このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 1年(2012年度)です

第31時
実験7:有機物の燃焼

     2012 7 10(火)、11(水)、12(木)
     理科室

はじめに
 本時のテーマ、タイトルは『有機物の燃焼』です。燃焼は中学1年で扱う内容ではありませんが、私はタイトルまで格上げしました。なぜなら、有機物(有機化合物)の定義が曖昧だからです。化学分野は『炭素を含む化合物(例外:炭素、二酸化炭素など)』、生物学分野は『生物由来の物質』です。もちろん、研究分野によってそれぞれの分類方法があります。したがって、私は『有機物と無機物の分類』より、加熱による変化に焦点を当てることにしました。有機物の燃焼です。

 燃焼は『ある物質が光や炎を出して酸化する現象』です。これは、生徒実験から生徒が推論できる範囲にあります。上手く行けば、有機物に含まれる炭素が完全に酸化したときは二酸化炭素、不完全に酸化したときは一酸化炭素、酸素と化合しなかったときは炭素や炭、になることまで持ち込めるのではないか、と期待しています。中学1年の化学にとって必要なことは、肉眼レベルの物体(物質)を肉眼で見えない小さな粒子の集合としてイメージすることです。

 自然界にはいろいろな物質があるな、は小学レベルです。学習指導要領はプラスチックを取り上げていますが、私は理科から削除すべきだと考えています。これは技術家庭科の範囲であり、理科の教材として不適切です。私は自著『中学理科の化学2012年』でも仕方なく扱いましたが、もっと理科の特性にあった教材を精選しなければ、多様な自然を相手にする理科は路頭に迷います。すみやかな削除を求めます。プラスチックは現代社会で重要な物質なので外せないものですが、技術家庭科の範囲です。


上:綿を完全燃焼させると、2つの気体(二酸化炭素と水)に変化して消えてしまうように見えることを確かめる生徒


本時の目標
1 自宅からペットボトルを持参する
2 有機物を加熱すると、酸素を化合して酸化物をつくることを知る
3 二酸化炭素と一酸化炭素と炭素は、化合する酸素の量の違うことを知る
4 7種類のプラスチックについて知る
5 綿、小麦粉、プラスチックを安全に加熱、燃焼させる 

準 備
生 徒 教 師
  • 筆記用具
  • 教科書、理科便覧、ファイル
  • ペットボトル
  • 本日の学習プリント (1/人)
  • ガスバーナー、マッチ (各2/班)
  • 薬さじ (1/人)
  • ピンセット (1/人)
  • アルミホイル (200mm×50mm/人)
  • セロハンテープ
  • ぬれ雑巾
  • 脱脂綿(ごく少量/人)
  • 小麦粉(0.2g/人)
  • リード線(3cm/人)
  • カッターナイフ、はさみ

授業の流れ

(1) 本時の内容紹介
 授業の前半は有機物の燃焼、後半は7種類のプラスチックについて調べます。前後半とも、それぞれ加熱・燃焼実験を行います。生徒が持参したペットボトルは後半で使います。

(2) 燃焼とは何か? 有機物とは何か?
 「前の時間は、いろいろな物質を加熱しました。加熱するとどうなったかな? ・・・燃えた? ・・・燃えなかったものはありましたか? ・・・そうですね、食塩やアルミホイルは燃えませんでした。ということは、加熱することと燃焼することは違うわけですが、燃焼って何でしょう? 正しく説明できる人はいますか? ・・・(中略)・・・ということで、燃焼とは『ある物質が酸素と化合して光や炎を出すこと』です。」

 「これを式で表すと、酸素を化合することですから、(+酸素と板書して)ある物質プラス酸素、となります。有機物を加熱したのですから、ある物質は有機物なので、ある物質とのところに有機物と書きます。(有機物と板書して)では次に、有機物とは何か、正しく説明できる人はいますか? ・・・はい、その通りです。有機物は炭素を含む物質です。」


上:板書


上:他クラスでの板書

(3) 有機物を加熱すると、含まれている炭素はどうなるか?
 「有機物を空気中で加熱すると、あるものができます。何ができるかわかる? ・・・えっ、酸素は違います。酸素と化合するんだから、、、・・・水素も違います。水素ができたら爆発の危険があります。そんな危険なものは発生しません。みなさんがよく知っているものができます。落ち着いて考えください。有機物は炭素を含む物質で、それに酸素が化合すると、酸素プラス炭素だから・・・大正解! 二酸化炭素です。」

 「二酸化炭素は完全燃焼した場合にできますが、実際の実験では酸素が足らないことが多く、違うものが発生します。何ができるのか考えてみましょう。みなさんなら、きっとできるはずです。では、問題! 炭素に2個じゃなくて、1個の酸素が化合したものは何ですか? ・・・その通り、一酸化炭素です。閉め切った部屋でストーブを使うと、一酸化炭素が発生し、中毒死する危険性があります。これは二酸化炭素ではなく、危険な一酸化炭素ができたからです。ただし、一酸化炭素は不安定な物質で、簡単にはできません。簡単にはできませんが、できたしまった時は大事故に繋がります。炭をつくる実験、炭素を直接加熱する場合は十分に注意してください。何かを燃焼させる時は、換気をよくしましょう。」
参考資料:有機物から炭をつくる(中学理科の化学2011年

 「さて、さらに酸素が不足すると、分解した有機物の炭素だけが残ります。前のプリントを見てください。(前回の学習プリントに添付された燃焼後の有機物を観察させる)真っ黒になっているものが1つでもある人は手を挙げてください。・・・それは、加熱した物質が熱によって分解されて残った炭素、炭です。灰ともいいます。・・・とうことで復習すると、酸素がない場合は炭素、酸素1つと化合すると一酸化炭素、酸素2つと化合すると二酸化炭素になります。」

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左:小麦粉を空気中で加熱すると、炭素、二酸化炭素、水が発生することを示した板書
右:ちょっと多過ぎる小麦粉を加熱している様子

(4) 演示実験1:都市ガスは完全燃焼すると、二酸化炭素と水になる
 ガスバーナーを点火し、燃焼後に何も残っていないことを示します。臭いもなくなります。これは、都市ガスが酸素と結合し、二酸化炭素を水に変わったからです。二酸化炭素を確かめるために集気びんの中で燃焼させる実験は、小学校で行っています。水を確かめる方法は簡単です。炎の上にビーカーをかざせば、その内側に水滴ができます。今回の授業では、500mlビーカーをガスバーナーの炎の上にかざす演示実験を行いました。生徒の「わっ、本当だ」という歓声とともに、大量の水蒸気を確かめました。
参考資料:ガスバーナーを完全燃焼させよう(中学理科の化学2011年

(5) 演示実験2:脱脂綿は完全燃焼すると、二酸化炭素と水になる
 脱脂綿をピンセットにはさみ、ガスバーナーで加熱します。すると、最終的に何もなくなるように見えます。原理は都市ガスと同じです。目に見えない気体の二酸化炭素と水に変わるからです。

(6) 演示実験3:エタノールは完全燃焼すると、二酸化炭素と水になる
 脱脂綿をピンセットにはさみ、エタノールが滴るぐらいにたっぷりしみ込ませます。それをガスバーナーで加熱すると、都市ガスや脱脂綿と同じ結果になります。原理も全く同じです。注目ポイントは、エタノールが燃焼している時、脱脂綿が全く変化しないことです。脱脂綿は白い綿のまま、何も変化しません。燃焼しているのはエタノールという有機物だけです。エタノールが燃え尽きると、脱脂綿が燃焼し始めます。初めは茶色や黒にこげたように見えますが、十分な酸素がある炎、あるいは、空気中で軽く息を吹き掛けてやると、酸素と化合して跡形もなく消え去ります。脱脂綿はふわふわなので、酸素と化合しやすのです。

(7) 生徒実験:脱脂綿、小麦粉の燃焼

 生徒全員に脱脂綿と小麦粉の燃焼実験をさせました。燃焼後の物質(ニ酸化炭素と水)は、目に見えない気体の状態になり、空気中に拡散します。酸素を化合できなかった炭素は、炭素(炭、灰)として残ります。


上2枚:脱脂綿を加熱したときの様子
 右の脱脂綿の燃え残りを過酸素の炎に入れると、跡形もなく消え去るように見えます。ゆっくりと息を吹き掛けても同じ結果になります。この実験なら家庭でもできるかな。ただし、子どもだけではやらないこと!


上:左ページに、脱脂綿と小麦粉を添付した学習プリント(クリックすると拡大)


上:板書


ここから後半です。

(8) プラスチック7種類をまとめる
 プラスチックを7種類に分類します。ただし、生徒実習の時間を確保するため、教科書に記述してある内容の説明は大幅にカットしました。


上:完成されていない板書
 実習時間を確保するため、全クラスで板書を省略しました。板書したものは、これから加熱実験するPET、PP、PVCの3つ、および、生分解プラスチックです。その他のものは、教科書に記載されている内容を写せば十分です。大切なことは、プラスチックにもいろいろな種類があること、それらは異なる性質があることを知ることです。そして、それらの多くは人類が化学的に合成したものなので、リサイクルしなければいけないことを教えることです。


上:生徒の学習プリント
 持参したペットボトルのラベルを切りとって、添付してあります。今日、添付できなかった生徒は宿題です。教科書にある内容を写してくることも宿題です。さらに、生分解プラスチックを含むその他のプラスチックも、見つけたら添付しておくように指示しました。なお、PVCの添付してある赤いものは、私が生徒全員に配付した電流の実験に使うリード線です。


上:生徒が持参したペットボトルのラベル
 ラベルを良く見ると、プラスチックの種類が明記されている。同時に、リサイクルや分別方法も記載されている。


上:PET(ポリ・エチレン・テレフタラート)とPP(ポリ・プロピレン)のリサイクルマーク

(9) 生徒実験:プラスチック3種類を加熱する

 持参したペットボトルを加熱実験します。加熱するものはペットボトル本体とラベルの2種類です。また、電流の実験で使う銅線を3cm/人ずつ配付します。この銅線の皮膜は、難燃性のプラスチック『ポリ塩化ビニール』です。そのまま学習プリントに添付しても良いし、一部だけ加熱しても良いです。

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左:ペットボトルの一部を切り出す生徒
右:ペットボトル本体を加熱する様子

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左:リード線(銅線+ポリ塩化ビニール)を加熱する様子(PEVだけが燃焼する)
右:銅の炎色反応で緑色になった炎



上:板書


上:B君の学習プリント


上:C君の学習プリント


授業を終えて
 前回は加熱実験に夢中になり過ぎたので、今日はまとめから入りました。じっくり行いましたが、生徒は自分の手を動かしたくて仕方ないようでした。当然ですね。それが私の求める理想の科学者、子どもの姿です。

note:発問『有機物を加熱するとどうなるか』をした場合の理想的な回答
・第2時『いろいろな物質を加熱する』より限定される
・酸素と化合して、酸化物になる
・液体に状態変化する
・融点に達しないので、変化しない
・融点という言葉を使うのは、次の時間に繋がる
・溶けたものどうしをまぜると、新しい性質をもった合金ができる(合金は化合物なのか?)
・炎色反応を示す金属がある
・電流が流れにくくなる(2年生の電流)

関連ページ
・ 実験1 いろいろなものを熱する  1年(2002年)
・ 実験2 有機物を熱する  1年(2002年)
・ 実験6 炭水化物の燃焼  (2年)2000年

実践ビジュアル教科書『中学理科の化学
第1章 物 質 都市ガスを燃焼させる p.10〜 p.11
砂糖、小麦粉を加熱する(有機物と無機物) p.12〜 p.13
第4章 化学変化 消したろうそくに火をつける p.43
ガスバーナーを完全燃焼させよう p.47
食べ物(有機物)を加熱しよう p.70〜 p.71
プラスチックを燃やす p.72〜 p.73
有機物から炭をつくる p.74〜 p.75
第8章 物質の分類 p.154

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実験8:金属

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