えるようになったこと、規則正しく並んで立方体のようになること、再結晶した場所、などを調べさせます。目に見える食塩の結晶から、目に見えない食塩の粒をイメージさせることが大切です。

2)食塩の採取・標本づくり (3分)


上:視線を低くし、結晶を観察する生徒
.

上:ルーペを使って観察する生徒
.

上:標本にした結晶を調べる生徒

3) 食塩が再結晶した理由 (3分)
 「食塩はどうして再結晶したのですか?」と生徒に発問すれば、何人の生徒が以下のように説明します。
 水は蒸発するが、
 食塩は蒸発できない
 → だから →  食塩が再結晶する
(初めの水溶液は限界状態、飽和状態だったから)

4) 水溶液に溶けている溶質を再結晶させる2つの方法 (4分)
 水溶液に溶けている溶質を再結晶させる方法は2つあります。1つは水を気化させる方法。もう1つは飽和水溶液を冷やす方法です。


上:ここまでの板書

↓ ここから授業後半
 「ということで、水溶液に溶けている溶質を取り出す方法として、水を蒸発させれば良いことが分かったと思います。次に、みなさんにイメージしてもらうことは、これとは違う、もう1つの再結晶の方法です。それは、塾で教えてもらった人が発表した『水溶液を冷やす方法』ですが、正確には『飽和水溶液を冷やす方法』で、その理論をモデル図にします。水溶液を冷やすと、粒の元気がなくなり、水溶液を温めると元気が出てきます。その様子を描いてみましょう。」

(2) 『温度による粒子の運動量の変化』 (合計25分)
 上記のように導入してから、モデル図を描かせます。学習プリントにビーカー3つを印刷しておき、その中央をスタートにします。

1) スタートのビーカーに、溶質の粒10個を描く
 中央のビーカーに粒10個を描かせます。ポイントは、均一に配置すること、大き過ぎることも小さ過ぎることもない大きさで描くことです。温めたとき、粒を追加することを知らせると良いでしょう。さらに、このスタートの水溶液は『飽和水溶液』とします。飽和水溶液とは、溶質が限界まで溶けている水溶液です。


上: 上記1)〜下記5)の板書

2) 左は冷やし、右は温めることにする
 左は冷やし、右は温めることにします。それぞれを示す矢印をに着色させます。

3) 冷やした水溶液の溶質、5粒を再結晶させる
 水溶液を冷やすと粒は元気を失います。失ったものは、失ったものどうしで集まり、固体になります。規則正しい結晶になるので、再結晶といいます。物質の種類によって結晶の形が決まっていますが、ここでは問題にしません。元気を失い、ビーカーの底に沈んでしまったように表現してください。擬人化ぎじんかしましょう。

4) 再結晶がある冷たい水溶液は飽和水溶液か?
 生徒全員に発問してください。大多数が正解するでしょう。不正解の生徒には、各班の実験台中央にあるシャーレ内の水溶液を舐めさてください。舌で飽和を確かめることできませんが、激塩辛です。納得するまで、体感させるのも一案です。

5) 溶解度についてまとめる
 ここで、溶解度についてまとめます。その例は以下の通りです。


上:溶解度に関するまとめ

6) 温めた水溶液に溶質、5粒を追加する
 3)とは逆に、水溶液を温めると粒は元気を出します。同じ溶媒中(水100gの中)でも飛び回ることができます。下の板書では、『粒が元気になるから』としています。さらに、右端上の1粒は、水面から飛び出そうとして戻った様子をUターン矢印で表現しています。とても元気な様子、もう少しで、気体状態になる粒を表現しています。沸点78度Cのエタノールは、この図のように水より早く気化します。もちろん、エタノールは0度Cでも固体にならず、再結晶もしません。


上:ここまでの板書(粒の運動量=矢印の長さ

7) 水溶液を冷やしたとき温めたときの粒のまとめ
 下図を参考にして、粒の元気さ(運動量)と溶解度、再結晶についてまとめてください。堅苦しくまとめるのではなく、生徒のつぶやきや生徒の意見を使うことが大切です。当たり前のまとめ方は必要ありません。教科書に書いてあります。そのクラスだけ、その授業に参加した人だけがわかる言葉、新鮮なイメージを持つ言葉を使ってください。

上:A組でのまとめ(クリックすると拡大)

(3) 溶解度曲線
 いよいよ最後のステップです。前に描いたモデル図を溶解度曲線に変換します。

1) ミョウバンの溶解度曲線を書く
 「いよいよ本日のメインディッシュ、溶解度曲線です。名前は難しそうですが、実は簡単です。1本の曲線をグラフに描くだけです。物質は何でも良いのですが、食塩は温度によってほどんど変わらないので止めましょう。分りにくい曲線になります。砂糖やミョウバンや何でも良いけれど、もしかして、誰か、希望する物質はありますか! ・・・ないようなら、テストに良く出る物質を使いましょう。テストに役立ちますからね。A君、教科書では何を使っているか調べてください。ほら、みんなも探して! 何ページにありますか。」

 「ほう、やっぱりミョウバンを使っていますね。20度C、40度C、60度C、お手軽な温度で、お手軽なグラムになっています。いかにもテスト問題になりそうなグラフですね。では、これを丸写しすることにしましょう。」

 「グラフのポイントは軸です。横軸は何ですか? ・・・そうですね。水溶液の温度(度C)です。では、学習プリントに書いてください。・・・次に、縦軸は何ですか? ・・・おっと、これは難しそうなので、福地オリジナルにします。まず、溶解度(g)と書いてください。テスト問題では、何グラムか読み取ることになるので、グラムです。しかし、難しい問題の場合は、水の量が変化しています。通常は100gなのですが、50gになったり、200gになったりします。50gになれば半分、200gなら2倍です。50gは100gの半分、200gは100gの2倍だから難しいことはありませんが、テストに出題されるとかなり難しいものになります。ということで、水100gに対して、とうことが重要なので、それを書いておきましょう。すなわち、水100gに対する限界の量(g)。」


上:B組の板書

 「軸ができたら、できたも同然です。20度Cのとき何gですか。F君、調べてください! ・・・はい、よろしい、11.4g。 次は40度Cのとき、Gさん! ・・・はいその通り、23.8g。 最後にH君、60度Cの時 ・・・ 正解、57.3gです。これを、1本のなだらかな曲線で結んでください。折れ線グラフは×です。本当は、21度C、22度C、23度、24度Cのデータをとるわけです。3つは、たった3つに過ぎないので、その中間にも無数の正しい値があることをイメージして、美しいなだらかな1本の直線を書いてください。それが科学的思考であり、科学的なセンスです。美しい曲線を描くことができる人は、科学的な人です。おっと、水温0度Cの時のグラムも書いておきましょう。さらに美しくなります。教科書と見ると、・・・、5.7グラムですね。」

2) 前のモデル図と溶解度曲線を対応させる
 「ここから、テスト問題のような説明に入りますが、実は、前に描いたモデル図と溶解度曲線は同じです。モデル図のスタートは40度C、それを冷やしたものは20度C、温めたものは60度Cです。冷やしたものは溶解度が低くなるから再結晶しますが、その量は、引き算で求めます。簡単すぎてびっくりですね。温めたものの溶解度はあがりますので、さらに溶けるようになります。その量は、やはり引き算です。これまたびっくりするほど簡単な引き算です。


上:C組の板書
 40度Cを中心に、冷やし(20度C )、温める(60度C)

3) 冷やして、再結晶の量を計算する
4) 加熱して、さらに溶ける量を計算する
5) 計算のポイントをまとめる


上:C組の計算問題の板書

◎3つのクラスのいろいろな板書

上:クリックすると拡大


上:クリックすると拡大


上:クリックすると拡大


上:クリックすると拡大

◎ 生徒2人の学習プリント

上:クリックすると拡大


上:クリックすると拡大


授業を終えて
 なめならな曲線を描くためには、科学的思考力が要求されます。定期テストの問題で調べるよりも正確です。同じように、3つのビーカー内にある溶質のモデルを見れば、その子どもの科学的表現力がわかります。もちろん、先生がどれだけ教えることができたかも調べられます。

関連ページ
実験14 ミョウバンの溶解度 1年(2002年)
溶解度 3(ミョウバンの溶解度曲線)  1年(1999年)
溶解度 4(再結晶) 1年(1999年)

実践ビジュアル教科書『中学理科の化学
第6章 水溶液  最高に濃い食塩水をつくろう p.104
飽和と平衡と再結晶 p.105
食塩の結晶をつくる p.106、p107
硝酸カリウムの再結晶(溶解度) p.108、p109
溶解度曲線
 ある物質が水100gに溶ける量を溶解度といいます。溶解度と温度
の関係をグラフ化したときの曲線を、溶解度曲線といいます。ほとん
どの物質は、高温になるほど溶解度が大きくなります。
p.110

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