このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2018年度)です

第19時
実習16 仕事の原理

     2018 5 29(火)、30(水)
     第3学習室

はじめに
 美術館の入り口を入ると、正面に直線階段と螺旋状スロープが見えました。あなたは階段で登りますか、それとも、スロープにしますか。私は面白い方を選びます。

 仕事の原理は『どのような道具を使っても、仕事の大きさは変わらない』というものです。道具はの大きさを変えるものなので、階段やスロープ(斜面)は1歩あたりの力の大きさを変える道具として考えることができます。斜面を使う場合、力で得をしても、距離では損をするので、仕事量(仕事の大きさ)は同じです。楽に登ることはできても、長い距離になるので、結果としての労力は同じになるわけです。

 この原理は、私たちの人生にも当てはまるように感じます。学習塾のおかげで成績が上がったとしても、塾にお金を払っています。スマホで楽しく便利になることはあっても、縛られたり騙されたりすることがあります。

 日常生活の中に自然の物理法則を見出そうと努めることで、私たちの生活はより豊かになると思います。自然法則にしたがって生ること、自ずから然るべきことにしたがうことで、幸せな人生になるのではないかと思います。

 なお、14年前の実践『仕事の原理2004年度』にも仕事の原理が書かれています。合わせてお読みください。

関連ページ
仕事の原理2004年度
国際単位系(SI)


上:本時の板書


本時の目標
・仕事の原理を知り、理解する
・斜面を使って、仕事の原理を検証する
・シーソー(天秤)で、仕事の原理を応用する

準 備

生 徒 教 師
  • 教科書
  • 理科便覧
  • ファイル
  • 本日の学習プリント(1 /人)

授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (1分)

(2)仕事の原理の紹介(3分)
 教科書を開いて、アンダーラインなどでチェックし、学習プリントにまとめます。


上:仕事の原理を書いた黒板

 一般に、道具は力を小さくするためのものです。しかし、力を小さくしても距離が大きくなるので、結果としての仕事量は同じになります。

(3)斜面という道具の紹介 (1分〜3分)
 「(下図のように一本の長い横線と、その横線に横たわる直角三角形を書いて)これな〜んだ? ・・・斜面、正解です。よく予習してきましたね。これは角度30度の斜面です。さて、斜面のことを英語で何と言うか知っていますか? ・・・おや、誰も知らないの? ス、・・・スロ、・・・正解、スロープです。(なんだそうか! というざわめきを数秒やり過ごして)このスロープは、高いところに登る時に使う道具です。道具は、何か仕事を便利に行うために使うものです。さて、ここで問題です。この斜面のてっぺんに登る場合、あなたは横から一気に登りますか? それとも、斜面上を登りますか? 高さはそうですねえ、1mぐらいにしておきます。・・・(後略)


上:斜面の模式図

 子どもたちはほぼ全員、「一気に登る」と答えます。仕事の原理によると、労力は同じですが、実際は精神的な負担だけでなく、さまざまな摩擦力が発生するので、その力に対する仕事が増えることになります。また、緩やかな斜面では時間がかかります。

 仕事と時間の関係は、3時間後の『仕事率』で学習します。

(4)斜面を使う場合の仕事 (15分)
 「次に、斜面を使う場合と使わない場合の仕事の大きさを調べ、本当に同じになるか確かめて見ましょう。色ペンを2色用意してください。黒板は、黄色オレンジ色にします。そして、斜面ABを黄色直接持ち上げるACをオレンジ色にします(下図)


上:斜面の計算図(その1)

 「斜面上と地面に丸い物体を書きますが、斜面上の物体は中央少し上に書いてください。地面の方はCのところに書きます(上図)。物体を書いたら、物体の中心に小さな点を書き、そこから真下に長さ2cmの矢印を書いてください。色はそろえてください。黒板はオレンジ色です。さて、この矢印は何を表していますか? ・・・そうです。重力です」

 (重力、2Nと板書して)・・・今、2cmではなく2Nと書いたので、初期条件を書いておく必要があります。書いておきましょう(1cm=1Nと板書する)。テスト問題では、必ず問題用紙に書いてあるので、確認してください。1つだけ練習問題をやりましょう。1cm=2Nの場合、2cmは何N? ・・・そうですね。4Nです(上図)

 「同じように、斜面上の物体の中心にも小さな点を打ち、そこから重力を書きますが、色に注意してください。オレンジ色です。前と同じ色です。重力は鉛直方向、真下の方向にはたらく力ですが、仕事を調べる時のポイントは力を加える方向なので、鉛直方向はオレンジ色でそろえることにします。みなさんもそろえてください(上図)


上:斜面の計算図(その2)

 「直接持ち上げる場合の仕事の大きさを求めてみましょう。AC間の仕事です。力の大きさは2Nなので、長さが決まれば、仕事の大きさが求めらます。(上図のようにABの仕事=   、ACの仕事2N×  m= Nm= J、と書いてから)」

 「では、定規を出して! (子どもたちが定規を出すのを確認してから)誤差プラスマイナス1mmで測ってください。(測り終わったら)それでは自分の測定値を発表してください。多数決で決めます。・・・(中略)・・・とうことで、5.2cmになりました。1cm=1mとして考えることにして、黒板には5.2mと書きます」

 「ということで、ACの仕事は、(下図のように計算式の空欄部分に数値を入れながら)2N×5.2mなので、計算すると、10.4Nmになり、NmとJはそのまま入れ替えることができるので、答えは、10.4Jになります(下図)


上:斜面の計算図(その3)

 「次に、ABの仕事の仕事を求めましょう。これが10.4Jになれば、仕事の原理が成立していることになります」

 「まず、斜面の長さABを測ってください。・・・(中略)・・・ということで、多数決の結果、10.2mになりました。次に必要なものは、斜面を使って持ち上げる力の大きさです。これは作図によって求めます。求め方は、すでに学習済みですが、忘れてしまった人のために簡単に復習しておきましょう」

重力から、斜面を使って持ち上げる力を求める手順
(1)物体の中心から、斜面に平行な線(下図@)を書く
(2)重力の先端に小さな点を書く
(3)(2)の点から、斜面に垂直な線(下図A)を書く
(4)(1)と(3)の交点を求める
(5)物体の中心から(4)までの矢印を書く
(6)できあがり!

 「斜面を使って持ち上げる力ができたら、その長さを測ってください。多数決で正解を決めます。・・・(中略)・・・ということで、多数決の結果、1Nになりました。したがって、ABの仕事は、(下図のように計算式の空欄部分に数値を入れながら)1N×10.2mになるので、計算すると、10.2Nm10.2Jになります(下図)」


上:斜面の計算図(その4)

 「10.2Jと10.4はほぼ同じなので、仕事の原理が成り立っていることがわかります」

中学校の理科の先生へ
 14年前の実践『仕事の原理2004年度』では、AB10cm、AC5cm、重力3cmで作図させています。その方がわかりやすい結果になりますので、初めて実践される方は試してください。

(5)仕事の道具(3分〜5分)
 仕事の道具の例を生徒に発表させたところ、斜面、ペンチ、滑車などの他に、台車が出てきました。荷物を載せて運ぶ台車です。これは仕事の原理を考えるための道具ではなく、摩擦力を小さくする装置(仕組み)です。私は不勉強なので、それ以上説明することができませんでした。

(6)シーソーで力のモーメントを調べる(10分〜15分)
 仕事の原理は、力の方向や物体が動く方向が一定です。しかし、シーソーや鋏は、力や物体が回転するように動きます。力の方向がどんどん変わります。物体を回転させる力の大きさをモーメントといいますが、教科書では扱っていません。生徒の混乱をさけるため、授業でも扱わない方が良いのですが、シーソーや鋏は日常でよく見られるものであり、とくに鋏の正しい使い方は、この場面で教えたい内容です。


上: シーソーと鋏を説明するための板書

シーソーを指導するポイント
(1)左右の仕事量(力の大きさ×長さ)を同じにする
(2)仕事量=仕事の大きさ
鋏を指導するポイント
(1)鋏の根元で切ると、パワーアップする
(2)アップする割合は、『支点から握る部分まで』と『支点から切る部分まで』の長さを比較すれば、正確にわかる
(3)例えば、1:5の場合、鋏で切る力は5倍になる
(5)これは、ペンチなどの道具でも同じ

(7)本時の感想、考察 (5分)

=== 本時の板書 ===


授業を終えて
 硬いものは鋏の根元で切る、ということを知らない子どもがいるので、しっかり教えてください。中学3年生なら、何倍にパワーアップするか簡単に理解できるようになります。

 また、鋏で紙を切る経験がないので、実演してください。ちょきちょきと切るのでなく、鋏の刃を固定したまま紙を動かします。あるいは、刃を固定したまま鋏を前方に進めます。しゃーーー、と小気味よい音を立て鮮やかに切れていくはずです。

 このように、刃先を動かさなくても切れるのは、紙に接する部分の面積が極端に小さく、先端部の硬度が高いからです。仕事の原理とは無関係であることもつけ加えてください。

関連ページ
仕事の原理2004年度
国際単位系(SI)

実践ビジュアル教科書『中学理科の物理学

第1章 量と単位   単位には意味がある p.8
 国際単位系(SI単位系) p.8
第3章
ニュートンの運動の3法則
 時間の矢 p.44

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