このページは、Mr.Taka 中学校理科の授業記録 3年(2018年度)です

第8時
実習7 物体にはたらく重力  

     2018 5 2(水)、7(月)
     第3学習室

はじめに
 生徒はこれまでの3時間で、だんだん速くなる運動を調べました。加速させる力はいずれも重力で、(1)斜面の角度によって速くなる割合(加速度)が変わること、(2)斜度90度(自由落下)のとき最大の加速度になること、以上2点を学びました。

 本時は、斜面上の物体について、それにはたらく重力を作図によって分解し、物体が滑り落ちる力を求めます。作図は、小学生でもできる簡単なものです。

 なお、2004年度の実践『物体に働く2つの力(平行四辺形を作図して合力を求める)2004年度』は、切り込み方が違います。すなわち、物体が滑り落ちる力を『重力』と『垂直抗力』の合力、として求めました。これに対して、今回は重力を分解した力の1つとして、物体が滑り落ちる力を紹介します。今回と同じ切り込み方のHPは『斜面上の物体に働く重力を分解する2004年度』『物体が斜面上を滑り落ちようとする力2004年度』です。


上: 本時の板書


本時の目標
・力は矢印で表すことができる(復習)
・力の大きさ(N)と矢印の長さは、はじめに決められている(復習)
・重力の大きさは、水平面上でも斜面上でも同じ
・重力は、斜面によって『斜面を押す力』と『斜面を滑り落ちる力』に分解されることを理解し、それらの大きさを作図で求める
・空中では、重力がはたらき続ける(加速し続ける)ことを確認する

準 備

生 徒 教 師
  • 教科書
  • 理科便覧
  • ファイル
  • 三角定規セット
  • 本日の学習プリント(1 /人)
  • 教師用三角定規セット

授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (1分)

 「これまで3時間、斜面を使って加速する物体の運動を調べたり、自由落下で加速する物体の運動を調べてきました。そして、加速する割合の大きさや、斜面の角度によってかわること、斜面がない自由落下のときに最高の加速度になることを勉強してきました。これらがだんだん速くなる原因は、地球による引力、すなわち重力によるものでしが、今日は、これらの作図をします。今日の作図は、実は、一番難しい作図なのですが、みなさんの力なら簡単にできると思います。先生の目標は全員作図できるようになることで、全員に『A』を差し上げたいと思います。早い人は、15分ほどでできてしまうと思うので、友だちに教えてあげてください。ぐっ、と理解が深まると思います」

(2)作図のための確認(5分〜8分)
 「それでは早速、学習プリントをみてください。左端に丸い物体があります。その中心に点を打ってください。そして、その点から真下に、2cmの赤い矢印を書いてください。さてさて、その赤い矢印は何ですか? ・・・そうですね。重力です」

「矢印を書いた人は、その矢印に『重力』と名前を書いてください。そして、『2cm』と書いてください。でも、力の大きさの単位はcmではありませんね。力の単位は何でしたか? ・・・そうですね。ニュートン(N)です。では、何Nですか? ・・・ 2ニュートン、残念! 間違いです。では、2cmなのに2Nではない理由を説明できる人はいますか? ・・・(A君が正解を答える) A君の説明は完璧でしたね。学習プリントにメモしておきましょう。つまり、もし、2cmを2Nとするなら、初めに1cm=1N、と決めておく必要があります。次回のテストでは、問題に必ず1cmが何Nになるのか書いていあるので、十分に注意してください。もし、1cm=2N、と書いてあったなら、2cm=4N、になります」

「ここで、みなさんに矢印の長さの測り方について確認したいと思います。(黒板に、かなり太い矢印(写真下)を書いて) 先生が黒板に書いた矢印は、あまりよくありません。なぜなら、点が大きすぎるし、矢印の先端の太すぎるからです。みなさんがプリントに書いたりテストで答えたりするときは、できるだけ小さな点や先端にしてください。誤差を少なくするためです。


上:太い矢印の始点と終点

  さてさて、ここでみなさんに常識問題を出したいと思います。このように野暮ったい矢印の長さを測るとき、どこからどこまでを測れば良いでしょう。全員に、三択で答えてもらいます。(写真上の矢印にアイウエオカを書いて)アイウから1つ、エオカから1つ選んでください。では、全員に答えてもらいますよ。手をあげるの遅い人や手をきちんとあげない人は不正解とします。では、まず、アイウから1つ選んで、素早く手をあげてもらいます。アからいきますよ! 、だと思う人! はい! 3人ですね。オッケーです。次に、について聞きますよ。、だと思う人! はい! ほぼ全員ですね。最後に、だと思う人! おや、1人もいませんね。ということで、正解は多数決で決まりました。正解はです。これは点ですから、点の中心から測ることになりますね。次に、エオカから1つ選んでください。・・・(後略)

 「もう1つ確認しておきたいことがあります。重力は物体の真ん中から書きますが、物体が水平面や斜面から押し返される力『垂直抗力』は物体と面の接点から書かなければいけません。これらを正確に書くと図が混乱するので、今日の授業では、物体を『面の上にある点』として考えます。そうすると、すべての力が『面の上にある点』から考えることができるので、非常にわかりやすくなります。ということで、丸い物体の横にある『点』から、もう一度同じように長さ2cmの重力、2Nの重力を書いてください。今度は、正確に2cmにしてください。定期テストでの誤差はプラスマイナス1mmです。よろしくお願いします!」


上:水平面上の丸い物体にはたらく重力、質点にはたらく重力

(3)斜面によって、重力を分解する (5分〜30分)
 今日の授業はここがメインですが、できる生徒は5分でできてしまいます。できた生徒は私の点検を受け、作図の正確さや理解度によって『A』をたくさんもらいます。そして、完璧にできた生徒は先生になり、私に代わって個人的に教えるように指示します。席を立ち、自由に移動しながら教えるわけです。学級全体に対して、「A君が合格しましたので、ヘルプが必要な人は呼んでください」とアナウンスしましょう。次の合格者が出たら、同じように宣伝します。積極的に動かない生徒が出てきたら、次のように話をすると良いでしょう。

 「自分ができるようになることと、友だちに教えられるようになることは、次元が違います。自分が本当に理解できていないと、誰かに教えることはできないからです。まず、友だちがつまずいている部分は全員違います。それを見つけることは、あなたの頭が柔軟であれば比較的簡単ですが、頭が柔軟でもきちんと教えて理解させるのは、別次元といえるほど難しいものです。誰に対してもきちんどできる人は、本当に科学的な思考ができる人といえます。教えることが苦手な人は、次のステップに向かって頑張ってください」

重力を、2つの力に分解する手順
(1)斜面上の点から、重力(2cmの矢印)を書く
(2)斜面上の点から、斜面に垂直な線を書く(シャーペンで薄く)
(3)重力の矢印の先端から、斜面と平行な線を書く
(4)重力の矢印の先端から、(2)と平行な線を書く
(5)(1)〜(4)で、重力を対角線とする平行四辺形ができたことを確認する
(6)(1)〜(4)で、重力は(3)と(4)の力に分解できたことを確認する
(7)(3)に『物体が斜面を押す力』と書く
(7)(4)に『物体が斜面を滑り落ちる力』と書く
(8)(3)と(4)の長さを定規で測る
(9)(3)と(4)の長さの誤差がプラスマイナス1mmなら合格!

上:重力を分解した『物体が斜面を押す力』と『物体が斜面を滑り落ちる力

(10)斜面の角度を変えて、(1)〜(9)の作図を行う

上:斜度を変えた4つの斜面で重力を分解する
 ※斜度は左から60度、45度、30度、とてもゆるやか
 ※重力は、すべて2N
 ※物体が斜面を押す力は、左から1N、1.4N、1.7N、1.9N
 ※物体が斜面を滑り落ちる力は、左から1.7N、1.4N、1N、0.5N

 ※重力を分解する方法は、別ページ『斜面上の物体に働く重力を分解する2004年度』も参考にしてください。

生徒の理解度を調べる規準の1つ
 学習プリントは、水平面、斜度60度・45度・30度・とてもゆるやかな斜面、水平面、面なし、の順になっています。はやくできた生徒には、斜面を滑り落ちた後の水平面にある物体についても作図させてください。ノーヒントで書くことができれば優秀です(下図はその正解)。

上:重力2N、物体が斜面を押す力2N、物体が斜面を滑り落ちる力

(4)水平面にある物体の重力の確認(1分〜5分)
 上記(3)の末尾にあるように、斜面を滑り落ちた後の水平面において、物体を滑らせる力はありません。それにも関わらず、物体は運動し続け、水平面がなくなったところで自由落下運動をすることになります。自由落下運動では、横向きに一定速度で移動し続けます。これは慣性の法則によるものですが、本時は簡単に触れるだけにします。後日、1時間かけてみっちり学習することを伝えてください。


上:水平面から落ちて自由落下する物体にはたらく力は、重力だけ
 ※物体は右方向へ動いているように見えるが、右方向への力ははたらいていない

 本時は、重力の大きさがかわないことを確認してください。

(5)水平面がなくなり自由落下する物体の重力の確認(1分)
 (4)に連続して、水平面がなくなり自由落下する物体にはたらく重力についても確認してください。重力は水平面上でも斜面でも面がなくても同じようにはたらきます。

ワンポイント:垂直抗力の扱い方
 このタイミングで、水平面や斜面があると、重力によって面と垂直な方向に垂直抗力が発生することを再確認することも可能です。

 ただし、深追いは禁物です。

 垂直抗力は1年生で学習済みですが、簡単ではありません。今回はさらっと流してください。今年度の授業では3時間後に、10分以上かけて復習します。また、垂直抗力はこれから学習する『作用・反作用』の代表例としても取り上げます。

(6)本時のまとめ (3分)
 作図ができるようになった生徒にとって、本時のまとめはとても簡単です。


上:本時のまとめ

(7)本時の感想、発見、考察 (5分)
 簡単に作図できた生徒もできなかった生徒も、それぞれの発見や学びを楽しむことができたと思うので、自由に書かせてください。

===本時の板書===


上:A組の板書


上:B組の板書


上:C組の板書


授業を終えて
 全員作図できるようになることが目標ですが、ほぼ達成できたと思います。ポイントは先生が教えないようにすことです。できる生徒にとっては簡単にできてしまうことなので、できる生徒を先生にしてください。子どもたちどうしで学びあい高め合っていきます。そのような環境をつくることが先生の仕事です。

関連ページ
力を矢印で表わす1年(1年、1999年度)
力を矢印で表わす1年(1年、2002年度)
実験12 力を矢印で表す(1年、2012年度)
物体に働く2つの力(平行四辺形を作図して合力を求める)2004年度
斜面上の物体に働く重力を分解する2004年度
物体が斜面上を滑り落ちようとする力2004年度

実践ビジュアル教科書『中学理科の物理学

第2章 静かな力のつり合い   力を矢印で表す p.18
 垂直抗力 p.19
 輪ゴムで調べる分力、合力 p.30
第3章
ニュートンの運動の3法則
 台車にはたらくいろいろな力 p.59
 第3法則『作用反作用の法則』 p.60

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実験6 自由落下する物体の
速さの変化量

→ 第9時
実験8 力の合成

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