このページは『Mr. takaによる、若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第6.2章 アドバイス、説教と懲戒

3 先生、早く叱ってよ!

1 生徒の視点から体罰を考える
 1990年頃の話です。中学1年のA君から、「福地先生、早くB君を叱ってよ!」と手を引っ張られました。現場では、すでに新卒の先生がB君を真剣に叱っていました。私はA君に、「@@先生が叱っているから、今は入れないよ」と言いましたが、手を引いてきた生徒は「あれではダメだ」と言いました。私が「拳骨でコツン! かなあ」と尋ねると、A君は「そうだ」と言いました。A君もB君も、真剣に叱っている先生を『お話をしているだけ』と感じていたのです。

2 子どもが求める拳骨
 当時の生徒は、体罰のような懲戒の必要性を訴えていました。弱い者いじめをする生徒を叱るためには、「こら! 自分より弱い者を叩いたらイカンだろう。こっちに来い! ・・・コツン(堅くて痛そうな拳を作って、恐ろしい顔をして頭をコツンと叩く)・・・B君に謝りなさい」で十分でした。理由も人権もいう必要はありません。そもそも、この頃は『体罰』という言葉もなく、先生の拳骨は適切な教育手段の1つでした。
→ 関連ぺージ『生徒を懲戒(ちょうかい)する

3 人間社会を学ぶためのよりどころとしての罰
 ルールを破ることは、子ども仕事です。大人がつくった規則を破ることで、少しずつ人間社会で生きるために必要なルールを学んでいきます。そして、子どもは『超えてはいけないライン』を踏み越えたとき、それを直感します。子どもは、先生が罰してくれるからこそ、安心して新しいことにチャレンジしたり、遊んだりすることができるのです。明らかな悪戯をしたり、自分が悪いことをしたことを本人が認めている時、「もうやるなよ! コツン」と罰する方が適切です。子ども達は知っています。大人の視点からは『体罰』であっても、子どもの視点からは『体罰ではない』ものがあるのです。

4 消されてしまった子どもの視点
 自分勝手な大人が増え、家庭崩壊が始まりました。子どもの心が荒れていきました。テレビや新聞などのマスメディアは、その原因として『学校の体罰』を取り上げました。そして、大人も子どもも「体罰、体罰」と騒ぎ始めました。それは無責任な大人の責任転嫁を助け、悪ふざけと犯罪の区別ができない子どもを教育する1つの手段を奪うことになりました。そして、2000年頃、体罰は事実上なくなりました。私は体罰に変わる手段を模索し、それを使わずに対処することもできるようになりましたが、実は今でもその必要性を確信しています。この詳細は別ページ『』にゆずり、このページでは2002年に行なった私の体罰の実践例を紹介します。

5 2000年に行なった体罰の実践例
 好き好んで体罰を行なう先生はいません。必要に迫られ、悩み、考え抜いた苦肉の選択肢(教育手段)の1つとして体罰が浮上します。具体的な方法を考え、その効果を予想し、体罰を終了する時期を考えます。もちろん、生徒との十分な信頼関係が必要です。

 次は、私の学級において2000年に実施した体罰です。この様子は、毎日発刊された『学級通信2年D組枇杷林檎びわりんご』から読み取ることができます。この通信の筆者は、学級担任2人(吉岡先生と福地孝宏)だけでなく、生徒35人とその保護者、および、その他の教職員とHP読者です。投稿された文章は、私が編集長となり教育的効果が最大になるように配慮しました。

 下表は、体罰に関係する記事だけを抜粋したものです。※HPへの掲載確認済み

記述した日
学級通信『枇杷林檎』から抜粋した文章

解 説
93号
10/10
火曜日
時代錯誤                    福地孝宏
 今朝、吉岡先生が学級でお話をしたそうだ。
「明日から遅刻をした者は、この愛のムチで、ぴしっ!」
こんな事態になったのは、昨日、2人で次のような会話をしたからである。
 「福地先生、今朝も8人遅刻(指導要録に記載義務)なんですよ」
 「へー」
 「どうしましょう?」
 「言葉で無駄なら、体かな?」
 「愛のムチですね?」
 「なら、布団タタキがいいかなあ」
 「でも、痛いからタオルを捲きましょう」
 「やるなら、痛くないと遊びになっちゃう」
さて、彼女はやる気だけど、私は困っている。
  <その理由>
  1 体罰だあ。
  2 8時45分までに来ない者はどうする?
  3 私が新卒の頃(15年前)は、時代が愛のムチを必要とした。
と書きながら、吉岡先生と会話を続ける。
 「ちょっとしたことで、遅刻が直る生徒がいるんだけどなあ」
 「確かにメンバーを見れば、その通り」
 「今日の**は遅刻は、直ると思うんだけど」
 「、、、」
  キーンコーンカーンコーン
                        (時間切れ)
 それでも、明日はやってくる。
 そして、彼女も悩んでるけど、、、  
 
 体罰の理由(目的)、方法を
確実に知らせるため、学級通信
に文章として掲載しました。

目的:遅刻者をなくす

方法:
1)体罰を決断した先生の悩み
  を知らせる
2)教師が遅刻者の尻を叩く

 私は、保護者からの意見(投
稿)を期待しましたが、実際は、
遅刻が激減して体罰を終了した
後も、この件に関する投稿はあ
りませんでした。それほどデリ
ケートな問題であったと考えら
れます。
94号
10/11
水曜日

愛のムチ                  恋のムチ
 明日から、先生たちの愛のムチがある。らしい・・・。しかもムチとは、
ふとんたたき。吉岡先生にあいそう。だれが遅刻するんだろう。少し楽しみ
(私って悪女?!)これで遅刻がへったらいいけど。

たいへんだ!!               ピース
 今日から、大変なことが起こった。それは、遅刻したら『愛のムチ』があ
ると言われた。今まで、遅刻したことはないけど、これからも、遅刻しない
ように、がんばろうと思います。

10月11日                南 由多加
 今日は、ちこくしなかったのでよかった。  

報告:愛のムチ(10月12日)        福地孝宏
 遅刻者数は激減(昨日9人→ 今日1人)した。しかし、遅刻した1人は
どうする?? 私は、出たトコ勝負と考えていたが、「今日は、**君だけ
遅刻しました」と言ったところ、**君は嬉しそうな顔をした。つまり、ム
チが欲しいのである。愛が欲しいのである。だから、彼は席を立つのを嫌が
ったけど、私は立たせて尻を「ぽ」とたたいた。これを「案ずるより産むが
安し」という。さて、明日は何が産まれるのかなあ。

やればできるじゃない            吉岡二三代 
 きょうは遅刻者1人。それも5分。出席簿のきれいなこと。明日も続きま
すように。そして、習慣になりますように。


 生徒は、体罰に対して賛否両
論の意見を出しました。

 遅刻者に対する体罰の実施は、
予告した翌日からにしました。
なぜなら、体罰は目的ではなく、
遅刻をなくすための手段だから
です。体罰の警告だけで目的が
達成去れるならベストです。

 実際、私の文章にもあるよう
に、遅刻者は警告によって激減
しました。

95号
10/12
木曜日

やるじゃん!                太郎左エ門
 今日の朝から、愛のムチ作戦が始まった。すると、いつも遅刻している人
達のほとんどが遅刻をしなかった。特に、I君なんて5分前に来ていた。こ
れには本当に驚いた。吉岡先生も僕の倍喜んでいた。そのため、今日1日は、
とてもきげんがよかった。やっぱり、みんなやればできるんだ!

愛のムチ(パート2)            うさピョン
 今日の愛のムチ作戦は大成功で、すごく遅刻の人がへった。明日からも、
あるらしいけど、明日は0人になると気持ちいい。たたくの先生たちもいや
そうだったから。

愛のムチ                  安藤瑛梨
 あーちこくしなくてよかった∧∨∧∨。痛くはなくてもハズイやん。。人の
前で名前よばれてケツをピンクのふとんたたきで『ペシ』。早おきしよっと。
(あと)しばらくっていつまで?

10月12日                石 橋
 今日は、ちこくをしたらあいのムチでたたかれる日だった。
 だから今日はいそいで学校に行った。5分よゆうがあった、助かった。

あいのムチひがいしゃ            北浦佐智
 今日、朝**くんがやられてた。でも、朝学もやっていた。ノートもちゃ
んと書いていた。えらいと思った。

福地先生っ!?               福地先生っ!?
 今日、私はいつもどおりに枇杷林檎を読んだ。94号だった。そして、福地
先生の作文を読んだ。はっ!これは!今日の朝のできごとだ!しかし!私は
思った。先生の作文に「**君は嬉しそうな顔をした」とのっていたが、
「嬉しそうな顔」ではなく「苦笑いした顔」だったんじゃないだろうか・・
・。と、友達が話ししていた。

意見・反対                 線路とせんろ
 愛のムチはやっぱり体バツだと思う。そんなことしなくてもD組はでき
ると思う。
 先 生へ  愛のムチは反対です。
 みんなへ  そんなことしなくて、みんなはできると思う。だから
       がんばって早く来て、先生よろこばせてあげよっ!!!

今 日                   山田たろう
 今日は、なぜかしらないけど朝のはらいたが起きなくて、学校に来るの
が早かった。20分(8時)にこれた。1時間目、2、3、4、5、が早
くすぎた。それは4時間目が体育だからだ。木曜日は、はやくすぎる日だ。
これから6時間目だ。

おひさぁー                 ヤミスキ!?
 作文かくのカナリ久しぶり。何も書くコトないんだけど、つい書いちゃ
った。最近ちこくだらけだぁー。ひるから登校けこういいよ。ほどよいすず
しさで誰もいない時に登校。けど、なんかさみしいんだよね。1人でさかの
ぼってさ(泣)しゃべる人いないしさぁ、たまに近所のオバサンが「今から
学校!?」それくらい。
コレカラは早く来よっーと!!


 生徒に宣言した通り、遅刻者
に対して体罰を実施しました。

 私の正直な感想は、生徒達は
体罰の経験がないので、体罰そ
のものに興味を持っているよう
でした。なかでも遅刻常習者の
生徒は、理屈で注意されるより、
尻を叩かれる方を望んでいるの
ではないかと感じました。彼ら
は、頭の中では遅刻がいけない
ことを理解しているのです。

 その一方、大人の世界でも
通用する礼儀正しさを身につけ
ている生徒は、体罰を心から拒
絶していました。

 編集長としての私は、たくさ
んの賛否両論が出されたことで、
1つの教育的効果を得たと感じ
ました。子ども達は、遅刻がい
けない行為であることに心底か
ら気づき、学級全体の問題とし
て、取り組み始めました。

最後の文章について
 最後のヤミスキ!?の記事は、
他の生徒と一線を画しています
が、私はヤミスキ!?の文章を
入れることに躊躇しませんでし
た。
 ヤミスキ自身は自分が学級の
一員であることを確かめ、学級
の友達は人生の幅と深さを知る
ことになるからです。事実、ヤ
ミスキは、遅刻に関連する記事
を書いています。

96号
10/13
金曜日

 ※バツ                    線路とせんろ
 遅刻した人が昨日よりふえた。なんでおくれるの?早く来て、愛のムチ
なくして!!!みてるといやになるから・・・。

特効薬なんてない               吉岡二三代
 線路とせんろさん、ごめんなさい。心を痛めていることでしょう。「わ
らをもつかむ思い」から愛のムチになったわけです。どんなことをしたっ
て、自分で克服しなければ解決しないことはわかっています。でも、何か
のきっかけで少しは遅刻に対する意識を持ってくれたらなぁという、ささ
やかな願いからなのです。私も悩んでいます。だれか教えてください。

 体罰実施2日目にして生徒の
関心は失われました。つまり、
体罰の教育的効果が期待できな
くなったのです。

96号
10/16
月曜日
愛のムチはやめだ。               福地孝宏
 それは突然だった。今朝、登校して吉岡先生に言った。「愛のムチは止
めましょう」 彼女は応えた。「私も心がものすごく重いのです」それで
お終い。
 これは、教師のオゴリと言われても当然だ。自分勝手に始めて止める。
なんとも思わない人は、なんとも思わないけど、思う人は思う。悩む。「
たかが遅刻、※バツ。それで人生変わらない」 そういう考えの人は、そ
ういう人生を送る。しかし、常に問題意識を持ち、自分に正直に行動する
ことを忘れるな。私は難しいことを言うのは嫌うが、こうして書くのはそ
の何百倍も行動しているからだと思っている。
 やめるのもチャレンジ!すべてを信じて行動あるのみ。

 私は吉岡先生と相談して、体
罰を終了しました。合計3日間
でしたが、この体罰が予想以上
の効果を上げたことは間違いあ
りません。

2008年1月14日

↑ TOP

[Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン]
[→home

(C) 2008 Fukuchi Takahiro