このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2018年度)です

第34時
観察3 生物のふえ方

     2018 7 10(火)、13(金)
     普通教室

はじめに
 中学3年生にとって、生物のふえ方(生殖)は興味ある内容です。タイトルを聞いただけでニヤニヤが止まらない女子や男子がいます。その一方、完全に心をシャットダウンしてしまう生徒もいます。生徒の反応は両極端になりますが、先生はどっしりと構えてください。理科で性教育を行うとすれば、今日から学習する3時間『生物のふえ方』『種子植物のふえ方』『動物のふえ方』になるでしょう。

 さて、子どもが両極端な反応をする原因は、日本の大人社会にあります。
(1)両親も先生(学習指導要領)も性教育に消極的
(2)諸外国に比べ、有害ポルノや性犯罪に対する規制が甘い

 上記(1)と(2)は子どもの立場からすると、相反するものです。つまり、(1) 性に関する正しい教育が行われていないのにも関わらず、(2)ネットで猥褻な映像をかんたんに閲覧でき&現実社会で未成年者がかかわる性犯罪が多発している、という現実があります。その結果として、子どもたちは二極化します。あるいは、知識を求めようと必要以上に好奇心をかきたてられたり、性に対して嫌悪感や罪悪感を持ったりしてしまうのだ、と思います。2018年7月、与党強行採決によってカジノが解禁されました。政府(学習指導要領)は、義務教育終了までにカジノの有害性についても教える必要があると思います。私は教育者として、日本の将来を大変危惧しています。

 現在、日本の法律では女子16歳、男子18歳から結婚できます。子どもを作り、育てることができます。中学3年生は15歳です。本来、義務教育終了=結婚・妊娠&避妊・出産・育児に必要なことをすべて習得済み、であるべきです。

 私は授業でどこまで教えたらよいのか、いつも迷い悩んでいます。そんな時、子どもの実態や現状を見ることから始めます。以下の授業記録に示したように、一見、猥褻さを感じる意見も板書します。それが授業にふさわしい意見かどうかは、先生の態度によって決まります。

 自然科学としての理科の枠組みから飛び出したとしても、子どもが抱える問題点を1つでも解決できるなら、先生がもっているチャンスを使ってください。日本社会の歪みを直すつもりで、授業に臨みましょう。性に関する必要十分で正しい興味関心意欲、技能、思考、知識を身につけられるように、正面から向かっていきましょう。

関連ページ
観察6 動物のふえ方3年(2001年)
観察10 有性生殖と無性生殖(遺伝子と形質)3年(2004年)


上:A組の板書


本時の目標
・生物がふえるの理由について考察する
・生物のふえ方は、無性生殖と有性生殖に分けられることを知る
・2つの生殖方法の利点について考察する

準 備

生 徒 教 師
  • 教科書
  • 理科便覧
  • ファイル
  • 本日の学習プリント(1 /人)

授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (1分)

(2)生物がふえるのはなぜ? (10分〜20分)
 あなたが先生なら、真面目な顔で質問してください。イヤらしい顔をしていると<イラやらしい先生>と思われるだけでなく、つまらない意見しか出ません。生徒からいろいろな意見が出ると思いますが、基本的に感情を出さないように進めていくことがポイントです。

先生へのアドバイス
 どんなに真面目に進めようとしても、必ず、子どもから下品な考えが発表されるでしょう。その時、先生は淡々と板書してください。特別驚いた様子をしめさない先生を見た子どもは、自分の考えを受け入れてくれることを理解し、もう一歩自分をさらけ出そうとします。あるいは、先生を挑発する過激な言葉を投げかけるかもしれません。授業にふさわしくない言葉でも、受け止めてください。
授業は受け身から始めます。

 先生に向けられた言葉は、子どもたちの日常会話の延長線というよりも、日常のごく一部に過ぎません。彼らは毎日にように、もっとすごい言葉や表現を使って会話しています。

 問題発言が飛び出したら、一旦それを受け止めてから、指導すればよいことです。先生の寛容な姿勢によって問題が明らかになったとするなら、それは歓迎すべきことです。ふだん下品な言葉で傷つけられている子どもにとって、先生の指導は本当にありがたものです。

 また、家庭環境や保護者の姿勢で、性に関するモラルは大きく違います。無意識に下品な言葉を使っている子どももいます。

 これは理科の授業とは直接関係ないことですが、これがしっかりできないと、薄っぺらい授業になります。先生が答えられないような質問が出たら、「◯◯って何?」と質問返しです。「君が言っている◯◯の意味がわからないので、みんなにわかるように説明してください」と切り返しましょう。猥褻な言葉が出た場合も、同じようにその言葉の意味を教えてもらうようにしてください。開き直って答えたとしても、さらに、深く追求すれば、不純な動機の子どもは言葉を失っていくはずです。


上:A組の意見を板書したもの

 上の意見を見ると、2番目に「欲求不満だから」があります。過激な表現にみえますが、生殖は基本的な本能(欲望)の1つです。真面目にまとめれば、全く問題ありません。また、9番目の「快楽を得るため」という意見も同じです。ニヤニヤした顔で「肉体的な快楽を得るため」と答えればアヤシイ人になりますが、快楽には生物学的理由があります。それはアヤシイことではありません。

(3)無性生殖と有性生殖(20分〜25分)
 生殖には2つの方法があります。(1)1つの生物が単独で行う無性生殖、(2)雌と雄で行う有性生殖、の2つです。下図をみてください。


上:B組でまとめた2つの生殖方法

 まとめる内容は上記の通りですが、これは教科書によって若干違うと思うので、それに準じてください。生物の具体例は、教科書の写真をみながら確認していきましょう。深追いするべき内容ではありませんし、切りがありません。

 確実に押さえたいことは、それらの長所です。つまり、無性生殖は簡単に子孫を作ることができる、有性生殖は新しい形質の子孫を作ることができるので新しい環境に対応できる可能性ができる(進化する)、ということです。これらを理解させために、以下のようにゾウリムシの無性生殖と核交換を紹介すると良いでしょう。

ゾウリムシの無性生殖
 ゾウリムシは通常、二分裂によってふえます。条件が揃えば、どんどんふえます。無性生殖はとても簡単にふやすことができる便利な方法です。ただし、単純に2つにわかれるだけなので、遺伝情報は全く同じです。いわゆる、クローン・ゾウリムシが増えていきます。
 ここで、 ゾウリムシの二分裂を子どもたちに想像させてください。自分が左右2つに分かれてしまい、それぞれがだんだん大きくなり、最終的に2人の自分ができます。初めの自分はどうなってしまったのか! 不思議な感覚になった子どもは正確にイメージできています。

ゾウリムシの核交換
 また、ゾウリムシは、環境が悪くなると新しい形質つくるために核交換することが知られています。
  有性生殖は雌雄(男女)の協同作業ですが、ゾウリムシに雌雄はありません。形や性質が違う2つのゾウリムシどうしが体をくっつけ、互いの核物質(遺伝情報、DNA)を半分ずつ交換します。その結果、初めのどちらとも違うゾウリムシが2つできます。
  ここで、初めのゾウリムシ2つについて考えさせます。彼らは消えてしまいました。イメージする力が高い子どもは、目を大きくしてゾウリムシの核交換に興味を示します(右図)。

 

 


上:ゾウリムシの核交換


 赤ゾウリムシ白ゾウリムシが、互いの核を半分ずつ交換することで、赤でも白でもないピンクゾウリムシ(クローン)が2つできた。赤ゾウリムシと白ゾウリムシはどこへ?!


上:B組の板書

 また、無性生殖と有性生殖について、14年前の実践『観察10 有性生殖と無性生殖(遺伝子と形質)3年(2004年)』がよくまとまっていますので、ご覧ください。

(4)本時の感想、考察 (5分)

=== 本日の板書===


授業を終えて
 授業後に起こった不幸な事件を記録しておきます。

 2018年7月18日『新潮45』において、ある衆議院議員が次のような持論を発表しました。

 LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。(P.58 〜59)

 さらに、ツイッターでも同じような投稿をしたために大炎上、1日で1万件のツイートがあったそうです。その後、殺人予告をされたため、投稿内容を全削除したそうです。殺人予告はいけないことですが、私は人間性を否定された人の悲しみを(ごくごく一部ですが)理解できます。

 この不幸な事件は、人を人だと思っていないことが原因でしょう。そもそも『生産性』という語句は、生物に対して使うべきではないと思います。まして、人に対して使うことは論外です。この発言をした人は、人と他の生物の違い、および、生命そのものについてもう一度考え直してほしい、と思います。倫理的に、一般社会人よりも高い身分は辞退すべきでしょう。

 このように、現場教師にとって日本の教育環境は厳しいものです。私の一歩進んだ授業は、上記衆議院議員や一般社会から批判を受ける可能性を否定できませんが、それでも頑張って実践しなければ、勇気を出さなければいけないと思います。不幸な事件が繰り返されることは歴史が証明しています。これから先も同じような心無い言動は繰り返されるでしょう。若い先生、がんばってください。老体もできる限り続けます。

※ 第1次産業では、いろいろな生物を生産者の方が『生産』しています。日夜、生産性を高める努力をしていると思いますが、その土台には『生き物に対する愛情』がある、と信じています。私たちは他の生物の命を奪い、それを食べることで生きています。植物も生きています。ベジタリアンの人も毎日たくさんの生物を食べていることを忘れてはいけません。すべての人にとって、生物に対する感謝と愛は必要不可欠です。私たちは毎日、他の生物の命をいただいているのです。さもなければ、私たちの良心は失われていくでしょう。私たちは生産者の方に感謝しなければならないと思います。彼らは生物に対してひときわ大きな愛を持ち、育てている人たちだと思います。

note:生徒と先生の会話
「先生、黒板に書いていいの?」
「何を?」
「え、・・・」
「ヒトは体内受精をしますが、他の動物と同じように『交尾』と書くのは良くないので、『Sex』にします。日本語に訳すと『性交』です。性交でも良いのですが、『Sex』の方があたりがやわらかいので、こちらにします」
「先生、男、女という意味もあるんですよね」
「A君、よく知っていますね。セックスというと、それだけでイヤらしいと感じる人は、英語圏の人と話ができませんよ。セックスには『性別』という意味があります。将来、海外旅行で出入国カードを書くことがあると思います。そのにはセックスと書いてあります。男、または、女と書きますが、最近は一概に男女で分けることができない時代になってきています。といことで、不勉強の人、しっかり勉強してくださいね」

関連ページ
観察6 動物のふえ方3年(2001年)
観察10 有性生殖と無性生殖(遺伝子と形質)3年(2004年)

実践ビジュアル教科書『中学理科の生物学

第1章 生命とは何か  自己増殖するウィルス p.9
第6章
生命の連続性
 死、そして新しい個体の誕生 p.110
 無性生殖 p.111
 有性生殖と受精 p.112-113

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