このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 1年(2012年度)です

スペシャル授業:1年生の復習
3年生で復習する『浮力』2

     2012 5 21(月、7.30-7.33金環日食)5限
     普通教室

はじめに
 来週から中間テストが始まります。3年生の定期テストは1、2年で学習した範囲が少しずつ出題されるので、生徒からのリクエスト授業を行いました。3年テスト範囲を終了したからです。アンケートの結果、密度、圧力、水圧、大気圧、浮力、質量パーセント濃度、音が進む距離、凸レンズ、光の屈折、化学変化の基礎、温帯低気圧、日本付近の季節変化などの候補が出ましたが、希望者が多い静力学を中心に復習することにしました。

 本時はリクエスト授業4回目で、テーマは浮力です。これまでに行ったテーマは密度(10分)、2回目は圧力(50分)、3回目は水圧と大気圧(50分)でした。いずれも生徒のリクエスト率は70%〜80%でした。

 それから、今日は東京から1人の中学校理科の先生が授業見学にいらしゃいました。今日の3年授業は4限と5限(本時)です。私は違うテーマの授業をお見せしようと、授業開始直後に再度希望調査をしましたが、同じ内容になりました。優先順位は生徒の方が遥かに上なので仕方ありません。仕方ないので、同じ浮力という内容を、まったく違う展開で行うことにしました。そして、HP『生徒が教壇で教える授業』の典型例になるように、生徒が教壇に立つ時間を60%以上にすることを目標の1つにしました。結果として、70%以上になったと思います。4限に生徒の学習レベルを把握できたことが高い割り合いになった原因の1つです。

 見学の先生と私は、教室後ろのロッカーで楽しく生徒の活動を拝見させて頂きました。なお、写真はすべて見学された先生から頂いたものです。私は撮影するのを忘れて楽しんでいました。先生が楽しい授業=生徒が楽しい授業、なのでご心配なく!


上:教壇で、アルキメデスの原理をまとめる私(5限)


本時の目標(4限で実践したクラスと同じ)
1 1年で学習済みの『浮力』を復習する
2 生徒が教壇に立って教えることで、浮力を深く理解する

授業の流れ
 この授業は2クラスめです。初めに「浮力とは何か」質問したところ、1人の男子生徒が「水の中にある物体にはたらく水圧の差」と答えました。その答えを聞いた友達は「何言ってんの〜?」と目を丸くしていましたが、彼のあだ名は『教授』になりました。彼の説明は完璧だったからです。そして、私は教授による定義を使って授業を展開することにしました。切り込みの発問は4限と同じですが、開始1分から違う展開になりました。


上:生徒が答えた『浮力』

 浮力が発生する理由から始める授業は、王道です。初めに定義を示し、次に基本問題、そして応用問題の順に進む方法です。しかし、多くの生徒は冒頭でつまずき、倒れたまま最後を迎えます。最悪です。先生の独り相撲で終ることもあります。私は、自分が主体になる授業では『王道』を使いませんが、今回は王道を歩みました。歩んだ王様は生徒、私は道の清掃係です。

 なお、キング・オブ・キングはA君(教授)です。A君の発言がなければ、この企画は初めから存在しませんからね。授業は毎時間何が起こるかわからないけど、今日はキングの発言から始まりました。

第1ステージ:浮力が発生する原因
 私はA君を教壇へ呼び、そこで説明させました。しかし、彼の説明に満足した生徒は1人だけでした。説明は完璧ですが、説得できるレベルではなかったようです。もちろん、浮力を理解するためには、たくさんのポイントをクリヤーする必要があり、多くの生徒は複数のポイントでつまずいています。生徒達は、それぞれ違うポイントや場面でつまずいているのです。


上:完璧な説明をしたA君(掲載許可取得中)
 黒板の図は、事前に描いておきます。生徒が説明しやすいように、余白を大きくとることがポイントです。

 そこで、他に説明できる生徒を募りました。同じ内容でも、違う友達が話すと理解できてしまうことがあるからです。

 元気なB君が手を挙げました。ムードメーカーのB君の明るく楽しいキャラクターには期待が持てます。理科の成績も良く、テストで浮力の問題が出題さてても正解を次々に出せる能力を持っています。

 B君はよく通る声で解説を始めましたが、水圧、という語を使う位置を間違えてしまいました。その瞬間、ざわめきが起こりました。ざわめいた生徒達は水圧の意味を正しく理解しています。しかし、小さくざわめく程度で落ち着いてしまったのは、浮力全体の理解ができていないからです。

 そこで、私は一度『教授』にお願いしました。教壇に立ったA君は、より完璧に説明しました。理解できた人は3人に増えました。これはB君のお陰です。でも、まだまだです。ほとんど同じフレーズの繰り返しなので仕方ありませんが、同じ内容でもくり返すだけで理解できることが多々あります。1を聞いて1を知ることはできなくても、1を聞いて10を浮かべることはできます。同じことをくり返し聞くうちに、10の事象が結びついて1つの結晶になることがあります。


上:教授の説明を私がまとめたもの
 かなり大きく板書します。内容が難しいものはなおさらです。この先、どのような展開になるか不明ですが、しっかり書くことが第一です。消してよい場面になったら消します。消さない方が良いけれど、書き加えなければいけない場面になったら小さく書直します。

 私は、教授の説明を写真上のようにまとめました。赤と黄のチョークを使って、図中の語句を加え、さらに文でまとめました。
1) 深さが同じだと、水圧は同じだから、
2) 上と下の差が浮力になる。

第2ステージ:アルキメデスの原理
  そして、連続してアルキメデスの法則を紹介しました。アルキメデスの法則については、時間節約のため、かなり省略した形にしましたが、代表生徒が説明してくれました。(授業の詳細は忘れましたが)アルキメデスが裸でお風呂から飛び出した時の話を、誰かがしてくれたと思います。王様の王冠が純金か、銀が混入しているかを調べる方法を発見した時のエピソードです。この話はたくさんのステップがあり、100%理解するためには1時間必要なので、今日はさらっと流しました。今日のA君のストーリーを展開させているのであり、それを最後まで到達させるのが私の目標です。


上:アルキメデスの原理についてのまとめ


上:浮力は物体の体積で決まる、ことを知らせる私

第3ステージ:浮力は深さと関係する?
 アルキメデスの原理に連続して、浮力が体積と比例することを説明してくれる人を求めました。C君が立候補し、横に長い物体を書いて説明しました。立方体は浮力を生み出す上下の水圧差を示す矢印が1本ずつですが、横に長い物体は矢印が多くなります。この説明を理解できた生徒は70%でした。ただし、70%は浮力を理解できた生徒の割合いではありません。C君の説明を納得した人の割り合いです。


上:横長の物体は、浮力を生み出す矢印が増えることを示した図
 C君の説明は完璧でしたが、物体が小さいので、私が大きくしました。上図右にある横長のピンクの物体は、私が追加したものです。これで70%から90%になったのではないかと思います。

第4ステージ:浮力は深さと関係する?
 ここで大きく方向転換です。浮力は体積によって決まるが、深さは関係するのか? と発問しました。生徒の考えは50%50%。まだまだ理解できていないようです。私は、深さとは関係ない、と主張する生徒の中から、その理由を説明できる人を募りました。


上:浮力は深さと関係しないことを説明したC君の板書

 C君は、かなり良いところまでいきました。浮力は深さと関係しないけれど、水圧は深さを関係していることを指摘しました。その説明図は上の通りです。ただし、上下の水圧差が同じなることまで気づくことができませんでした。本人からすれば残念ですが、クラス全体には喜ぶべきことです。完全な説明より、間違いを含んでいた方が、次につながるからです。残り時間20分を切っていたので、私は自分で補足説明をしました。上図を見てください。ピンクのチョークを使い、上下の水圧差『浮力』がすべて同じ『』になるようにしました。まず、左端に上向きの矢印『浮力3』を書き、その右の物体の下にはたらく水圧を7にして『浮力3』にそろえました。もちろん、何をどように修正すればわかりやすいか、クラス全体に質問しながら進めました。この時点で、クラスの50%が浮力について正しく理解できたと思います。

第5ステージ:横と縦で浮力は同じ?
 ここでD君のつぶやき「横と縦で浮力は同じなのか」を拾いました。実は、D君のつぶやきは第3ステージ『アルキメデスの原理』を説明している時だったのですが、私は聞こえない振りをしました。多くの生徒の疑問は、第4ステージ『浮力は深さと関係にしない』にあると判断したからです。

 さて、この問題の正解者と不正解者の割り合いは、なんと50%50%でした。予想より低くてがっかりですが、大半の生徒が私からの発問にさくっと挙手できるようになったことは大きな進歩です。自分の考えを発表するレベルに達したのです。自分1人で考え、自分の考えを発表できるようになったのです。


上:物体を立てても横にしても浮力は変わらないことを示す図
 最上部の発問を見てください。図で示しています。言葉ではなく、図で示すことで視覚的な思考をするように促しているわけです。下の大きな水槽にある2つの物体も見てください。上の図と同じように書いてあります。さらに、物体の縦横比が3:1になるように仕掛けてあります。これは生徒には言いませんが、とても重要なポイントです。さらに、水面からの深さも厳密に配慮して描かれています。一見するといい加減な図ですが、ち密な計算がされた図です。理科の先生、使ってみてください。

 この問題も生徒に説明させました。理論は完璧でしたが、具体的な数字を当てはめることができないので、説得力は弱いものでした。そこで、私は補助線を入れることにしました。ロッカーから黒板まで小走り、仕掛けておいた通りに、水面に破線を書き込みました。「テン・テン・テン・テンと書いて、深さを4段階にすれば、矢印の長さを4段階にできると思うけれど、やってみて」と助言しました。

 これで、生徒は深さ1=水圧1、深さ2=水圧2、深さ3=水圧3、深さ4=水圧4、を示すことができました。私はだめ押しとして、左右の物体にピンク色で浮力3を示しました。

第6ステージ:浮力の練習問題
 残り5分で練習問題をしました。その問題は次の通りです。詳細は別ページにゆずります。


上:浮力の練習問題


上:練習問題の補足説明、アルキメデスの原理を再確認する私
 練習問題の解答と解説はE君が行いました。私の字とは違うでしょ。200と260。それから、上図では、浮力=40gになっていますが、正しくは浮力=0.4Nです。この解説は別ページにゆずります。


上:F君の学習プリント


授業を終えて
 あっと言うまに終了した、とても楽しい授業でした。素晴らしい生徒と共に過ごせる時間に感謝します。私たちは幸せです。

関連ページ
水 圧
1年(1999年)
水圧その21年(1999年)

→ 第時

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