このページは『Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン』です。

第4章 学級経営

6 担任は学級監督です

─理想的な監督は、選手(子ども)たちに全て任せます─

 理想的な学級担任の先生は、野球の監督のような存在です。試合シーズンが始まる前は大変ですが、いざ、ゲームが始まると見守ることが多くなります。各選手の特徴が最大に発揮されるように采配を振りますが、多少の失敗をしても選手を信頼して我慢します。選手交代は、初めから予定していない限り、最終手段です。交代前には、コーチやリーダーや選手の言葉を十分に聞きます。そして、全体を意見を総合し、監督1人の責任で決断、命令します。それが理想的な監督の姿です。

 学校生活においては、毎日が試合のような状態ですから、先生は生徒を見守ることが仕事になります。ただし、どうしても決断しなければならないことが合った場合は、絶対的な権限で命令します。先生の判断が間違って失敗することがあっても、先生の命令は絶対なのです。こうなるためには、先生は子どもをよく観察するだけでなく、小さなリーダーを育てておく必要があります。入学までに『先生(大人)嫌い』になっている子どももいますが、中学3年間を通して、じっくり取り組んで下さい。

 それでは、先生がリーダーから司会者、そして、監督になるまでの5つの段階を紹介しましょう。ちなみに、私が第3段階に到達するまで10年程度、第4段階までは10年以上かかりました。もちろん、各段階は授業に当てはめることができます。各教科の先生は授業の司会者、です。授業の延長線上に、学級経営や生徒指導があることは、別ページ『授業ができば一人前』でお話した通りです。


教師が監督になるまでの5つの段階
第1段階:先生と生徒の立場を区別する

 1980年頃の日本社会は、この段階を意識する必要がありませんでした。先生と生徒、親と子ども、という立場の違いが明確だったからです。しかし、2008年においては、この立場の違いを明確にしておく必要があります。公立中学校の現場レベルでは、この段階をクリヤーすることがもっとも難しいと思います。とくに、親と子どもが一体化している場合は、親を教育する必要があります。これについては別ページ『子どもには解決できない問題』を参照して下さい。

 立場の違いは、先生が態度で示します。特に何も言う必要はありません。大多数の生徒は、理由を知らなくても、違いがあることを感じています。先生に食い下がって理由を聞く子どもは、先生の揚げ足をとる可能性が高いので注意して下さい。そんな子どもの質問に対しては、質問で答えます。「先生と生徒のどこが同じですか?」 さらに新しい質問が来たら、同様な質問で答えて下さい。理論的に十分な勝算があっても、同じ土俵に立つこと自体、すでに先生の負けです。どうしても答えたいなら、「法的に子どもは大人ではあません」。それで十分です。

先生が注意するポイント
・悪い目つきは、絶対に許さない!
・先生だけずるい、と言わせない!
 (先生自身も、言われるような行為は慎む)
・毅然とした態度で、立場を区別する
・子どもを呼び捨てにしない
 関連ページ『
ニックネームでこんにちは
・子どもに対して荒っぽい言葉を使わない

第2段階:人としてのマナーを示し、躾しつける
 基本的な躾しつけは、家庭において幼児期までにクリヤーする段階です。しかし、1995年頃から聞かれるようになった小学校における学級崩壊が証明するように、人としての躾ができていないまま小学校に入学する児童が増えてきました。小学校の先生は、必死で努力されていると思いますが、その力量を超える不躾なのでしょう。小学校で6年間、私たちと同じ先生達が頑張っても崩壊することがあるのですから、中学校でも人としてのマナーを示し、躾けることが必要です。

主な躾のポイント
・誰かが発表している時は、無駄話をしない
・自分が意見を言う時は、挙手をして指名されてから発言する
・たとえ事実でも、友達を傷つけるようなことを言わない
・誰が間違えても、それを批難しない

 上のポイントを見れば分かるように、これらは授業中に躾けられるものです。毎時間の授業の中で、徹底的に躾けます。これは家庭教育の質によるところが大きいのですが、頑張って下さい。中学卒業後、彼らを積極的に躾けようとする人はいなくなるからです。先生、頑張って下さい。この段階がクリヤーできた時、やっと初歩的な授業の成立です。人間としてのスタートラインに立ったのです。

第3段階:先生が司会者として参加する段階
 この段階から面白くなります。第2段階は、先生が中心になって1人で頑張っていましたが、第3段階は、活動の中心が生徒に変わります。生徒は下のようにいろいろな活動する選手となり、先生はそれをまとめる司会者になります。司会者の仕事は、生徒の意見を聞き出したり、考えまとめたり、筋道を提案することです。先生は監督レベルに達していませんが、授業ではこの第3段階が最高段階です。私は、自分の授業がこのレベルに完全に到達したと感じるまで10年ほどかかりました。

授業におけるいろいろな生徒
1)学力が高い、いわゆるリーダー
2)学力とは関係なく、雰囲気を盛り上げるリーダー(冗談が得意)
3)本読みが上手な生徒
4)常に、違う角度から物事を考える生徒
5)手先が器用な生徒
6)観察、スケッチが得意な生徒
7)先生の代わりに説明をしたがる生徒
※関連ページ『五月蝿い生徒を活かす』『3年生で復習する『浮力』2012年』
※こられらの生徒の個性は、授業毎に異なる形で発揮されます。
※また、特定の教科において光輝くことがあります。

学級内における生徒のいろいろな活動
1)室長として、友達の意見を聞き、まとめる
2)委員や係の立場から発言する
3)個人的な考えを発言する
4)自分の特技を発揮する

note:各段階ごとのリーダー数、先生と生徒の役割

段階 リーダー 先生の役割 室長の役割 生徒の役割 備 考
第1段階

先 生
先 生 生 徒 ・本来は、小学校入学までに完了
第2段階 人 間 人 間 ・中学入学でに完了することが望ましい
第3段階

生徒全員
司会者 サブ司会者

活動の主役
(司会者も含む)
・理想的な授業のあり方(小学校でも可能)
第4段階 監 督 司会者 ・理想的な学級活動のあり方
第5段階 下準備係 監 督 ・最高レベルの学級活動のあり方
・本来の生徒会執行部のあり方

第4段階:個別なルール作りを委譲する段階
 この段階は、授業においては成り立ちません。1年、あるいは、数カ月にわたる授業計画を立てることは、先生の仕事だからです。学級活動において、生徒が単発的な学級のレクリエーションを自主的に計画する段階です。

 ここでは、先生はまるで遊んでいるみたいに見えますが、実際に楽です。5つの段階の中で1番気楽な段階なので、ひと休みしてください。先生は監督に昇進し、室長の相談に乗ったり、各リーダーを援助したりして下さい。ただし、間違えていけないのは、室長が司会者の仕事が十分にでき、生徒1人ひとりが主役となって意見を述べたり活動していることが前提です。そこまで、先生が育て上げていることが前提です。

 黙って椅子に座って見ていて、突然、「何をやっているんだあー!」というのは違います。先生が突然叫ぶ段階は、このページにはありません。叫びたくなる原因をつくったのは先生であり、被害者は生徒です。第1段階〜第3段階へ戻りましょう。

第5段階:全面的に集団運営を委譲する段階
 この第5段階は、かなり高度な学級経営をした場合、あるいは、理想的な生徒会活動において出現します。生徒は120%の力で活動しているので、先生は本当に何もしません。先生が手を加えると、返って逆効果になる段階です。しかし、この後に説明するように、先生には大変な仕事が待ち受けています。それは下準備係り、です。

 生徒は、先生の予想を上回る活動を展開します。生産的で活発な議論がなされ、驚くほど斬新なアイデアが具体的な原案となって先生に提出されます。例えば、夜の彗星観測会、クリスマスパーティーなどです。「焼き芋をしたい」という単純な願望だけなら却下できますが、それまでに十分な実績を積み重ね、焼き芋の方法について詳細で配慮が行き届いた原案が提出された場合は、本当に困ってしまいます。私自身、本当にやっていいのだろうか?、どうやって関係の先生方に話をしようと真剣に悩んだ経験が2、3回あります。

参考になるページ『吉岡先生送別会
※生徒が計画し、保護者から十分な協力を頂き、休日の午後に行なわれたものです。
※私はほどんと何もせず、楽しんで見ていただけです。

 この段階になるためには、入学してからじっくりと3年間付き合う必要があります。教師の十分な戦略も必要です。しかし、いざ理想的な活動が展開しはじめると、恐ろしいものです。私立中学か公立高校なら、大丈夫かもしれませんが、私が勤務するのは公立中学校です。そこにはたくさんの障壁があります。そのいくつかは私の力ではどうにもならないものであり、悲しいことですが、生徒達の活動はここで終焉を迎えるのです。

 私は、生徒の役に立てない下準備係りになったのです。

note1
第5段階に達した時、決断できる人が決断するしか方法はない。しかし、保守的な個性を持っているの場合、生徒集団を1段階高いレベルに上げるために、リスクを背負うことはしない。現状維持で十分なのだ。私には、逆立ちしてもできないことがある。と同時に、保守的な考えの大切さや、それが生まれた背景も分かる。それが私の唯一の悩みだ。2000年頃

note2
第4段階に達すると、生徒指導上の問題はほとんど発生しません。しかし、第5段階は小さなトラブルが時々発生します。その主な原因は、教師が自分の力を無理に示そうとしたり、教師としての立場を認識していないこと、などです。

note3
荒れた学校が復活した場合、教師が第3段階に移れないことがあります。理論的には、第3段階に進もうとすれば、第2段階と第3段階の間を行き来することで学校は安定します。しかし、本当に荒れた現場を体験してきた先生は、トラウマができています。心が大きく傷けられる体験を重ねた結果、生徒を信頼し、生徒の自主性を尊重することに恐怖心を抱くようになっいます。本人の努力ではできな心的外傷です。※第2段階までの主役は先生ですが、第3段階から生徒に変わります。

 私は3つの中学校で、それぞれ3年間かけて第1段階から第3段階〜第5段階へ到達した経験があります。これは、私1人の力ではありませんが、本当に命がけの仕事であったことは言うまでもありません。

 若手教師の皆さんで第1段階を経験していない人は幸運です。新しい学校に赴任し、大変な状況を目の当たりにしたら、このページを思い出して下さい。そして、一気に第4段階まで駆け上がるつもりで頑張って下さい。十分な意欲と努力があり、尊敬できる先輩と仕事ができるなら、経験10年未満でも十分な活動が可能です。

2008年1月4日

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