このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2018年度)です

第16時
実験13 だるま落とし(慣性の法則) 

     2018 
     第2理科室

はじめに
 あなたの周りに馴れ馴れしい人はいませんか。誰かまわず声をかけたり、先輩を先輩と思わないような人です。そのような性質のことを何というのか知りませんが、物理では、物体がもつ慣れなれしい性質を、慣性といいます。

 もう一度、人に例えて紹介します。いったん何かを始めるといつまでも続ける人、止まらない人はいませんか。逆に、いったん腰を下ろしてしまうと座ったまま立ち上がろうとしない人はいませんか。これらの性質も同じように、物理では慣性といいます。

 物体の運動について考えるとき、中学では以下の条件(慣性の法則、運動の第1法則)のもとに学習します。

外から力を加えられない限り、
(1)静止している物体は、静止し続ける
(2)運動している物体は、等速直線運動をし続ける

 注目すべき点は(2)です。なぜ、運動が等速直線運動になってしまうのか?! その答えは後述しますが、ニュートンが本当に言いたかったことは、その点ではありません。彼は、静止状態と等速直線運動が等いこと、静止しているのか等速直線運動していのか区別できないことを言いたかったのです。

 例えば、時速200kmでまっすぐに走る列車から外の景色をみると、同じ速さで後ろに流れていくように見えます。時速200kmで後ろ向きに走っているようです。列車の人は、自分が動いていることを知ってますが、まるで景色が動くように見えます。とても静かに等速直線運動している列車にのっている場合、自分が動いているのか静止しているの判断できないのです。もし、窓が完全にしまっていたら、自分だけでは判断できません。第三者に判断してもらうしかないのです。

 このように、『等速直線運動』と『静止状態』は区別できないものであり、立場が変われば変わってしまうものです。相対的なものなのです。私の授業では、理解度が進んだ場合、これを『ニュートンの相対性理論』として紹介することもあります。

関連ページ
慣性の法則(斜面上の物体に働く力)2004年度
ニュートンの運動の法則2004年度


上:本時の板書


本時の目標
・慣性の法則を知り、暗記する
・糸をつけて円運動させているものから手を離すと、物体は等速等速直線で飛んでいく現象を体感する(演示実験)
・ 外から力を加えなければ、静止している物体は静止し続けることを確認する
・静止状態と等速直線運動は区別できないことを知る
 → それは、立場の違いによることを知る
・だるま落としの原理を理解し、だるま落としを楽しむ

準 備

生 徒 教 師
  • 教科書
  • 理科便覧
  • ファイル
  • 本日の学習プリント(1 /人)
  • 糸&物体(演示実験用)
  • だるま落とし(1 /2人)

授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (3分〜5分)

 「(黙ってクラス全体を見渡してから)このクラスに馴れ馴れしい人はいませんか? (A君、という声が出たら)なるほど、A君は授業中、自由自在に発言しますから、馴れ馴れしいと言えるでしょう。これはあまり良い評価だとは思わないので、状況をよく判断して行動するようにしてください、ね。馴れ馴れしいではなく、明るい、気さく、誰とでも話せる、と言われるようになると良い、と思います」

 「さて、今日の授業は、この馴れ馴れしい性格、物体がもつ慣れなれしい性質について学習します。この性質は慣性といい、400年前の天才アイザック・ニュートンが慣性の法則として発表したものです。簡単なようで、とても奥深い法則なので、期待してください」

 「授業後半は、だるま落としで遊びます。大騒ぎしたり大興奮したりする人も出ると思いますが、知性と節度を持って楽しんでください!」

(2)慣性の法則の紹介、暗記 (4分〜6分)
 1) 教科書を開けさせ、該当部分を指摘する
 2) 暗記後、テストする(プリントに書く)ことを伝える
 3) 暗記方法を教える

暗記前に教えること
・ニュートンの『運動の第1法則』ともいう
・静止状態も、運動の1つとして考える
・静止しているものを動かすためには、がいる
・運動しているものを止めるためには、力がいる
・逆に、力を加えない限り、運動状態はかわらない(=慣性)
・ここで、静止している物体運動している物体に二分する
・静止は静止であるが、運動は等速直線運動になる
・等速直線運動は暗記直後に確認するので、丸暗記する
注意:以上は90秒以内に終了すること!
 長い説明は、子どもの発育に悪影響を及ぼします。

 4) 1分間待つ
 5) 教科書を伏せさる
 6) 学習プリントに書かせる
  → 静寂が訪れる!
 7) タイミングを計り、以下を板書する

慣性の法則(運動の第1法則)
 物体は外から力を加えられない限り、
(1)静止.......................................................................................
(2)運動.......................................................................................

 8) おしゃべりする生徒がいたら、
  「教科書と完全に同じでなくても正解、同じ意味なら正解です。自分の言葉で書きなさい」

 9) 書き終えた生徒が増えてきたら、
  「できた人は、教科書を開き、各自で答え合わせをしなさい」
 10) 2分以上経過したら、
  「時間れです。全員、答え合わせをしなさい」

「みなさん、お疲れ様でした。正解だった人! ・・・すばらしい、ざっと25人の人が正解だったようですね。ポイントは静止は静止ですが、運動が等速直線運動になってしまうことです」

(3)等速直線運動についてまとめる
 「等速直線運動という言葉は初めて聞くと思いますが、その意味をみんなに説明できる人はいますか? (A君が答える)そうですね。同じ速さで直線上を運動することです。みなさんのプリントにもまとめておきましょう。・・・(板書する)・・・これは文字通りの意味ですが、ニュートンが本当に言いたかったことは何か、わかる人はいませんか? ・・・おや、誰もいないようなので紹介します。実は、等速直線運動は静止状態と区別できない運動である、ということが言いたかったのです」

以下はA組、B組、C組の生徒発表をまとめた板書

上:A組の板書


上:B組の板書


上:C組の板書

(4)演示実験:糸をつけた物体を回す→ 手を離す(3分〜7分)
 どこかに投げ飛ばしても安全な物体に糸をつけます。私は『プラスチック製10g分銅』と『2号タコ糸』を使いましたが、より安全なものをお勧めします。

 「先生が用意したものは、タコ糸に分銅を結びつけたものです。これを振り回すと、(利き腕でタコ糸の先端を持ち、指先ができるだけ動かないようにして、振り回す)・・・危険ですね。本当はもっと早く回したいのですが、糸が切れて飛んでいくと危険なので、これぐらいのスピードにします」

 「さて、分銅はどのような運動をしていますか? ・・・そうですね。直線運動ではなくて、円運動です。では、速さはどうでしょうか? ・・・、その通り、等速運動です。したがって、これらをまとめると、等速円運動となりますが、あまり、そのような言い方はしません」

 「質問です。分銅が円運動をしているのはなぜでしょう? ・・・そうです。もちろん、先生が回しているからですが、実は、分銅がいったん動き始めると、先生はあまり回すための力を加えていません。糸を持っているだけです。無重力の宇宙空間や宇宙船で同じことをすれば、回すための力はゼロです。糸さえ持っていれば、永遠に同じ速さで円運動をします。ここは地球上で、地球からの重力がはたらいているので、先生はそれに逆らうための力を、できるだけみなさんにわからないように加えています」

 「では、先生が糸を離したらどうなるでしょう? 分銅は円運動を続けるのでしょうか? それとも? ・・・そうですね。直線、ではなくて、等速直線運動をします。円運動ではなくて、等速直線運動になります。今、円運動をしているのは、先生が円の中心に向かってひっぱり続けているからであって、糸が切れたり先生が手を離したりすれば、その瞬間から、分銅はどこかへ飛んで行きます。正確にはどこかではなくて、円の接線方向へ飛んでいきます」

 「実際に実験をして、飛んでいく様子や方向を確かめてみましょう。ちょっと危険なので、2回しか行いません。よく見ていてください。(分銅をぐるぐる回して)手を離す位置によって、分銅が飛んでいく方向が違うことは誰でも予想できると思いますが、ここで問題です!  分銅が真上に来た時に先生が手を離すと、分銅はどちらへ飛んでいくでしょう? おっと、声に出さないでください。全員に、その方向を指差してもらうので、人差し指を用意しなさい。はい、机の上に手を置いて、指を出して、・・・(全員が指1本を出したら)・・・では、隣の人を見てはいけませんよ。自分の考えで答えてください。では、答えてもらいます! 飛んでいく方向を指差しなさい!! ・・・あれっ、違う人がいる。しかも、かなりたくさん!!! ・・・では、正解発表です。これから分銅を飛ばしますので、よく見ていてください。(分銅を回しながら)飛んでいく方向はあちらで、先生は安全を確保しているつもりですが、失敗すると危険なので、避難したい人はしてください。(分銅が真上に来るたびに『離す、離す、離す、離す』と呪文のように声を出しながら、実際に真上に来た時に手を離して)・・・はいっ、・・・大成功! 正解は見ての通り、あっち、です。分銅が飛んでいく方向は、手を離した点の接線方向です」

 「もう1回だけ飛ばします。今度の問題は、分銅を真上に飛ばすポイントを考えてもらいます。(分銅を回しながら、回してない方の手で上下左右のポイントを順に指しながら)・・・ここ、ここ、ここ、ここ、のうちのどこですか? 1回だけ挙手してください。手はまっすぐ上に大きく挙げてください。遅い人や腕が曲がっている人は不正解とします。では、行きますよ! (分銅を回しながら、回してない方の手で『上』を指しながら))・・・ここ、だと思う人! ・・・誰もいませんね。ここは先ほど実験したように、廊下へ向かって真横に飛んでいくポイントです。では、(分銅を回しながら、回してない方の手で『右』を指しながら)・・・ここ、だと思う人! ・・・(後略)


上:おもりに糸をつけて回す実験について、A組でまとめた板書


上:同上の実験について、B組でまとめた板書

(5)だるま落としの原理 (5分〜7分)
 だるま落としで遊ぶ前に、その原理を紹介します。きちんと理解することで、だるま落としの成功率が高まり、より楽しく遊ぶことができます。 その原理は『技』や『こつ』という言葉で表現しても良いでしょう。


上:だるま落としの原理を説明した板書

原理を説明する手順
(1)だるま落としの模式図を書く(上図右端)
(2)上図『い』の部分に力を加えることを示す
(3)巨大な矢印を書く(上図中央)
(4)矢印の中に、『頭・あ』『い』『う・え』と書く
(5)それぞれがどうなるか、考えさせる
(6)『い』は、ハンマーの力で右へ
(7)『頭・あ』は、重力で下へ
(8)『う・え』は、重力と垂直抗力がつりあい、静止

説明上のポイント
・『い』に加える力は、一瞬
・力を加えられていない『い』は、等速直線運動を続ける
・等速直線運動をしている『い』自身は、「静止している」と思っている
・『う・え』は2つの力がはたらいているが、つりあっているのでゼロ、と考える
・『頭・あ』は、初めは重力で(加速度)落下するが、落下し終えると「重力=垂直抗力」、つまり、「外力=ゼロ」となり静止する

(6)実習:だるま落とし (20分〜分)
 初めは興味を全く示さない生徒でも、3分もしないうちに遊び始めます。楽しそうに遊ぶ友だちをみていて、黙っていられるはずがありません。そうするためには、ある程度の数のだるま落としが必要です。他の実験装置に比べて安価なものなので、2人に1つの割合でそろえてくだい。しばらくすると2つの班が合同し、背の高いだるまを作るでしょう。

実習上の注意
・必要以上に大きな力を加えない
・全力で叩かない
・飛ばす方向に、雑巾や教科書を置いて安全を確保する

実習画像準備中

(7)本時の感想、考察 (5分)


授業を終えて
 だるま落としで遊んだことがない生徒が、各クラス10人程度(25%)いたことに驚きました。伝統的 & 奥深い遊びだと思うので、授業時間に取り入れてください。

 楽しく遊ぶこと!

 それは豊かな人生、豊かな授業にするために不可欠なことです。遊ぶことは簡単ではありません。だるま落としのような単純なおもちゃで、いつまでも楽しく遊ぶためには工夫が必要です。一通りできるようになったとき、自分のレベルが上がってきたとき、さらに楽しむためにどのように創意工夫したらよいのか、できない友だちと一緒に楽しむためにはどうしたらよいのか、だるま落とだけで何時間も授業を展開することもできます。科学的な思考と実践が必要です。

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