このページは、Mr. takaによる若手教師のためのワンポイント・レッスンです。

第3章 理科の授業

7 定量実験で科学的思考力を養う

 このページは、主に化学の化学変化の実験で使う方法です。私の授業の基本スタイルは別ページ『私が授業計画するときの姿勢』をご覧ください。

1 自然を調べる実験には、成功も失敗も存在しない
 生徒は「実験が成功したか失敗したか」にこだわりますが、そもそも自然を対象にした実験には成功も失敗もありません。成功したと思う結果は、現在レベルではそれ以上不明、ということです。より詳しく研究すれば、かならず不明になります。真の自然科学は、1つの発見は10の不明を発見することです。発見すればするほど、不明なことが増えるのが自然の世界です。例えば、単純にみえる指示薬の反応は、非常に複雑で中学レベルで説明できるものではありません。石灰水が白く濁った、赤リトマスが青になった、というレベルを成功というなら成功ですが、私は子ども騙しのような実験に感じています。

2 失敗した原因を考察する
 私は「誤差」や「失敗した後の考察」にこだわります。成功したように思うデータは、教科書に載っているので考える力が育ちません。失敗したように思うデータは、何故、教科書のようにならなかったのか、その原因を探る大きな動機になります。失敗は成功のもとであり、新発見は失敗から生まれるものです。生徒の考える力を養うため、失敗する工夫をしたいものです。

3 変化量を比較させ、さらに、対照実験を考えさせる
 石灰水が白くなる、という結果を求めるだけでなく、どれだけの量の気体を通過させたら白くなったか調べます。ぽこぽこぽこ、という泡の数でも良いでしょう。時間が許せば、条件を変えた実験を行って比較させませよう。比較するためには、実験条件を変えると同時に、その他の条件をそろえる必要があります。量を意識させることで、対照実験について考える力が養われます。

4 理論値を求める定量実験にする
 思考力を養うためには、定性実験ではなく、定量実験にすると有効です。例えば、私の授業実践:化学分野『酸化』では、鉄と硫黄の化合は定性実験で「びっくり!」させることが主眼ですが、その後の鉄と銅の化合などは定量実験です。さらに、マグネシウム、水素でも定量させるように心掛けています。

5 理想状態、理論値に近づくための実験上の工夫
 
定量実験は、理想の値にどれだけ近づくことができるかを目標にします。生徒は理想に近づくように様々な工夫をします。どれだけ頑張ってもきないものです。先生は、実験方法を丁寧に説明しますが、やはり実験結果に誤差は生まれます。成功する方法でなく、誤差が少なくなる方法と誤差が出る方法を教えてください。生徒は理想的な結果を求めて工夫します。生徒が扱う実験装置や材料は、誤差の宝庫なので、それを知らせ上で、理想を追求させるようにしましょう。

6 実験が苦手な班、できる班への配慮
 なお、実験が苦手な班は、教科書のレシピ通りに「成功」させて下さい。成功体験は、次の意欲にかわります。一方、できる班は、物質量や条件を変化させて、どのような結果に変わるか予想させて下さい。実験の質が劇的に変化します。オリジナルな実験方法を考えることは最高の楽しみの1つであり、多くの場合、先生の発想より生徒の方が優れています。生徒に負けないように失敗量が減る方法を考え、実験で確かめてみましょう。ちなみに、私の基本スタイル『検証実験』は、手順を完璧の教えてからスタートします。

7 わからなくてもやる、結果を出す
 難しい実験は、理論ではなく方法そのものを教えます。わからなくてもできる、結果を出すことを目標にしてください。スポーツの試合と同じように、まず参加すること、次に結果を出すことです。ドベでも走ることが大切です。ドベは、不参加と隔絶した偉大な結果です。


定量実験の授業実践例
 授業実践例を紹介しようとして調べたのですが、良いものが見つかりませんでした。実践した年に記録していなかったようです。説得力なくて、・・・しょぼん。

1 弾性を使って未知の物体にかかる重力を求める(1年)
 1年物理のフックの法則で、バネや輪ゴムなど弾性の力を測定しやすい物体を使い、未知の物体の質量(正しくは『重さ』)を求めることができます。この実験方法は、私の著書『中学理科の物理学(誠文堂新光社、2011)』p.21〜p.22で紹介しています。

2 地球の重力加速度を求める(3年)
 今年2012年、3年物理で重力加速度9.8m/ssを求めさせました。0.1秒後の落下距離が4.5cmより小さい(摩擦が大きい=誤差が大きい)生徒はやり直し。再度記録テープも配付し、理想的な値(4.9cm)に近づけるための工夫(摩擦0に近づける工夫)をさせました。とりあえず、2004年の記録をリンクさせておきますが、これらは定性実験です。
・ 実験1 自由落下運動(速さ)(3年、2004年)
 実験2 自由落下運動(距離)(3年、2004年)

3 マグネシウムと酸素が化合する時の質量比を求める(2年)
 マグネシウム:酸素=3:2になります。酸化マグネシウムの質量が大きければ大きいほど理想に近い、ということが理解できれば第1段階合格です。とりあえず、定性レベルの実践例をリンクさせておきますが。なお、私の著書『中学理科の化学(誠文堂新光社、2011)』p.50〜p.53でマグネシウムと銅の酸化実験の方法や結果を紹介しています。
・ 実験5  マグネシウムの酸化(2年、2003年)
・ 実験2  マグネシウムの燃焼(2年、2000年)

4 銅と酸素が化合する時の質量比を求める(2年)
 銅:酸素=4:1になります。これを求めるのは大変ですが、マグネシウムより化合する酸素の割り合いが小さいことはわかります。でも、それでは生徒はさっぱりわかりません。4:1という数字はどこから出てきたんだ〜! と叫びます。4:1という割り合いは、実験から求められた実験値なんだ! 実験から出てきた自然の姿なんだ! と、実感することが大切です。なぜなんだ! ではなくて、自然はそうなっているのです。参考までに、定性レベルの実践例を以下に紹介します。
・ 実験4  銅の酸化(2年、2003年)
・ 実験13  銅と酸素が化合する割り合い(2年、2000年)

2003年
2012年5月17日

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