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第23時
実習23 乾燥イワシの解剖2017 6 28(水)、29(木)
普通教室はじめに
イワシの解剖はここ10年、毎年のようにやっています。私は2学年掛け持ちが多く、かなりの確率でイワシの解剖をしているのです。この解剖実習は教科書に掲載されていませんが、私は標準にすべきものの1つだと思います。それは、動物のからだのつくりとはたらきの総復習にふさわしいものです。手軽にできるだけでなく、たくさんの発見と喜びがあります。以下はこの解剖で観察できるものです。
- ガラス体(硬くて白い球)
- 網 膜 (真っ黒、光を受け取るから)
- 視神経 (網膜から出ているしっかりした糸のよう)
- 脳 (資料集にある形と同じで、ビックリ)
- 脊 髄 (せきずい、中枢神経)
- 背 骨 (せぼね、脊椎、セキツイ)
- 血 管 (背骨に並行してある)
- 筋 肉 (食べると美味しいよ!)
- 鰭 (胸ビレ(前脚)2、尻ビレ(後脚)2、背ビレ1、腹ビレ1、尾ビレ1)
- 鱗 (うろこ)
- 口 (その中に、白くて大きな濾過器『さいは』がある)
- 胃 (食べ物のプラクトンが入っている)
- 腸 (消化吸収中のものが入っている)
- 肛門 (尻ビレの間にあり、ここから前に内臓がある。総排出口そうはいしゅつこう)
- 心臓 (ころっとした淡いオレンジ色)
- 肝臓 (レバー、暗い茶色)
その他、以下のものが印象的に観察できます。
- 耳石 (平衡感覚をとるためのもの)
- さいは (プランクトンを濾し取るためのもの)
- 生殖器官(卵巣、または、精巣。3年で学習)
食べられないなら、イカの解剖実習はやめよう!
私は、中学科学完全実践教科書『生物学(2007年)』『中学理科の生物学(2011年)』で<解剖実習をするならイカ!>と記述しました。HPでは『イカの解剖(消化器官)2年(2000年)』で<解剖実習を計画しているなら烏賊しかない、と断言できます>と述べました。
上:新鮮なスルメイカをハサミと手で解剖する
上:各部の名称は『中学理科の生物学(2011年)』にあります。それが原因かどうかは不明ですが、それ以降の教科書改訂で、全国的にイカの解剖が行われるようになりました。私はこれについて深く反省しています。理由はイカの通りです。
(1)まず、私は生理的に解剖を受けつけない
※先天的なもので、がんばっても慣れない(食事できなくなる)
(2)ナマモノ解剖が絶対命令なら、消去法で『イカ』が候補の1つになる
(3)イカの長所は、簡単に大きな内臓がみられる
(4)そして、解剖後に美味しく食べられる
(5)イカ焼き、イカの塩辛はすばらしく美味
※つくりたての塩辛は中学生に驚くほど好評で、食べた本人しかわらない!
(6)命に感謝し、生命尊重の心を育てられる
上:ガスバーナーでイカ焼き
上:ビーカーで肝と塩を混ぜるしかし、最近の教育をとりまく環境はダメです。衛生面、食の安全の理由からイカを食べられません。解剖後に破棄、です。そこに生命尊重はありません。
待っているのは大変な片付け作業だけです。理科室に残るイカ臭さは経験した人にしかわらないでしょう。どれだけ注意深く実習を行っても、誰かが気づかないままに一滴のイカ汁を床に落とし、誰かが知らぬ間にスリッパで踏んで歩きます。中学生の経験値と注意深さのレベルは、それでも高いほうです。翌日、鼻が曲がる悪臭をみんなで経験することも悪くはありませんが、私にとっては悪夢です。何日どれだけ雑巾掛けしたことか!
大変な作業に似合うだけの価値、すなわち、学習のために切り刻んだ命に感謝し、みんなで美味しくいただく、そうした最高の教育の1つができるなら本望です。労は厭いません(うぅ〜ん、本当に大変だけれど!!)。将来、遠い未来でも良いです。腹のすわった人が管理・監督・指導の地位に就くことを願っています。
イカした授業をしたいです。
今回、乾燥イワシの解剖を行いますが、そこでは筋肉や骨を舌で確かめる実験も行います。
(これも全国で食べられなくなるようなら、もう勝手にイワシときたいレベルです)
上: イワシの頭部(さいは、鰓、網膜、耳石などが観察できる)
クリックすると拡大します
本時の目標
・自宅からつまようじを用意する
・これまでに学習した動物のからだのつくりやはたらきの総復習をする
・イワシを解剖し、各部を採取・標本にする
・人が殺した命に感謝して食する、生命尊重の心と態度を育てる準 備
生 徒 教 師
- 教科書
- 理科便覧
- ファイル
- つまようじ
- テッシュペーパー
- 本日の学習プリント(1 /人)
- 乾燥イワシ(1.5 /人)
- ルーペ(1/人)
- セロハンテープ(4/クラス)
授業の流れ
(1)本時の授業内容の紹介 (1分)(2)観察1:イワシの外観 (8分〜10分)
イワシの外観、5つのヒレ、そして、内臓を紹介します。
上:Kさんの学習プリント(クリックすると拡大します)
指導手順
1)イワシの外観を板書する
※ 生徒用学習プリントには印刷しておく。印刷しておかないと、外観全体が小さくなり、記入できなくなる。
2)7枚のヒレを確認する
「イワシに限らず、魚にはヒレが7枚あります。では、それらの名前を確認していきましょう。まず、(背びれ書いて)これは?・・・そうですね。背びれです。(胸びれ書いて)これは?・・・その通り、胸びれですが、これは2つあり、陸上へ上がろうとして魚類はこれつかって、(胸びれを動かして歩く真似をしながら)こんな風に歩こうとしたので、だんだん?・・・その通り。前脚になりました。腕や手に進化していきました。次に、(腹びれ書いて)これは?・・・おや、声が聞こえませんが、これは腹びれです。そして、(尻びれ書いて)これは?・・・尻びれです。この尻びれは2枚ありますが、これらは進化すると?・・・そうですね。後脚になります。それよりも覚えておいて欲しいことは、2枚の尻びれの間にあるものです。何か知っていますか?・・・(生徒はぽかーんとしているので)みなさんの体も同じ構造になっていますよ。・・・2本の脚の間にあるものは?・・・口から食べたものが出てくる部分です。となると、・・・肛門ですね。実は、魚類は、大便と小便と卵子と精子は同じ部分、同じ穴(孔)から出てくるので、正確には総排出口(そうはいしゅつこう)といいます。魚をさばくときは、ここから包丁を入れます。すると、そこから前にある内臓部分を簡単に取り出すことができます。知らなかった人は、しっかり覚えておいてください。そして、最後に(尾びれ書いて)これは?・・・尾びれですね」
3)イワシを配布方法を知らせる
つまようじを持参した人から1匹ずつ
4)初めに『頭部』を観察することを知らせる
5)頭部には、口、目(水晶体、網膜)、視神経、脳、耳石、さいはなど、たくさんの見所があるので、勝手に進めることなく、先生の指示にしたがって、1つずつ観察することを知らせる
(3)イワシの配布 (3分)
自宅からつまようじを持参した生徒から先に配布します。配布方法は、教卓の上に白紙を置き、そこにイワシ数10匹を並べるだけです。生徒は、その中から好きなものを1つだけ選んでいくことができます。選ぶときのポイントは以下の通りです。
上:イワシを選ぶ子どもたち
イワシの選び方
1)小さなものより、大きなもの
2)ヒレは、欠けていても気にしない
3)一部分が欠けていても、頭部や腹部が大きいものがよい
4)極端な場合、2つに折れていてもよい
※解剖すれば、いずれバラバラになります
5)触れたものは交換できない
※どうしても交換したい場合は、全員配布終了後に!
次に、つまようじを持ってこなかった生徒が選びます。
(4)実習:イワシの解剖 (30分〜35分)
イワシの頭部と腹部を分けます。分け方は、それぞれを左手と右手で持ち、少しずつ力を加えながら自然に割れるままにしがい、無理な力をかけないようにすることです。簡単に分かれるものもあれば、しっかりくっついているものもあります。なかなか分かれない場合は、持ち方を変え、力の加え方を変えます。引っ張ってもダメなら押してみたり、横にずらしてみたりします。だんだんゆるくなってくるはずです。
上:左は頭部(内臓付き)、右上は腹部(背骨と筋肉)
クリックすると拡大しますうまく頭部と腹部に分かれたら、それをじっくりみてください。ものによって、頭部に心臓や胃がついているものがあります。何が心臓で、どれが胃であるかは、後で紹介します。 はじめに頭部を観察します。
観察1:頭部
頭部が取れたら、今度はそれを左右に分けます。分け方は、次の通りです。
- 頭頂部に、爪で割れ目を入れる
- 割れ目の左側を左手、右側を右手で持つ
- 割れ目から、左右に分けるようにする
- ゆっくり分けると、左右どちらかに脳(下図)が付着している
- 脳をみつけたら、つまようじで取り出す
上:目、脳、耳石(大きさの比率は等しい、色もほぼ正解)
(クリックすると拡大します)
- 白く硬い球は、ガラス体(無色透明ゼリー状のものが変性)
- ポイントはその後ろにある視神経
- 視神経を切らないように取る
- 真っ黒に見える膜は、光を感じる細胞の集まり(網膜)
上:Kさんの学習プリント(クリックすると拡大します)
- 耳石は、目のすぐ近くにある米粒の形をしたもの(写真下)
- 乳白色で、米粒より薄い
上:耳石(色は違うが、形は標準)
観察2:鰓(えら)、さいは
鰓とさいはは、いずれも頭部にあります。口から連続しているので簡単にわかります。鰓は、水中の酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出する器官です(外呼吸)。ガス交換の効率をよくするため、『無数のひだ』が並んでいるように見えます。さらに、血液と直接触れ合うための毛細血管が走っているので、他のどの部分よりも赤く見えます。
上:Kさんの学習プリントさいはは、水中のプラントンを食べるためのものです。ろ過装置のようなもので、色は白、歯のような素材からできています。
口から入った水は、さいはを通過します。通過できなかったものは食道、胃へと移動します。ゴミが入った場合は口からぷっ、と吐き出します。
上:上の一部拡大(クリックすると拡大します)鰓とさいはの位置関係は、上図の通りです。口から入った水の流れをイメージしてください。口→ さいは(ろ過装置)→ 鰓(呼吸器)、の順になります。
以上で、頭部の解剖&観察は終了です。
次から、腹部を調べます。
観察3:脊椎(背骨)、脊髄(中枢神経)、太い血管
腹部ということになっていますが、まず、背骨を中心とする中枢神経や太い血管を取り出します。左手で左側、右手で右側を持ち、ゆっくり左右にひらきます。うまくいくと、ぱかっと綺麗に2つに分かれます(写真下2枚)。
上:両手でもって、2つに分ける
上:2つに分けた腹部(左側に背骨セット、右側に内臓がついている)
クリックすると拡大します左右どちらかに、背骨がついているので、それをつまようじで取り出します(下図)。
上:つまようじで慎重に解剖する
上:背骨、脊髄、太い血管(クリックすると拡大します)背骨(せきつい、背骨)は折れないにように、脊髄(せきずい、中枢神経)は簡単に切れるので丁寧な作業をこころがけてください。太い血管は、背骨の腹側(脊髄の反対側)に付着しています。
残った部分は筋肉です。タンパク質です。美味しい、と言いながら食べる部分です。舌を使って確かめてみてください。
上:Kさんの学習プリント観察4:内臓(心臓。胃、腸。肝臓。生殖器官)
内臓は柔らかいものが多く、イワシの状態(乾燥状況を含む)によって見えたり見えなかったり大きく違います。心臓は確実に見えるはです。オレンジ色の硬いかたまりです。いかにも心臓、血液を押し出し続けるしっかりした筋肉、タンパク質からできていることを実感できるものです(写真下)。 その位置は、頭部に近く、場合によっては頭部の中に入り込んでいることもあります。注意深く探してください。
上:心臓と腸
クリックすると拡大します心臓の近くに赤く黒い血のかたまり(ちょっと細長い)があったら、それが肝臓(レバー)です。乾燥状態が悪いと、全くわからない場合もあります。血糊(ちのり)のように心臓にひっつき、心臓を隠している場合もあります。写真上では肝臓がつぶれ、明確な形を失っているようです。
上:肝臓に包まれたようになっている心臓を見つけたぞ!
クリックすると拡大します腸は白くなっている場合がほとんどです。この中には消化中の物質が入っています(2枚上の写真)。それをたどっていくと『胃』があります。ただし、明確に分かる場合は少ないようです。また、腸を逆方向にたどっていくと、総排出口になります。
イワシの状態が悪く、観察できなかったり十分に採取できなかった生徒には、イワシを追加します。この場合、頭部と腹部がばらばらになっていても構いません。乾燥状態によって、頭部が開いていたり心臓が見えていたりするイワシもあります。きちんと見分けられる生徒なら、そのようなものを持っていくでしょう。
また、一通り解剖を終え、時間があまっている生徒にもイワシを追加します。イワシの個体差を調べたり、共通点を発見したりすることができます。
(5)本時の感想、考察 (5分)
上:Kさんの学習プリント(クリックすると拡大します)
授業を終えて
楽しい1時間でした! 家庭でもできるものなので、ぜひ、家族そろって実習してほしいものです。子どもが先生になったなら、それは素敵なことですね。note:生徒と先生の会話
「先生、食べてもいいですか」
「いいけど、全部食べると解剖できた証拠がなくなるから0点になっちゃうよ!」
上:どれだけ食べる気だ! 最後だからいいけれど・・・それより、部分による味の違いを調べてほしいなあ。骨と筋肉は分かると思うけれど、肝臓の味、心臓の味も確かめて覚えてほしい。鰓は不味い、と言い切れると思いますが、一度試してください。先生の舌には合いません。このページを読まれたみなさんも、ぜひどうぞ!
上:実習に使用したにぼし(クリックすると裏面)
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イカの解剖(消化器官)2年(2000年)実践ビジュアル教科書『中学理科の生物学』
第3章 動物が動くしくみ 乾燥イワシの解剖 p.51
→ 第24時
いろいろな動物の各部の名称
(バッタ、エビ、イカ)