このページは『Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。 |
第2章 How to 授業
18 ゆとりと遊び心がある授業─授業の延長線上においてみよう─
1 メリハリをつけた1年の授業計画
授業は、毎日100%の力を出し切れば良いというものではありません。真面目な先生は、年度当初の年間計画を綿密に立てますが、その中には思いっきり楽しめる時間があっても良いはずです。その時間は、あなたの得意な専門分野で、教科の楽しさを十分に体感させて下さい。遊び心いっぱいの1時間は、子ども達にとって必要なことです。1年の計画は、大自然を旅行するように作りましょう。平坦な道、平凡な授業の繰り返しではいけません。山あり谷あり、沙漠あり湖あり、四季の変化に富んだ授業計画を立てるのです。基本路線は学習指導要領が示しているので、安心して計画して下さい。快適に飛ばす場所もあれば、後戻りしたり、しばらく停車したりすることも大切です。なお、1時間の授業は、別ページ1時間の授業を作ろうで『山の作り方』として説明しました。それより1段階大きな節は、小さな山が連なった山脈のように作れば良いでしょう。
2 ゆとり、遊び心
このページで紹介する授業の実践例は、「ゆとり」と「遊び心」に溢れています。これらは学問を初める以前の根底というべき基盤であり、ヒトの心の内側から沸き上がるものでなければなりません。ここで求められることは、頭脳による理解ではなく、心の機微にふれるものです。先生と生徒、大人と子ども、日本人と異邦人、昔の人と未来人が同じように、その知的好奇心をくすぐるものであるはずです。さもなければ、独善と言わざるを得ない代物です。
参考資料:近年の日本政府による主なゆとり教育
第2次世界大戦後 有名大学への入学を最終目的とする「つめこみ教育」が主流でしたが、やがて
その弊害が噴出し、1980年から「ゆとり教育」が導入されました。1980年 ・学習指導要領の全面改定による時間数、内容の削減 1992年 ・小学校1、2で理科と社会科を廃止し、生活科を新設 1995年 ・隔週土曜休み 2002年 ・指導内容の大幅(30%)削減
・総合的な学習の時間の導入
・相対評価を廃止し、絶対評価を導入
・学校週5日制 2005年、ゆとり教育が低学力になる原因の1つであるとされ、文部大臣が中央教育審議会に見直しを命じました。そして、2008年、授業時間数を大幅に増加させることが決まりました。
このページを読んでいるみなさんは、政府に左右されることなく、学問の正道にある楽しさを教えるようにして下さい。学問は、時の為政者によってねじ曲げることはできないのです。2011年 ・新しい学習指導要領による『ゆとり教育』の見直し
・「生きる力」を育てる
・指導内容の増加
3 『ゆとりと遊び心がある授業』の実践例日 時: 2007年5月うららかな日
対 象: 名古屋市内の公立中学の3年生(35人)
場 所: 学校のすぐ隣にある公園1時間の授業内容:
(1)サクランボを食べよう
(2)ヘビイチゴの観察
(3)幸せを探そう!
(4)カタバミ、ムラサキカタバミとの相違点この授業は、3年理科、『細胞と生物のふえ方』の中の1時間として行いました。前の時間は、普通教室で『種子植物』の受精卵が細胞分裂をくり返して種子になるまでを学習しました。そして、本時は校外に飛び出し、桜の果実であるサクランボを食べたり、受験生の心の支えとなる『四葉のクローバー(幸せ)』を探しました。なお、これに関連する授業実践記録は、『生物学』あるいは『植物学入門』をご覧下さい。
それでは、写真を中心にして本時の様子を紹介しましょう。
(1) サクラの果実を探す
学校の裏門に集合し、本日の学習内容を確認してから解散します。目的地は徒歩2分にある公園、そこでの観察・実習時間は約15分です。
上:学校西隣にある公園の桜。この写真には、約半数の生徒が写っています。その他の生徒は、他の場所にある桜を探しています。(2) サクランボを採取する
サクランボが採取できる時期は1〜2週間です。私は地下鉄通勤なので、毎日、サクラの果実が成長する様子を観察していました。どこの木が美味しいか、どれが早熟か遅いかチェックするのです。多くの人は見過ごしてしまう小さな果実ですが、タイミングを合わせればたくさんの果実を採取できます。今回は、約200人の生徒を実習させるので、それなりの数が必要なのです。
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上:枝になったサクランボを収穫する生徒達。初めのクラスは低い位置で採取できますが、最後のクラスになると高い位置を探さなければなりません。その場合は、樹木を傷つけないようにすることも教えます。(3)いろいろなサクランボ
サクランボを採り、実の大きさや色に注意しながらその味を確かめました。市販されているものより小さいですが、色や形は同じです。これは本物の桜(ソメイヨシノ)の果実(サクランボ)なのです。
上:果実の色は、黄緑から赤、そして、深い紅へと変わります。(4)みんなでサクランボの食べ比べ
最高に美味しい! とは言えませんが、少しでも甘い物を探してみるのは楽しいことです。色や大きさの違いを楽しんで下さい。スーパーマーケットで売っているものとは全く違います。多少酸っぱくても、自分で採ったサクランボの味は、中学生の心のアルバムに刻まれることでしょう。
上:サクラの果実を試食する生徒達。あっ、背景に、木に登る男子生徒が写っている!!(5) ヒヨドリと一緒に食べる
野生のヒヨドリは、名古屋市内のどこでも観察できます。今日は、中学生がたくさん来たので、食料がなくなってしまうのではないかと心配していることでしょう。
上:ヒヨドリもサクラの果実を食べに来ていた。人間が近づくと危険を感じて遠くへ逃げるが、彼らは高い梢から果実を選ぶことができる。この写真のヒヨドリも、ちょうど良い色をした果実を食べようとしている。
(6) ヘビイチゴの観察
サクランボの次は、ヘビイチゴの観察です。ヘビイチゴは毒を持っいませんが、とても不味いので『蛇の苺』として名付けられました。これと似たものにヤブイチゴがありますが、この近辺にはあるのはヘビイチゴだけです。
上:ヘビイチゴ(バラ科、ヘビイチゴ属)の赤い果実。花は黄色です。
(7)ドングリ
ドングリは予定していませんでしたが、ヘビイチゴのそばにいっぱい落ちていました。このドングリは、秋に実って落下したものです。このドングリの詳しい種類はわかりませんが、落葉樹であることから『ナラの仲間』であることが判ります。
上:ヘビイチゴの果実とドングリ。(8) 幸せを探そう!
幸せを探そう! この時間も、かなり盛り上がりました。中学3年生だけあって、すでに受験を意識していました。まるで草を食べる羊のように黙々と探していました。
上:このような広い空き地でなくとも、シロツメクサは簡単に見つけることができる植物です。
上:四葉のクローバーを探している様子
上:生徒が見つけた四葉のクローバー(9) オオバコの花
シロツメクサの他にもたくさんの花が咲いています。下の写真で、垂直に立っている棒状のものは、オオバコの花です。人間などの動物が踏み付けても生き残ることができる植物です。オオバコもシロツメクサも踏みつけに強い植物ですが、四葉のクローバーは、葉が幼い時に踏み付けられてできる奇形です。
上:シロツメクサの蜜を求めて飛んできた虫。昆虫と一緒に、花咲く春の季節を楽しもう。(10) 花飾りを作ろう
私が呼びかけたわけではありませんが、何人かの女子生徒が花の輪を作り始めました。
上:シロツメクサの花を摘み取り、それを編んで花の輪を作る。
(11) 花を友達にプレゼントしよう
花束を贈れば、贈った本人ももらった方も心が暖かくなります。具体的な花の交換を通して、心を通いあわせることができる授業なんて、めったにできるものではありません。と、自負しております。
上:笑顔をありがとう。このHPを見ている人も喜んでいると思うよ。
上:さあ、みなさんにも差し上げます!私の授業記録は以上ですが、サクランボを使った実践は、他教科でも可能です。例えば、国語ならサクランボを初夏の季語とする俳句を詠んだり、社会ならサクランボの歴史や山梨県のサクランボと比較したり、家庭科ならその栄養素について調べたり、技術なら園芸品種としてのバラ科の果実の品種改良について学習したりすることができます。
幸せを運ぶという四葉のクローバーは、生物学的には奇形です。できることなら、国語科や社会科で夢のある実習として扱う方が適切でしょう。1人の先生では自信がないなら、理科の先生と協力して授業を行うのもの一案です。
上:シロツメクサとアカツメクサ。アカツメクサは、シロツメクサよりもひと回り小さい花を咲かせる。note
心に残る授業は、一般に『無駄な授業』と言われます。つまり、遊びの要素が高く、進学に役立たないものです。笑いが絶えない、遊びと区別できない活動です。しかし、それらはもっとも高度な知的活動なのです。その証拠に、知的水準の低い人々は賭博や単純なギャンブに興じ、神経を麻痺させるタバコやアルコールや薬物に依存しています。真の遊びを知っているヒトは、そのようなものに手を出している時間はありません。2008年3月11日
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