このページは、Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスンです。 |
第3章 理科の授業
15 科学的なスケッチの描き方1 科学的なスケッチとは何か
- スケッチは、短時間で簡単に描くことです。長時間の細密描写とは違います。しかし、時間の長さや細密かどうかの基準はありません。中学生なら10分でも十分に長い時間になるでしょう。顕微鏡を覗きながら30分スケッチしたなら、それは50分授業全てを使った最長スケッチといえます。
- 科学的とは、誰が見ても同じに見える、という意味です。さらに詳しく科学について知りたい人は、別ページ『科学って何?』をご覧ください。
- したがって、『科学的なスケッチは、ある自然物を間違いなく描いたもの』になります。
2 理科的なスケッチ
科学の対象は自然だけでなく、人間社会、建築物、宗教などたくさんあります。その中でも、理科的なとして物理、化学、生物、地学があります。さらに、よくスケッチされるのは生物や地学の分野です。余談ですが、私は『的』という言葉が嫌いです。なぜなら、科学的は科学のような、理科的は理科のような、という感じがするからです。もちろん、感性と創造を愛する私は、曖昧なことが大好きですが、ここでは客観性を追求します。極めようとしてもできないことを知っているからこそ、客観と主観の両者に魅力を感じます。3 目的とするものだけを描く
目的をするものだけを描き、それ以外は描かないようにしましょう。最短距離で目標を達成させます。見えるもの全てを描くことは、無意味です。同じ事象がくり返されているときは、一部分だけ詳しく描いた方が効率的です。何を省略するか、それを決定するのはあなた自身です。すべては何を観察したいか、何を他人に伝えたいかによって決まります。自分がスケッチする目的、観たものを明確にしなければ、不要なものを描くことになります。
写真右:タンポポの花をくり返し何度もスケッチする生徒
目的が違うなら、もう1度描き直した方が良い。写真右下は『総苞』の違い、左下は『各部の名称』を記録することを目的としている。現在描いているのは、花弁の先端が5つに分かれていることや合体した花弁どうしの関係だろう。4 大きく描く
できるだけ大きく描くことがもっとも重要です。小さな図はごまかしが利きますが、大きなものはばれてしまいます。初めのうちは、とにかく大きく描くように指導しましょう。タンポポの1つの花をスケッチさせるなら、全長7cmで描きなさい、と具体的に指示します。大きく描けるようになったら、今度は不必要に大きく描かないように指導します。5 言葉を書く
図で描けないもの、言葉で書いた方が適切なものは、言葉で記述するほうが科学的です。そもそもスケッチする理由は、言葉より図のほうがわかりやすいと判断したからです。何でもかんでも図で描けば良いというものではありません。6 細い線と小さな点で描く
シャープの芯は細いものを選び、鉛筆の先端はできるだけ細くして描きます。点はできるだけ小さく描きます。太い線や大きな点を詳細に観察してみましょう。極太マジックで塗りつぶしたように見えるはずです。理想的な線と点は、面積をもっていません。線は方向と長さ、点を位置を示すだけです。くれぐれも紙を塗りつぶすような線や点を描かせないように注意してください。7 色をつけるべきか否か
一般に、色はつけない約束になっています。色は条件によって大きく変化するからです。しかし、私は中学生に色を使うことを勧めています。色は遷ろうものですが、それを指導した上で色を使えば良いだけのことです。視覚的にわかりやすいスケッチを目ざすなら、色の効果は絶大です。色を言葉で表現して記録する、のはおかしなことです。8 光によってできた影を描かない
科学的なスケッチは、自然物に均一な光が当たり、影がない状態を想定して描きます。顕微鏡で平面的なプレパラートを観察する時は、理想的です。しかし、厚みがあるものは大変です。立体表現や奥行き表現が必要になるからです。上手く描けないなら、言葉で表現してください。影を描いて問題になるのは、それが光によってできた影なのか自然物そのものの構造なのか、区別できなくなるからです。リンゴを科学的にスケッチするがことを考えてみてください。9 線の枝分かれ、線の消滅
教科書の多くは、線を枝分かれさせたり途中で消滅させたりしないように注意しています。線はある構造を示しているので、途中で消えることは絶対にありません。必ず閉じた線になるはずです。枝分かれしているものは、よく見るとそれぞれ厚みをもった構造物です。したがって、それぞれの厚みを表現しようとすれば、初めの構造物も厚みをもったものとなり、全ては閉じた線になるはずです。しかし、実際の観察では見えなくなることが多々あります。そのような場合、途中で破線に変えても良いでしょう。また、枝分かれしているようしか見えないことがあります。肉眼、ルーペ、顕微鏡には限界があるからです。その辺りは、実物を本当に観察、スケッチした人にしかわかりません。科学的なスケッチの目的は、誰がみても間違いが起こらないようにすることなので、どこから見えなくなったかという限界を明示すれば良いわけです。自分が見た事実を記録しましょう。見えたものと不明なことを明確にすることは、見えたものだけを描いたスケッチよりも遥かに科学的です。
note:科学的な技法としてのスケッチ、道具としてのルーペ
(授業記録2012年:観察7 単子葉植物の花、からだから)
今回の授業で1番印象的だったのは、1人の生徒がノゲイヌムギの花の内部構造を明らかにしたことです。
その前に、(1)雌しべの柱頭があること、(2)柱頭は白い綿毛のようになっていること、(3)私が見つけた柱頭を見たい人は双眼実態顕微鏡で見えるようにしてあるから一目見ること、以上3点を紹介したのですが、それを聞いた男子生徒が「先生見つけたよ!」と見せくれたのです。それが右の写真です(クリックで拡大)。
中心にある雌しべ、その周りの雄しべがクリヤーにわかります。「どうやって見つけた?」と質問すると、「シャープの芯で出した」ということです。同じ班の生徒に見せるだけではもったいないと思い、「A君が花を丸見えにしたので、是非一目見てください。先生が準備したものより素晴らしいです!」と紹介すると、クラスのほぼ全員が席を立って見に行きました。すると、クラスのあちこちで、「私も見えた」「僕も見えた」の声が上がりました。感動的な場面に感激しました。
「セロハンテープで標本にすると潰れてしまい、後から分からなくなるの可能性が高いので、大きくスケッチしておきなさい」と指示しました。感動を記録するためのスケッチ、自分が発見したものを誰が見てもわかるようにするためのスケッチです。それが本当の科学的なスケッチというものでしょう。ノゲイヌムギの花は小さいので、実物と同じ大きさでスケッチできません。できないからこそ、大きくスケッチすることの意味を生徒に教えることができたと思います。
第2時『観察2 タンポポの花』でスケッチさせたタンポポの1つの花は、小さいように見えて大きなものです。スケッチする大きさを具体的に「全長7cm以上」などと指示しない限り、実物大に書く生徒がほとんどです。しかし、ノゲイヌムギは実物大に書くことが不可能な大きさであり、ルーペを使いたくなるサイズです。小さなものを観察するめにルーペを使う、ルーペで満足に見えないから双眼実態顕微鏡を使う、双眼実態顕微鏡では見えない微細な構造を調べたいから顕微鏡を使う、使いたい、という生徒の欲望を引き起こした時間でした。もちろん、タンポポの花でも同じような感動はあったのですが、私自身何度もタンポポの花を観察しているので感動が薄れてしまっただけです。今回の体験はA君に感謝です。サンキュー、みんなに感動をありがとう!
関連ページ
・ スケッチのしかた(授業記録2012年:観察2タンポポの花 から)
・ ルーペや顕微鏡の使い方
・ 光学顕微鏡の使い方
・ プレパラートの作り方2012年5月14日
[Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスン][home] (C) 2012 Fukuchi Takahiro