このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 1年(2012年度)です

第16時
観察16:光合成、ブドウ糖からのつくり変え

     2012 5 30(木)
     2012 6 1(金)
     理科室

はじめに
 今日から4時間程度で光合成と呼吸を調べます。これは、細胞内における物質変化(生化学反応)です。理想的な展開は、一気に理論を教え、それをできる限り検証していく方法です。しかし、理論が難しく、中学1年生には不可能です。また、教科書は光合成でつくられる物質を『デンプン』と記述していますが、私は『ブドウ糖』としました。光合成と呼吸の学習目標を、以下の化学反応式を理解させることに設定したからです。

二酸化炭素 +水 +太陽エネルギー (光合成)→ ブドウ糖 +酸素
二酸化炭素 +水 +生活エネルギー ←(呼 吸) ブドウ糖 +酸素

 さて、本時のテーマは、2つの同化作用です。1つは光合成、もう1つはいろいろな物質の生合成です。前者は葉緑体、後者はリボソームで行います。リボソームは高校で学習する内容ですが、私は教えることにしました。自分のからだをつくる細胞内の工場は、中学1年生にとって興味深いものだからです。栄養分が形を変えて自分自身になるのではなく、リボソームが自分自身をつくるのです。その設計図は核にありますが、それは3年で教えます。

 実際の授業は、オオカナダモの細胞観察実習と上記理論の同時進行です。初めは理論だけにしようと考えていましたが、実習も行うことにしました。わずかなチャンスを見つけて、少しでも顕微鏡に触ることが大切だからです。オオカナダモのプレパラートづくりは簡単なので、やるからには全員『A』を目指します。これは私の目標です。


上:プレパラートを完成させてから、自主的に発表するA君


本時の目標
1 光合成について理解する
2 ブドウ糖からのつくり変えについて知る
3 植物細胞の核、葉緑体、リボソームを知る
4 オオカナダモの一時プレパラートを作る
5 オオカナダモの葉緑体を観察、スケッチする

準 備
生 徒 教 師
  • 筆記用具
  • 教科書、理科便覧、ファイル
  • テッシュペーパー
  • 本日の学習プリント (1/人)
  • 顕微鏡 (1/人)
  • スライドガラス (1/人)
  • カバーガラス (1/人)
  • 光源 (1/班)
  • オオカナダモ (1/班)
  • 100mlビーカー (1/班)
  • ろ紙 (希望者)
  • 酢酸カーミン (希望者)


授業の流れ
(0) 始業前の準備

 理科室に移動してきた生徒から、本時の学習プリント、顕微鏡、スライドガラス、カバーガラス、光源、オオカナダモが入ったビーカーを準備させます。そして、オオカナダモの一時プレパラート作成を指示します。

写真右:ビーカーに入ったオオカナダモ
 100mlビーカーに適当な量の水を入れて持ってくるように指示します。先生はできるだけ元気なオオカナダモ2本を準備し、それぞれを少量ずつ千切って配付します。先端と根元、のように異なるものを1つずつ入れてください。場所や条件によって細胞や細胞内の様子が違うからです。

(1) 始業のあいさつ、本時の内容紹介
 生徒達が熱心にプレパラートづくりや顕微鏡観察に取り組んでいる場合、始業のチャイムがなっても一段落するのを待ちます。一段落とは、器具の運搬や水道の蛇口操作など、中断が難しい活動が終ることです。生徒個人の操作になり、中断および再開が容易になった時点で、始業のあいさつをします。今日は生徒の集中力を切らさないようにするため、着席したままの挨拶でした。そして、本時は、オオカナダモの一時プレパラートを全員に作成してもらうこと、顕微鏡で観察できなくても美しいプレパラートができれば『A』がもらえること、プレパラートは授業の合間を見つけてつくること、授業は光合成の仕組みなどを行うことを知らせました。

(2) 一時プレパラート作成の手順の確認
 1分程度で、一時プレパラート作成手順を確認します。オオカナダモの名前を教えていないクラスにはその由来を教えてから、葉はそのまま使えば良いことを知らせます。プレパラートづくりは、定期テスト前にほぼ生徒全員が『A』をもらっているので、葉を2枚使う生徒は1人もいませんでした。むしろ、葉1枚をさらに小さくする生徒が見られたほどです。また、ピンセット、柄付き針、スポイトは使わせませんでした。最高の道具は自分の指であることを知るだけでなく、実際に操作できるようにしなければいけません。オオカナダモのプレパラートは、自分の指だけで十分にできるレベルです。指で千切り、指に水をとって落とし、指でカバーガラスをかけます。

(3) 光合成に関する重要語句
 学習プリントに植物の模式図を印刷し、その左側に光合成、右側にブドウ糖からのつくり変え、をまとめさせます。


上:板書例

 先生はプリントと同じ図を板書し、重要語句をさくさく確認していきます。理論の検証実習や実感を持って理解すること、に時間を使うためです。

 「(赤で丸を描きながら)これなあに? ・・・そうです。太陽です。(太陽から波線矢印を書き、その上に『太陽エネルギー』と書きながら)植物に太陽エネルギーが当ります。そして、光合成の場合、2つの気体が出入りしますが何か知っていますか? ・・・あ、今日は手を挙げなくてよろしい。時間短縮のため、みんなで答えてください。では、もう一度聞きます。光合成では2つの気体が出入りしますが、入るものと出るものを答えましょう。では、入るものは・・・(生徒達が『二酸化炭素』あるいは『酸素』と答える)・・・あれっ、ちょっと混じりましたが、酸素と二酸化炭素のどっち? ・・・(生徒達が『二酸化炭素』と答える)・・・そうですね。二酸化炭素を取り入れて、酸素を出します。書いておきましょう。(少し時間をとってから) 次に、根から吸収するものは? ・・・おっと、これも混ざりましたが、正解は水です。肥料も必要ですが、それはプリントの右半分に書きます。光合成で必要なものは水。肥料は要りません。」

右上図:A君の学習プリント
クリックすると拡大

 「さて、ここから教科書と違うことを教えます。教科書には『デンプン』ができると書いてありますが、本当は違うものができてから、それをもとに『デンプン』をつくられます。では、光合成で初めにつくられるものは? ・・・おっと、手が挙りましたね。・・・B君! (B君が『ブドウ糖』と答える) 大正解です。どうしてわかった? ・・・そうですね。プリントのタイトルになっていますね。さすが、よく気づきました。では、葉の中に『ブドウ糖』と書きましょう。」

(4) ブドウ糖のつくり変え
 「光合成でつくられたブドウ糖は、デンプンにつくり変えられます。プリントの右側へ矢印を引っぱって、葉の中に『デンプン』と書きましょう。その他、植物のいろいろな場所へ移動して、移動するために通る管は『師管』ですが、師管を通って全身に運ばれます。先端部では、(花、果実と板書しながら)花になったり、果物になったり。そうそう、みんなの好きな果物にしましょう。何が好き? ・・・パイナップル! オッケー。じゃあ、パイナップルと書きましょう。(黒板にパイナップルを書きながら)パイナップルじゃなくても自分の好きなフルーツを書いておけば良いよ。(少し時間をとってから) 地下に移動して(ジャガイモを板書しながら)これ何だ? ・・・そうですね。ジャガイモです。地下茎ともいいますが、ジャガイモは地下にたくわえられた貯蔵デンプンの塊です。 (サツマイモを描いて)これ何だ? ・・・正解。サツマイモです。これは地下茎ではなく、根です。根にデンプンを貯えたものです。」

(5) 光合成とブドウ糖のつくり変え、のまとめ
 「次に、光合成とブドウ糖のつくり変えを、それぞれまとめます。みなさんはプリントの下にそのまま書いてください。黒板は右側に書きます。」と指示を出して穴埋め問題形式でまとめます(写真下)。


上:自分の学習プリントの記入を終えてから、自主的に発表するC君(クリックすると拡大)
※左端の化学式のふりがなは、『しーおーつー』『おーつー』『えっちつーおー』にするべきでした。英語の先生にこれを話したら叱られそうですが、化学式の紹介も初めてなので許してください。次回、同じ化学式を使った時に直します。失礼しました。

 ここまで一気に走ってきたので、5分程度時間をとります。この時点でプレパラートが完成させていた生徒数はクラスによって違いますが、5〜10人。先生は机間を歩いて点検、合格印を押します。合格し、さらに自分の学習プリントに光合成をまとめることができた生徒は、黒板発表します。次の『ブドウ糖からのつくり変え』は、『光合成』の発表確認後に行います。なお、光合成の黒板発表が終るまでにプレパラートが合格した生徒数は、8〜15人です。終業のチャイムまで30分あるので、ゆっくり焦らず作業すれば良いことを知らします。私自身、時計を見て30分以上あるので、吃驚しました。十分です。


上:光合成とブドウ糖のつくり変え、のまとめ

(6) 植物細胞のつくり
 「次に、植物細胞のつくりをまとめましょう。学習プリントは右側になります。(学習プリントと同じ細胞の模式図を板書して)細胞内にはいくつかの構造がありますが、今日は3つ紹介します。」


上:板書例

1) 核
 「まず、細胞の中心になる部分です。名前を知っている人? ・・・その通り。核です。核は中心、という意味です。原子核、原子力発電に使われる核エネルギーの核と同じです。(生徒が爆発するんじゃない? と呟く)・・・爆発しないから大丈夫です。この核は、細胞の中心としてはたらく部分です。爆発はしません。細胞が爆発したらヒトのからだは大変なことになります。花が爆発した、って話もきいたことないでしょ。ところで、この核は顕微鏡で十分見えるくらい大きいのですが、無色透明なので見えません。」

※ 生徒から「核を見たい!」という要望が出た場合
 
「どうしても見たい人は、後から染色液で染めてください。核が赤くなります。えっ、染色液を知らないって? そうでしたね。染色液という言葉を聞くのは初めてですね。(黒板に『酢』と書いて)す、と書いてさく、(『酸』と書いて)さんは酸っぱいさん、合わせて酢酸、(『カーミン』と書いて)酢酸カーミンという染色液を使います。」
→ オオカナダモの細胞の核を観察する方法(ページ内リンク)

2) 葉緑体
 「次に、たくさんの緑色の粒が見えたと思いますが、自分の顕微鏡で見えた人?・・・ はいはい、もう全員見えていますね。その名前は? ・・・その通り、葉緑体です。葉緑体は光合成を行う部分です。葉緑体の数は、部分によって違います。(オオカナダモの葉1枚を板書して、それにいくつかの部分を丸で囲みながら)葉の先端、中間、元の部分で、細胞の大きさや形や葉緑体の大きさが違います。これは自分で確かめておいてください。自分がどの部分を観察しているのか記録しておくと良いでしょう。葉緑体だらけのところ、少しだけのところがあります。また、実は、ビーカーの中に2つオオカナダモの塊を入れておきました。すでに合格している人は、違う形や色の葉を試しなさい。細胞レベルでも違います。」

※ 生徒から「葉緑体が動いている!」という発言が飛び出した場合
 
この発言は、必ず飛び出します。早い場合は、授業開始5分です。この言葉を拾うと、クラス全体のやる気スイッチがスーパー・オン! 加速します。「みんな、A君の葉緑体が動いているって!! 葉緑体は動くんだよ。他に動いている人は? ・・・(数人が手を挙げる) 反射鏡で光をしっかり入れると、細胞が元気なって動き始めるのだけど、光入ってますか? しっかり入っている人は動き始めると思うので、もう一度よく見て! 凹面鏡で蛍光灯の光を集めて!・・・(生徒からどんな風に動くのか質問が出る)・・・A君、みんなに動き方を説明してあげて! ・・・そうですね。ゆっくり動いています。しかし、早い場合、30秒で細胞内を1周するぐらいの勢いです。速さは場所によって違うから、全く動く気配がない細胞なら、違う部分を探してご覧。じゃあ、がんばってね。」

3) リボソーム
 「最後にリボソームです。リボソームは、みんなのからだをつくる工場です。皮膚の細胞のリボソームは皮膚を、髪の毛の細胞は髪、筋肉細胞は筋肉、骨細胞は骨をつくります。生物のからだをつくるのは、細胞の中にあるリボソームという工場です。でも、これはとても小さて見えません。大学や研究所にある電子顕微鏡でなければ見えまませんし、実は、中学で習わないものです。でも、優秀なみなさんなら紹介しても大丈夫だと思うので、紹介しました。」

 以上で、一斉授業は終了。残り15分は生徒個人の観察、スケッチの時間です。


上:顕微鏡でオオカナダモを観察している生徒達


上:B君が見つけたぐるぐる動く葉緑体を一目見るために行列をつくる生徒達(その他の生徒は、自分の顕微鏡で探している)


上:学習プリントに感想をまとめるB君
 彼は、葉緑体の動き方にルールがあることを記述しています。凄いなあ。


上:C君の学習プリント


オオカナダモの細胞の核を観察する方法

 オオカナダモの細胞壁は硬く、核の観察には適していません。それでも観察したい場合は、葉を千切ることで細胞を切断します。この切断面から染色液を細胞内に直接入れてみましょう。

写真1:酢酸カーミンで染色
生徒に千切ったオオカナダモを持参させます。時間があれば生徒に染色させますが、今回は私が行いました。葉の裏表、両面から染色できるようにスポイト操作します。

写真2:テッシュで吸い取り
水は無色透明ですが、酢酸カーミンは赤いので、生徒達は喜びます。もう一度、毛細管現象という言葉を呟いてあげましょう。知識が定着します。

写真3:対物レンズ40倍で検鏡
このプレパラートは、手前に普通のもの、奥に染色したものがあります。このように、1枚のスライドガラスに複数の試料を載せて検鏡するのは、時間と手間の短縮になります。ただし、写真3を良く見ると、手前はカバーガラス2枚重ね、しかも、水が入っていないので全くダメです。どんなに急いでいても、正しいプレパラートをつくらせましょう。ま、この生徒は、2つめのプレパラート作成中に酢酸カーミン配付案内があり、焦ったのでしょう。

 さて、実際の写真がないので説得力に欠けますが、断面部分ほぼすべての細胞の核が染色されています。ただし、細胞は重なっています。核を失った細胞もあります。美しく見える細胞の確率は、10%程度ですが、かなり「おー」です。

 対物レンズは40倍。接眼レンズは7倍、10倍、15倍のどれでもオッケーです。


写真1:酢酸カーミンで染色


写真2:テッシュで吸い取り


写真3:対物レンズ40倍で検鏡


授業を終えて:欲望の発見
 静寂の時がたくさん流れていました。生徒達が非常に集中し、楽しんでいたからです。授業で学んだ理論を、自分の手と目で確かめたい! その欲望が静謐な時間を生み出したからです。私は独り、生徒達の欲望に満ちあふれた時間を愉しんでいました。

 欲望、これは重要なワードです。この言葉をこの授業記録で使うのは初めてかも知れません。欲望、子どもたちの欲望。それを引き出すことが私の欲望。これからしばらく、私の教育のキーワードは『欲望』になりそうです。愉しいなあ。

 待て! 欲望より本能。きらきらよりギラギラ。面白くなってきた。そうだ。自然を見てギラギラする子どもを見たい。ギラギラの子どもと学びたい。最近、そんな子どもに出会ったことないからね。自然もないし。そのためには、より高度な活動が求められるから頑張りましょう。

 当面の課題は、感動をこえるキーワード探しかな。これまでの私のテーマは『自然に感動すること』だったけれど、今日の授業はその上だった。感動を超えた欲望に満ちていた。

 なお、私が見逃していなければ、プレパラート作成は全員『A』。それに匹敵するものを見ていたはずです。

関連ページ
 観察8 葉緑体のはたらき(光合成) 1年(2002年)
・ 観察15 オオカナダモの細胞(葉緑体 1年(2013年)
 実験1.1 オオカナダモの葉緑体(光合成) 1年(2002年)
 観察9 葉緑体(オオカナダモ) 1年(1999年)

実践ビジュアル教科書『中学理科の生物学
第2章 細胞の構造とはたらき   動物細胞と植物細胞の比較
 核は生物の設計図
 リボソームは有機物を合成する
 核とリボソームがつくる物質
 ブドウ糖をつくる葉緑体(光合成) 
 植物の2つの同化作用
 代謝(異化と同化)のまとめ
 p.24
 p.25
 p.25
 p.26
 p.32
 p.33
 p.38

第15時 ← 
考察15 1年理科1学期中間テスト

→ 第17時
実験17 植物がつくるデンプン

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