このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 1年(2012年度)です

第7時
観察7:単子葉植物の花、からだ

     2012 5 7(月)晴
     下駄箱→ 屋外→ 第1理科室

はじめに
 単子葉植物の花は、大きく2つに分けられます。1つは3の倍数(チューリップ、カキツバタなど)、もう1つは小さくて目ただたないもの(イネ、ムギ、ススメノカタビラなど)です。前者の観察は比較的簡単ですが、それでは屋外で野草を観察したとき、「あれは雑草!」となってしまいます。雑草という言葉を使わない、雑草と言う言葉は植物を観る目がない人が使う言葉であることを理解させることが今日の授業の目的の1つです。

 1週間前に調べたところ、下駄箱の裏にあるノゲイヌムギが大きくなってきたので、その花を観察させることにしました。ただし、花の観察を正確に行うことは本当に難しいので、花に関する目標は(1)花があること、(2)花が咲いていること、(3)花はやがて種子になること、の3つにします。そして、単子葉植物の特徴として、子葉が1枚であること、葉の葉脈が平行(平行脈)であること、ひげ根であることを教えます。最近の研究は、単子葉植物=ひげ根、ではないことを示していますが、今日はとりあえず単子葉=ひげ根、としておき、後日、例外があることを指摘する予定です。例外の代表は、どこにでも見られるオオバコですから、次時に紹介してしまうかも。

 なお、教科書のマクロレベルの目標は『単子葉=平行脈=ひげ根』だけです。


上:下駄箱の裏の空き地でノゲイヌムギの花を探す生徒(2012年5月7日)


本時の目標
1 目立たない花を咲かせる単子葉植物の存在を知る
2 ノゲイヌムギの花を知る
3 単子葉植物の葉、根について知る
4 ノゲイヌムギやスズメノカタビラなどの単子葉植物を採取する
5 採取したものの花、葉、根のつくりを調べる

準 備
生 徒 教 師
  • 教科書、理科便覧、ファイル
  • セロハンテープ
  • 本日の学習プリント (1/人)
  • ルーペ(1/人)


授業の流れ
(0) 始業前、下駄箱に集合させる

 理科係を通して、下駄箱に集合するように連絡しておきます。理科の教科書やファイルなどの道具は、時間に余裕があれば理科室、なければ下駄箱の上に置かせます。下駄箱では体育科の授業で学習した背の順に整列させた方が良いですが、スペースがなければ構いません。ただし、学級委員に点呼をとらせてください。
※集合・点呼が終ったら、その場で始業のあいさつをすることが理想ですが、他クラスの迷惑になる可能性があれば、適切な場所へ移動してください。

(1) ノゲイヌムギの紹介、採取する上でのポイント
 「(ノゲイヌムギの群落を示しながら) ここに沢山生えている植物の名前を知っている人? ・・・雑草! という名前の植物はありませんよ。花も咲かせて小さな種子をつくる植物で・・・(反応がないなら・・・) その種子は『ムギ』ということもあるようですが・・・(反応がないなら・・・) 誰も知らないようなので紹介します。これはイネ、すなわち米や、ムギ、すなわち小麦に似ていますが、正しい名前は『ノゲイヌムギ』です。ノゲイヌムギのムギは麦、イヌは人が利用できないから犬、ノゲの意味は理科室で説明します。

 さて、今日はノゲイヌムギの花とからだを採取して、いつものように調べます。標本をつくるときのポイントを説明するので、ベストなものを採取してください。もちろん、他の人のことも考えて乱獲しないようにしてください。これは雑草ではありませんよ。

(ア) 花
 (70cm程度のノゲイヌムギを採取し、その小穂を見せながら)
稲穂みたいなものができていることは分かると思いますが、よく調べると、黄色いものが出ているものがあります。それが花で、花が咲いている状態です。ちょっと探してみましょう。見ていてください。(草むらから1つ採取し、それを見せながら)この部分から黄色いもの、詳しくは雄しべの『やく』ですが、見えますか? ・・・後ろの人は見えないかも知れませんが、後から見にきてください。実は今、花盛りの季節で、小さな黄色いものが

上:ノゲイヌムギの花
 稲穂のようなものを小穂(しょうすい)といい、1つの小穂には6個程度の小花(しょうか)がある。上の写真では、1つの小花から、黄色い雄しべのやく1〜3個が出ている。これらの小花を分解すると、中心に雌しべがある。白い雌しべの柱頭が外に出ている花もある(上の写真をクリックすると見える)。雌しべの下部の子房は、成熟すると種子になる。


上:理科室で生徒がむき出しにしたノゲイヌムギの花の内部
 シャーペンの芯を使って、小花を内部をむき出しにした。白い綿毛のようなものは柱頭、黄色いやくは3つ観察できる。

(イ) 葉の葉脈、葉のつき方
 「(全長1m近いものを採取し、それを見せながら)葉の全体の形が細長いことはすぐに分かりますが、その葉脈が平行になっていることを知っていた人はいますか。手を挙げてください。・・・おや、ほとんどの人が知っていますね。では、葉のつき方を調べてみると、(一番根元の葉を左手で持ち)これが一番下の葉ですが、次の葉を調べると(次の葉を右手で持ち)1枚目より上に1枚だけついています。同じ位置に何枚もあるわけでもなく、1つの位置に1枚しかありません。3枚目は、ほら、(3番目の葉を左手で持ち)やっぱり1枚しかありません。ということで、ノゲイヌムギの葉は交互に1枚ずつ生えているわけです。交互なので、これを互生といいますが、理科室に戻ってからまとめ直しましょう。」

(ウ) ひげ根の採取方法
 「次に根の観察です。根は、先生の髭のように生えているのでひげ根といいます。(自分の髭を触りながら)先生の髭の特徴は、同じ太さのものが同じように生えている点です。これに対して、次の時間に学習する双子葉植物の根は1本の太い根があり、太い根から細い根が生えています。先生の髭が1本だけ太くて、それから細い髭が生えていたら凄いよね! こんな感じで(ジェスチャーを交えながら)大根みたいな1本の髭が生えていたら・・・

 さて、ひげ根の採取方法ですが、土が柔らかいところを探してください。根の採取は雨の日が良いのですが、できるだけ湿った柔らかな土を探してください。乾燥しているところは根が千切れます。さて、土の硬さと同じように大切なことは植物の大きさです。(前に採取した全長1m近いものを見せながら)これだけの大きなものは迫力がありますが、標本には不都合です。プリントに貼れますか?! よく考えて、ちょうど良い大きさのものを選んでください。適切なものを選ぶことも重要な力です。よく考えて、最適なものを見つけ、ひげ根を採取してください」


上:スズメノカタビラのひげ根について土を落とす生徒

(エ) 単子葉植物と双子葉植物の見分け方
 「単子葉植物を採取する上でのポイントは以上です。それでは、これから単子葉植物を2種類以上採取し、採取できた人から理科室へ移動、標本づくりを始めてください。まず、今説明したノゲイヌムギ、次に違う種類の単子葉植物を1種類以上採取してください。スズメノカタビラは簡単に分かると思いますが、分からない人は先生に確認に来てください。単子葉植物と双子葉植物を見分けるポイントは平行脈です。葉脈を見てください。平行なら単子葉植物です。ただし、細長い葉でも網状脈のものがあります。例えばコレです。(セイタカアワダチソウを根こそぎ引き抜いて)これは将来、黄色い花を咲かせるセイタカアワダチソウといいますが、葉を見てください。細長いけれどもう静脈です。平行ではありません。次に根を見てください。太い1本の根があることがわかりますか。ひげ根ではありません。ということは、単子葉植物ではないということです。先生からの説明は以上です。何か質問はありますか? ・・・(ないことを確認して)解散!」

(2) 単子葉植物の採取
 生徒は思い思いの場所で採取を始めました。短い生徒は5分、遅い生徒は10分で理科に移動しました。

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左:@@の花
右:@@(中央)、その右はノゲイヌムギ

(3) 単子葉植物の花、からだの観察実習
 最後の生徒が正門から移動したことを確認して理科室に戻ると、生徒達はそれぞれ観察実習を始めていました。


上:小穂(しょうすい)を大きくスケッチする生徒


上:小穂を分解して、その中から胚珠(種子のようなもの)を発見した生徒


上:理科便覧に掲載されている『単子葉植物の花のつくり』を参考にしながらまとめる生徒



上:A君がまとめた単子葉植物ノゲイヌムギ(たくさんの花が咲いている)
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上:双眼実態顕微鏡で、花の内部を観察する生徒。この試料は、白い柱頭がみえるように私がセットしたもの。この後、ぞくぞくと時分の力で柱頭を見つける生徒が出てきました。その記録がページの最後にあります。

(4) 単子葉植物のからだのつくりをまとめる
 必ず押さえることは、単子葉植物=平行脈=ひげ根、以上です。数分間で終了する内容です。事前に内容を黒板に書いておき、生徒の実習の様子を見てタイミング良く確認してください。

上:前時に学習した板書『種子植物の分類』を残したまま行った授業における板書
 このクラスでは、単子葉植物の位置付けが非常に明確になったと思います。すなわち、裸子植物よりも発達しているけれど、双子葉植物よりも単純な構造の植物、ということです。種子植物の構造レベルを4段階(合弁花、離便花、単子葉、裸子植物)にしたとき、上から3番目になるわけです。その上で、子葉が1枚、葉脈が平行、根が同じすべて同じ太さ、ということになるわけです。なお、中学1年で教える単子葉植物の特徴はもう1つあります。それは顕微鏡レベルの『維管束がばらばらに配置さえれていること』で、数時間後に学習する予定です。本日はマクロレベルの(巨視的)学習です。

(5) 単子葉植物の花
 発展的な内容で、詳しく観察させる必要はありません。しかし、多くの中学生が新鮮さをもって学習できる内容、感動的な授業はここから始まります。

上:単子葉植物の花(教科書以上の内容)をまとめた板書
 単子葉植物の花は大きく2つに分類できます(写真上)。授業では、それぞれの例を生徒に求めました。チューリップは素直に出てきましたが、チューリップが3の倍数であることを知っている生徒は1人もいませんでした。そこでチューリップの花弁3枚、がく3枚を板書しました。その板書例は、もう1枚上の写真の右端です。


上:芒(のげ)、雄しべのやくを説明するための板書
 2枚上の黒板の一部を消して書いたものです。正しいスケッチの方法を同時に示しました。教科書には載っていませんが、大きく書くことがとても重要です。


上:黒板の中央に実物をセロハンテープで添付した板書例


生徒3人の学習プリント
 いずれも画像をクリックすると拡大します。

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授業を終えて
 現場で花を探すことは、意外に難しいものです。雑草という既成概念をふりはらうことは大変なのでしょう。理科室で観察すれば、難なくわかることでも、下駄箱の裏という小さな自然界で探すことは大変です。逆に、発見した時の歓びは大きく、「先生、これでしょ!」と見せに来る生徒を待つのは楽しいことです。


上:ノゲイヌムギの花を探す生徒

note:科学的な技法としてのスケッチ、道具としてのルーペ
 今回の授業で1番印象的だったのは、1人の生徒がノゲイヌムギの花の内部構造を明らかにしたことです。

 その前に(1)雌しべの柱頭があること、(2)柱頭は白い綿毛のようになっていること、(3)私が見つけた柱頭を見たい人は双眼実態顕微鏡で見えるようにしてあるから一目見ること、以上3点を紹介したのですが、それを聞いた男子生徒が「先生見つけたよ!」と見せくれたのです。それが右の写真です。

 中心にある雌しべ、その周りの雄しべがクリヤーにわかります。「どうやって見つけた?」と質問すると、「シャープの芯で出した」ということです。同じ班の生徒に見せるだけではもったいないと思い、「A君が花を丸見えにしたので、是非一目見てください。先生が準備したものより素晴らしいです!」と紹介すると、クラスのほぼ全員が席を立って見に行きました。すると、クラスのあちこちで、「私も見えた」「僕も見えた」の声が上がりました。感動的な場面に感激してしまいました。

 「セロハンテープで標本にすると潰れてしまい、後から分からなくなるの可能性が高いので、大きくスケッチしておきなさい」と指示しました。感動を記録するためのスケッチ、自分が発見したものを誰が見てもわかるようにするためのスケッチです。それが本当の科学的なスケッチというものでしょう。ノゲイヌムギの花は小さいので、実物と同じ大きさでスケッチできません。できないからこそ、大きくスケッチすることの意味を生徒に教えることができたと思います。

 第2時『観察2 タンポポの花』でスケッチさせたタンポポの1つの花は、小さいように見えて大きなものです。スケッチする大きさを具体的に「全長7cm以上」などと指示しない限り、実物大に書く生徒がほとんどです。しかし、今回は実物大に書くことが不可能な大きさであり、ルーペを本当に使いたくなるサイズです。小さなものを観察するめにルーペを使う、ルーペで満足に見えないから双眼実態顕微鏡を使う、双眼実態顕微鏡では見えない微細な構造を調べたいから顕微鏡を使う、使いたい、という生徒の欲望を引き起こした時間でした。もちろん、タンポポの花でも同じような感動はあったのですが、私自身何度もタンポポの花を観察しているので感動が薄れてしまっただけです。今回の体験はA君に感謝です。サンキュー、みんなに感動をありがとう!

関連ページ
・ 観察5 根と葉脈と子葉 1年(2002年)
・ 観察10 葉脈と根のつくり 1年(1999年)
・ 科学的なスケッチの描き方若手教師のためのワンポイント・レッスン
・ ルーペや顕微鏡の使い方同 上

実践ビジュアル教科書『中学理科の生物学
第1章 生命とは何か 観察の基礎 p.20
第5章 花と植物 植物の分類 p.100
第8章 進化と分類 雑草で調べる葉脈と根の関係 p.144〜p.145

第6時 ←
観察6 ツツジの花のつくり

→ 第8時
観察8 双子葉植物の種子、果実、からだ

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