このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2018年度)です

第38時
実習6 ABO式血液型

     2018 9 5(水)
     普通教室

はじめに
 ヒトのABO式血液型は3つの対立遺伝子が関係しています。この説明は簡単ではありませんが、幼いころから耳にし、中学生の90%以上が自分のABO式血液型を知っているという実態から考えると、遺伝学の導入として最適な教材の1つであるといえるでしょう。

 ただし、将来、自分の血液型を知らない子どもが大半になるなら、導入教材としては不適切です。逆に、血液型占いが流行したり、血液による人の差別が顕著になるようなら、しっかりと学習させたい内容です。

 なお、 学習内容・指導方法については別ページ『ABO式血液型3年(2004年)』もしっかり書かれていますので、合わせてご覧ください。

顕性(けんせい)と潜性(せんせい)
 日本ではこれまで、ある遺伝子がもっている形質の現れやすさを『優性と劣性』という言葉で表現してきました。現れやすいものを優性、現れにくいものを劣性としたのです。しかし、この表現では遺伝子に優劣があるかのように誤解します。
 例えば、ABO式血液型には3つの対立遺伝子(A、B、O)がありますが、AとBはと優性、Oは劣性になります。これでは血液型がO型の人が劣っているような感じがします。私は、そのような誤解を防ぐため、「O型はきれいな血なので、誰にでも輸血できるんだよ」と説明してきました(A型、B型、AB型が汚れているわけではありません。O型に対する誤解防止のための措置です)。
 2017年、日本遺伝学会は優性を顕性劣性を潜性にしました。文字通り、顕性は顕(あらわ)れる性質、潜性は潜る(あるいは、ひそむ)性質という意味です。近い将来、教科書もそのように改められると思います。となれば、ヨカッタヨカッタ! 私は30年以上も苦心してきましたからね。 今年の授業では、この変更を紹介します。


上:血液型に関するまとめを板書するA君


本時の目標
・ヒトの血液型はたくさんの種類があることを知る
・血液型と性格とは無縁であることを理解する
・ABO式血液型には、3つの遺伝子が関係していることを知る
 → これらを対立遺伝子という
・遺伝子には優性(顕れやすい性質)と劣性(潜みやすい性質)があることを理解する
・子は、両親から1つずつ遺伝子をもらうことを理解する
・子のABO式血液型の可能性を、両親の血液型から推測する
・自分の親族の血液型と遺伝子型を興味深く調べる

準 備

生 徒 教 師
  • 教科書
  • 理科便覧
  • ファイル
  • 本日の学習プリント(1 /人)

授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (1分〜3分)

 今日から遺伝について学習することを伝えます。

 宿題として『自分の血液型』を調べてくるように指示した場合は、やってきたかどうかの確認をします。宿題にする場合は、兄弟姉妹・両親・祖父母・叔父叔母・いとこなどの親族についても調べてくるように指示すると良いでしょう。ただし、複雑な家庭もあるので十分な事前調査と、十分な配慮が必要です。今回、私は指示しませんでした。

(2)クラスの血液型調べ (3分〜5分)
 ABO式血液型には4種類あることを確認します。同時に、自分の血液型を知っているか確認したところ、40人学級で0〜3人の生徒が知りませんでした。これは35年前とほぼ同じです。ABO式血液型を使った授業はまだまだ有効だと思いますので、この時点で一安心でした。さて、以下はあるクラスでの調査結果です。

--- P組 Q組 R組 合計 割合
A 型 16人 14人 13人 42人 41%
B 型 6人 7人 8人 21人 20%
AB型 4人 8人 3人 15人 15%
O 型 10人 3人 12人 25人 24%
合 計 --- -- --- 103人

100%

上:3つのクラスにおけるABO式血液型の割合
 個人情報なので、無理に挙手させないようにしました
 同時に、クラスの合計数も簡単に出せますが、あえて出していません


上:P組での板書(血液型調査は左端)

(3)輸血できる血液型(3分〜5分)
 血液型によって、輸血可能なものが決まっています。誤って輸血すると赤血球が固まったり(凝集ぎょうしゅう)溶けたり(溶血ようけつ)して、死亡する場合もあります。したがって、輸血する場合は血液型を合わせる必要がありますが、血液型はABO式だけで決まるのではなく、その他に300種類ほどあります。したがって、安全な輸血のためにはできるだけたくさん調べる必要がありますが、多くの場合、ABO式とRh式の2つの適合を調べます。

輸血可能なのはO型の赤血球だけ、ということは(ここでは)教えない!
 A型の人の輸血できる血液はA型だけです。ただし、赤血球だけの成分輸血なら、O型も可能です。O型の赤血球は、その表面に凝集する原因物質(A型の抗原、および、B型の抗原)を持っていないからです。

血液型 抗 原 抗 体   輸血できる血液型
・赤血球の表面にある
アレルゲンという
・血漿の中にある
・赤血球を凝集させる
全 血 赤血球のみ
A 型 A型 抗B型 A型 O型とA型
B 型 B型 抗A型 B型 O型とB型
AB 型 A型とB型 な し AB型 O型とAB型
O 型 な し 抗A型
抗B型
O型 O型


 O型の全血を輸血すると、血漿中にある抗A型と抗B型によってA型の赤血球もB型の赤血球も凝集します。

血漿 ・血球成分(赤血球、白血球、血小板)を除いた液体成分
抗体(抗A型、抗B型)を含む
血清 ・血を放置したときにできる上澄み
 ※赤血球と抗体(抗A型、抗B型)など血餅になる
・薄い黄色
抗体(抗A型、抗B型)を含まない
『血漿から、さらに凝固成分を除いた液体成分』と考えるとこともできる

 ただし、授業ではこれらのことに一切触れません。どうしても教えたいなら、2つの対立遺伝子によるメンデルの法則(基本)を教え、問題集でいくつか練習問題ができるようになってからにしましょう。もちろん、事前に『抗原抗体反応』についても学習しておく必要があります。

 中学生は全てを教える必要はありません。間違いを教えることはよくありませんが、日常生活に必要なことを自然科学の視点から、できる範囲で理解させることが大切です。今回ABO式血液型を取り上げた目的は、両親から1つずつ遺伝子(ABO式)をもらうことを理解させることです。


上:血液型に関するまとめを板書するA君

(4)血液型と遺伝子型の関係(3分)

(5)実習:いろいろな家族の血液型と遺伝子型(7分〜15分)

(6)実習:私の血族の血液型と遺伝子型(5分〜10分)
 (4)〜(6)は別ページ『ABO式血液型3年(2004年)』をご覧ください。ほぼ同じです。


上:S家の血族を調べている様子


上:Bさんの学習プリント
(兄姉が結婚して子どもがいるのだろうか?)


上:あとは、宿題になるのでしょう


上:あるクラスでの板書(時間切れの人は宿題です!)

(7)本時の感想、考察 (5分)


上:Q組での板書


上:R組での板書


授業を終えて
 授業で顕性と潜性について教えたところ、好評でした。『優性と劣性』よりも正しく特性を表しているからです。クラスによっては、初めに『顕性と潜性』を教えたところがありましたが、そこでは優性と劣性について大変不満そうでした。ということで、次回の教科書改定では顕性と潜性でお願いします。

 それから、
(1)最近は血液型占いが下火(良い傾向)
(2)叔父、叔母、従兄弟、従姉妹について考える機会になった
(3)親戚の名前を書かせるとさらによくなりそう
(4)結婚したい、が少数派であることは予測できたが、
(5 )一人暮らししたい、が20%に満たないことは予想外。
(6)Rhマイナスの生徒は、自分の血液のことをよく知っていた!
(7)授業展開は、すぐに具体例を出し、考えさせるべき
(8)具体例で血液型と遺伝子型をきちんと書けるようになれば、まとめは楽勝
(9)劣性、という言葉にはよく反応する(褒められる経験が少ないのだろう)

関連ページ
ABO式血液型3年(2004年)
メンデルの法則3年(2001年)
遺 伝3年(19

実践ビジュアル教科書『中学理科の生物学

第6章 生命の連続性  ヒトのABO式血液型 p.124-p.125

第7時 ←
観察6 動物のふえ方

→ 第9時
実習7 メンデルの法則
↑ TOP
[→home
(C) 2018 Fukuchi Takahiro