このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録> 3年(2018年度)です |
第18時
実習15 仕事2018 5 28(月)、29(水)
第3学習室はじめに
14年前の実践記録『仕事の原理2004年度』を読み返すと、1時間で本年度4時間分の内容を終了させていました。それでも多くの子どもたちが仕事の概念や本質を理解していたので、今回は4倍以上深くなるように頑張らなければいけません。 ということで、冒頭から雑談をさせていただきます。この授業を行う数日前(5月26日土曜日)、私の恩師である岩松鷹司先生のご自宅を訪問しました。そこでは貴重なお話をたくさん頂いたのですが、とくに印象に残ったことは『哲学』という言葉です。先生は、「最近の科学者は哲学をおき去りにして、研究したり結果を求めたりしていることが多い」とご指摘されていました。
私が働いている中学校の教育現場においても、哲学を見つけることは容易ではありません。私自身、哲学という言葉に興味はあるものの、深く追求したことのがないので、ぼんやりとしかわかりません。毎日の雑務処理に忙殺されているわけではありませんが、哲学について考えるチャンスはほとんどないのが現状です。教育とは何か! 人はなぜ人を教育するのか!
本時『仕事』では、「仕事とは何か」「なぜ仕事をするのか」その定義や目的について子どもたちに考えさせる時間をとりたいと思います。それは子どもたち一人ひとりの人生、生き方や考え方に直結していくのではないか、と思います。物理的な仕事とは離れますが、教師の仕事としても重要なものの1つになるのではないかと思います。
以下の授業記録を読んでいただく前に、読者であるあなたにも考えてもらいましょう。 あなたにとって、仕事とは何ですか? あなたは今日、どれだけの仕事をしましたか?関連ページ
『仕事の原理2004年度』
『国際単位系(SI)』
上:C組で発表されたいろいろな仕事
本時の目標
・世間にみられる仕事と物理的な仕事を比較、その違いを考察する
・物理的な仕事の大きさは、力の大きさ(N)に比例することを知る
・物理的な仕事の大きさは、力を加えた方向への移動距離(m)に比例することを知る
・仕事の単位はジュール(J)であることを知る
・仕事の単位とエネルギーの単位は同じであることを知る
・仕事(J)=力の大きさ(N)×長さ(m)、を理解する
・仕事の計算問題ができるようにする
・物体を移動させる方向と力の方向が一致しているか、確認することの重要性を認識する(摩擦力か重力かを検討する)
・仕事について哲学する準 備
生 徒 教 師
- 教科書
- 理科便覧
- ファイル
- 本日の学習プリント(1 /人)
授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (1分)
「今日から新しい単元『仕事とエネルギー』に入ります。途中、期末テストが入りますが、約10時間で完了する予定です。新しい単元なので、いつものように、今日は教科書には掲載されていない、とても重要で面白い、仕事の本質に迫る内容から入りたいと思います」(2)将来、どんな仕事をしたいか? (5分〜15分)
「君に質問です。将来、どんな仕事をしたいですか? これまでに、いろいろな場面でいろいろな人から聞かれたことがあると思いますが、すでに決まっている人は聞かせてください。世の中にはいろいろな仕事をあることを確認してから、理科で学習する仕事との共通点や違いを考えていきたいと思います。なお、有名人や一流になる人の多くは、中学生の時から自分のやりたいことが決まっていて、中学校の卒業文集が紹介されることがよくあります。さあ、今ここで発表できる人は、きっと将来その仕事で大成功をおさめると思います」
上:A組で発表されたいろいろな仕事
※オレンジ色の◯、△、×、力の必要性は、後述(4)で書き加えたもの
A組での様子
私の問いかけに、生徒4人がすばやく応えました。助産師、和菓子職人、パイロット、マイクロソフトスタジオズのトップです。これまでの経験によるもの、強い興味によるもの、憧れによるものなど、分野だけでなく動機の多様性に驚くばかりです。また、発表時のざわめきから、クラスの仲間に発表することの重大さをクラス全体で共有、体感することができました。例えば、助産師という言葉を聞くのと書くのとでは違います。『助ける』『産む』『師』 という漢字3つから、仕事内容と影像、深さを感じます。
和菓子職人という発表を聞いた時は、「和菓子には煎餅、ういろ、金太郎飴など、いろいろな種類があるけれど、どんな種類ですか?」と質問しました。そして、あんこを使った生菓子であることまでわかりました。やはり、強い意志と、この先、立派な職人になるであろうことを感じるものでした。
上:B組で発表されたいろいろな仕事
※黄色の△、◯、×、◎は、後述(4)で書き加えたもの
指導上のポイント
・友だちの発表を非難したり嘲笑したりしない
(すべての仕事は尊く、それぞれの価値がある)
・できるだけ具体的に答える
(会社名、内容など)
・友だちのウケを狙った軽率な発言のようにみえても、真面目に板書する
(板書してから、動機や目的を聞いてみる)
・生涯続けたいことを仕事にできる人=幸せな人生
・自分の特徴や個性を知っていれば、適切な選択ができる
(3)物理学における仕事とは (5分)
物理学の仕事は、他の物体を動かすことです。どれだけの力で、どれだけの距離を動かすか、で仕事の大きさが決まります。単位はジュール(J)です。エネルギーの単位もジュール(J)であることを学習していますが、実は、仕事とエネルギーは同じものとして考えることができます。
上:物理学の仕事についてまとめた板書
仕事の公式
仕事 = 力の大きさ × 距離
1J = 1N(ニュートン)× 1m(メートル)
上:他クラスでの板書(4)(2)の仕事から物理的な仕事を探す (3分)
物理的な仕事は、物体を動かす力仕事であることがわかったところで、世間にみられる仕事を振り返ります。(2)で発表された仕事について、力の必要性によって3段階に分けます。段階分けは正確なものではありませんし、仕事を細分化することで変わりますが、今回は子どものイメージで簡単に答えてもらいます。イメージが一致したものについては、◯や×をつけますが、一致しないものについては△か無記入にすると良いでしょう。
上:子どものイメージによって、力仕事であるか3段階(◯・△・×)にわけたもの(左半分)実際の授業ではさらっと流す程度で良いでしょう。
(5)仕事の計算問題 (5分〜10分)
仕事の簡単な計算問題を行います。私がプリントに印刷しておいた問題は3問だけです。
簡単な計算問題
(1)1N、2mの仕事は?
(2)200g、3mの仕事は?
(3)400g、5cmの仕事は?これらの問題はとても簡単です。以下に計算方法と答えを示します。考えるまでもないレベルなので、当日の日付で指名してもよいでしょう。
計算方法と答
(1)1N×2m = 2Nm = 2J
(2)2N(200g)×3m = 6Nm = 6J
(3)4N(400g)×0.05m(5cm)= 0.2Nm = 0.2J
指導上のポイント
・100g=1N
・1cm=0.01m
・1Nm=1J
仕事の単位(Nm)と仕事の単位(J)は等しい。したがって、数字はそのままにして、単位だけを入れ替えることができる。例えば、 2Nm = 2J、となる。
・『=』の位置をそろえる
・距離(長さ)が0の場合、仕事は0になる
上:あるクラスの板書3問で理解できない生徒を探し、追加問題を作ります。
ポカーンと口を開けている生徒を指名し、「好きな数字を2つ言いなさい」と命じます。そして、その生徒の理解度を推測し、単位を設定します。上図(4)をみると、生徒が答えた数字は『3』と『7』であることがわかります。私は生徒のレベルに合わせ、『3kg』と『7cm』にしました。もし、理解度がより低い生徒なら『3N』と『7m』、理解度がより高い生徒なら『3g』『7mm』にしたでしょう。
上:もうひとクラスにおける板書最後に、どれだけ重いものを何時間もっていても動かさなければ仕事=0、であることを確認します。これを知らせたとき、子どもたちは無常を感じていたようでした。なお、0Jではなく0です(単位をつけてはいけない)。
(6)摩擦力に対する仕事(10分)
まず、問題を解いてもらいましょう。単純な数字が2つあるだけなので、あなたもできるはずです。ただし、私はフェイントが得意なので注意してください。
摩擦力に対する仕事を求める問題
下図を見てください。200gの物体があります。水平面を使って横に4m動かした場合、仕事の大きさは何Jになりますか。
この問題のポイント
物体を移動させる方向と力の方向が一致しているか、です。さらに一言
(5)の問題では、200g=2Nとして計算させたので、ほぼ生徒全員が間違えていました。あなたもその1人になりませんように! ・・・物体を横に移動させる場合、物体の質量(g)は関係ありません。
上の問題の答
8J(2N×4m)ではありません。解答不能です。この問題文をよく読むと、移動方向は横で、移動距離は4mです。したがって、横向きに必要な力の大きさがわかれば、力の大きさ(N)×4m、で求められます。しかし、この問題には横向きの力が書かれていません。物体の質量200gであることから、物体にかかる重力は2Nになりますが、重力は下向きです。重力と横向きの力とは無関係、まったく関係ありません。
例えば、水平面との摩擦力が0なら、物体は力を加えなくても等速直線運動を続けます。摩擦力が少しだけある(例えば、0.5N)なら、仕事=0.5N×4m=2J、になります。摩擦力がとても大きい(例えば、4N)なら、仕事=4N×4m=16J、になります。以下は、これらを図解したものです。
上:摩擦力に対する仕事を(7)本時の感想、考察 (5分)
授業冒頭で、自分の将来の仕事について発表できなかった人には、もう一度考えるように指示しました。また、冒頭で発表された仕事の動機や目的についても記述するように指示しました。例えば、助産師になりたいのはどうしてか? 助産師として働く目的は? ・・・発表した生徒本人に聞いても良いのですが、授業では私の推測・考えを紹介しました。
仕事に対する動機は多様で人それぞれですが、目的はだんだん1つに収束し、最終的に全員同じになるように思います。自分の興味関心から始まり、自己実現や自己満足が目的ですが、しだいに、他人が満足しなければ自分が満足できないようになってように思います。そして、他人の喜びや幸せを自分と同じように感じるように成長することが、人としての最高の人生、仕事ではないかと考えています。
授業を終えて
将来の仕事を語る友だちを目の当たりにした子どもは、衝撃を受けていました。尊敬の念を抱いた子どももいたと思います。何しろ、私自身、自分の目標を明確に語る14歳(15歳)の少年少女をみて、感動したのですから・・・ これまで、ぼんやりと生きていた子どもや甘えてばかりいた子どもの心に、焦りの気持ちが芽生えたものと思います。さて、最近の私は『自分の欲望にしたがって生きること』を目標としています。あえて欲望という表現を使うのは、日本人である私は自制心が強く恥ずかしがり屋で、なかなか自分の本心を素直に表現できないからです。また、欲望にしたがって行動しても、他人を傷つけることがないレベルに自分が達していることを熟知しているので、『他人のために』という言葉を割愛しています。
note:生徒と先生の会話
「えっ、D組は2人しか発表できないの?」
「他のクラスを紹介するので、参考にしてください。A組では◯◯、△△、**などがでました」
上:D組の板書
「P君は先ほど公務員と答えてくれましたが、具体的なことは考えているの?」
「安全な仕事がいいです」
「え、安全って?」
「警察官や消防士は仕事で命を落とす危険性があるから、そうではない公務員です」
「なるほど、安全な公務員というわけですね。とても良い考え方の1つだと思います」
「で、他に誰かいませんか!」
「え、いないの?」
「Q君は先ほど保育士と答えてくれましたが、どんな保育士になりたいですか?」
「主任です」
(他の生徒が園長ではないんだ、という)
「先生は、Q君は園長より主任の方が向いていると思います。だって、本当に小さい子が好きでよく動いて面倒みが良いから、園長になるより楽しく仕事できると思います。今のQ君にぴったりです」
「さて、他には?」
「え、これでおわっちゃうの?」
「そんな! 中学3年生ですよ!」
「目標を語れば、それで実現に一歩近づきます」
「あと30秒待ちます」
・・・
(30病後)黒板に、しょぼ、と書く
そして、物理学の仕事について学習を始める関連ページ
『仕事の原理2004年度』
『国際単位系(SI)』実践ビジュアル教科書『中学理科の物理学』
第1章 量と単位 単位には意味がある p.8 国際単位系(SI単位系) p.8 第3章
ニュートンの運動の3法則時間の矢 p.44
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(ペットボトル・ロケット)
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