このページは、中学校理科の『単元別の進め方』です。


生物学
単元3 細胞分裂と遺伝

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 いわゆるミクロの世界を、あるいは、ミクロ的な視点から生物を学習するのではない。
生物の基本単位ともいえる細胞から、動植物について見つめなおす。後半は、自己複製と子孫の残し方、遺伝について調べるが、これは分子レベル(DNA)の問題になる。それは生命と物質との境界線であり、ここで初めて自己複製する化学反応、ウィルスについて考察することが可能になる。

 100種類を超える生物のゲノム解明によって、生物学は、その全貌が大きく変化しようとしている。

遺伝子(DNA)について論じることは、生命とは何かという生物学の根本的な命題に迫ることになる。その意味において、地球生物の源である水中で生活するプランクトンを本単元の最後に観察することは意義深い。子供達に生命に対するロマンと探究心を持たせることだろう。

表1 生物学的階層
参考資料 石川統(訳者代表)、ケイン生物学10ページ、株式会社東京化学同人、2004年

分 子 DNA
細 胞 生命の基本単位
組 織 (胃壁、胃液を出す組織、胃を動かす筋組織)特殊化した細胞群
器 官 (胃、すい臓、小腸)
器官系 (消化器系)
個 体 単一の生命
個体群
(集団)
交雑可能な種を形成する(ある畑にすむ野ネズミの個体群、ブルーベリー)
群 集 ある地域に限定した複数の生物の集団(ある森に暮らす昆虫群集)
生態系 群集と群集のいる物理学的環境を併せたもの
バイオーム
生物圏

1 細胞とは何か?

外界と区別するもの
生物を構成する最小単位(しかし、現代科学は生物や生命ついて明確な定義ができていない)
単細胞生物と多細胞生物(あるいはその中間に位置するもの)
→ ここで浮遊生物(プランクトン)を扱うのは不適切である。顕微鏡の扱い方の復習か、いろいろな形のものが動き回って楽しいなあ、という興味関心を高めるだけの内容になってしまう。

細胞レベルでの代謝はどうする?
→ 2年生の動物で細胞について簡単に触れることは可能だろう
→ 細胞の呼吸(代謝)について1時間授業を行う
→ 生きているとはどういうことか

細胞の構造だけで終了?
細胞レベルのでの殖え方としての遺伝子、DNA

2 細胞の種類(構造

細胞の構成単位を調べる
動物細胞と植物細胞

3 細胞分裂(細胞のふえ方)

1 体細胞分裂
2 減数分裂
→ 個体としての生物(動植物)のふえ方は学習ずみ
→ 無性生殖についても1、2年で触れる程度で十分であろう

4 生物のふえ方(生殖器官、生活史、個体から個体へ、細胞レベルではない

動物のふえ方 学習ずみ
植物のふえ方 学習ずみ
無性生殖

5 遺伝のしくみ(自己複製としての遺伝)

ABO式血液型
ヒトの染色体と減数分裂
(生殖細胞)

疑 問
何故、自分と同じものを複製しようとするのか。何故、自分を維持しようとするのか。
細胞分裂と遺伝の違いは何か?

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授業の展開例
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17時間完了

第1章 細胞、ゲノム(6時間)

第2章 体細胞分裂(5時間)

第3章 減数分裂と遺伝(6時間)

 次

第1章
細胞、核

第2章
体細胞分裂

第3章
減数分裂と遺伝
動物の細胞(1)
植物の細胞(1)
いろいろな細胞(2)
核とDNAとゲノム(2)
合計 6時間
体細胞分裂(2)
動物の発生(卵割)(2)
植物の受精と品種改良(1)

合計 5時間
メンデルの法則(3)
ヒトの減数分裂(1)
無性生殖(2)

合計 6時間

図1 単元3細胞分裂、遺伝の章立て

第1章 細 胞
第1節 動物の細胞

第1時 人のほおの内側の細胞3年(2004年)
 ほおの内側を軽くこすって採取した自分の細胞を自分の目で観察します。これは生徒にとって大きな衝撃です。自分の身体が小さな細胞の集まりであるこを目の当たりにするからです。この細胞は操作を始めてから10分以内に発見できるので、是非とも自分の細胞を観察させて下さい。写真や他人の細胞では意味がありません。
<授業内容>
1 細胞とは何か
2 動物細胞のつくり
3 観察:自分のほおの内側の細胞
<準備> 光学顕微鏡、照明装置、顕微鏡テレビ投映装置、プレパラートセット、酢酸オルセイン
<他の年度の実践例>
観察1 動・植物の細胞
3年(2001年)

発展学習 いろいろな動物細胞3年(2004年)
 事前指導→「次の時間は動物細胞を観察するので、冷蔵庫にある魚、鶏、豚、牛などの肉を持って来て下さい。内臓や脳の細胞を観たい人は、小さな魚を丸ごと持ってくると良いでしょう。心臓、腎臓、肝臓(レバー)、血管、目玉、脳味噌などの細胞が観察できます。だだし、顕微鏡で観察するのですから、ほんの少しにして下さい。腐ると酷い臭いになりますから。」 あるいは、単元1植物学入門や単元2人体・動物の学習内容を細胞レベルの観察から捉え直す時間にしても良いでしょう。
<準備> 同上、生徒が持参したいろいろな試料

第1章 第2節 植物の細胞

第2時 いろいろな植物細胞3年(2004年)
 台所にあるニンジン、レタス、ピーマン、キャベツなどの野菜、ミカン、バナナ、レモン、パイナップル、メロンなどの果物を持参するように指示して下さい。これらの植物も、ヒトと同じように小さな細胞からできていますが、動物と植物の細胞を比較すると、葉緑体や細胞壁などの違いがあります。
<授業内容>
1 観察:いろいろな植物細胞
2 動物細胞と植物細胞のつくり
<準備> 同上、生徒が持参したいろいろな植物
<その他の実践例>
観察8 葉、気孔(顕微鏡)
1年(1999年)
観察3 オオカナダモの細胞3年(2004年)
実験1.1 オオカナダモの葉緑体(光合成)1年(2002年)
観察9葉緑体(オオカナダモ)1年(1999年)

第1章 第3節 いろいろな細胞

第3時 いろいろな細胞3年(2001年)
 動植物に限らず、いろいろな生物試料を生徒に持参させて下さい。始業チャイム前から、理科室は準備で大にぎわいになっていることでしょう。また、第4時、発展学習で紹介したように微生物や菌類・細菌類を観察させても構いません。ただし、すべての細胞に共通して核が存在することを押さえて下さい。
<他の年度の実践例>
観察2.2 いろいろな細胞3年(2001年)
参考資料:いろいろな動植物細胞3年(2004年)

ナガネギ

豚 肉


ユリの気孔

第4時 微生物1年(2002年)
 
微生物(肉眼で見ることができないほど小さい生物)やプランクトン(水中を浮遊している生物)を観察します。そのほとんどは単細胞生物ですが、多細胞生物も含まれます。つまり、厳密に分類することが難しい生物が多いので、実際に観察できた生物だけを、できる範囲で分類すれば十分でしょう。生物の分類方法については、別ページ生物の分類を御覧下さい。
<準備> 同上、生徒が持参したいろいろな試料
<他の年度の実践例>水中の微生物
1年(1999年)

発展学習 かび(菌類)の観察3年(2001年)
 
第4時に続いて菌類・細菌類を観察しても良いでしょう。ただし、ここでは細胞内の核を観察できなければ意味がないので、取扱いに注意して下さい。次の、DNAおよびゲノムに結びつくように配慮して下さい。
<準備> 同上、生徒が持参したいろいろな試料

第1章 第4節 核とDNA

第5、6時 核とDNAとゲノム
 本時に関する授業記録はありません。生徒の声がないカリキュラム案を提案することは私の意に反するのですが、これからの社会人の常識としてDNAとヒトゲノムは外すことはできません。現在分かっていることの中から中学生に学習可能な内容を選び、資料として掲載します。指導要領が改正されたのち、先生と生徒のレポートによって基礎となる記録が残されることを期待します。→ 
染色体を数える

第2章 体細胞分裂
第1節 体細胞分裂

第7時 細胞分裂(市販プレパラートの観察)3年(2004年)
 
市販されているタマネギ、ユリのプレパラートを利用し、2時間連続して細胞分裂を学習した。第1時(本時)は、黒板を使って観察ポイントを詳しく説明し、第2時は初めから染色体の観察・スケッチを行った。なお、市販のプレパラートではなく自分で栽培した植物を使った細胞分裂については、第8時の次に掲載した発展学習を参考にして下さい。
<準 備> 同上、細胞分裂のプレパラート(市販)
<授業の流れ>
1 細胞分裂4つの時期(判断基準は染色体)
2 動物と植物の共通点と相違点
3 細胞分裂をする部位
4 プレパラート(細胞分裂)の観察
<他の年度の実践例>
細胞分裂
3年(2001年)

第8時 細胞分裂23年(2004年)
 前時に引き続き、細胞分裂の観察。『前期』『中期』『後期』『終期』の典型的な細胞を観察できた生徒は、それらの中間を見つけたり、染色体のさまざな様子をスケッチする。
<準 備>  同上、細胞分裂のプレパラート(市販)

発展学習 細胞分裂3年(2001年)
 また、タマネギやそら豆などを家庭で水栽培し、発根したものを観察しましたが、上手く操作できませんでした。その他の材料を使った実践例が、私のページの他に多数紹介されていますので、検索して見て下さい。
<準 備> 同上、細胞分裂のプレパラート(市販)
<他の年度の実践例>
観察3.2 細胞分裂
3年(2001年)
観察3細胞分裂3年(1998年)

第2章 第2節 動物の発生(卵割)

第9時 動物のふえ方3年(2001年)
 私の経験上、ヒト(ほ乳類)の生殖器官は保健体育や家庭科で詳細な授業を展開される先生が多いので、理科では雌雄の核の合体(受精)に焦点を当てて下さい。先の述べたように、DNAやゲノムといった用語を使って学習しなければ理科としての特質を失います。また、無性生殖を紹介することは、ゲノムの理解に役立つでしょう。
<授業内容>
1 受精とは
2 有性生殖と無性生殖
<他の年度の実践例>動物のふえ方
3年(1998年)

第10時 卵 割3年(2001年)
 
これまでに学習した通常の細胞分裂と比較しながら(表1)、受精卵が胚になるまでの細胞分裂(発生、卵割)を学習します。この発生は動物に特有なもので、植物にはありません。材料としてアフリカツメガエルを取り上げましたが、さらに中学生にとって有効な教材があると思います。
<授業内容>
1 卵割とは
2 スケッチ(受精からカエルまで)
<準備> アフリカツメガエル
<他の年度の実践例> 観察7 アフメリツメガエルの一生
3年(2004年)、観察1アフリカツメガエル2年(2000年)、胚の発生3年(2001年)

表1 細胞分裂の種類

名 称 体細胞分裂(学習済み) 卵 割(本時) 減数分裂(次時)
細胞の数

ふえる
1つが4つになる

染色体の数

変わらない

半減する
細胞の大きさ 変わらない 小さくなる 変わらない?
細胞の形 変わらない いろいろな形(機能)に分化する 大きく変化する(精子および卵子

第2章 第3節 植物の受精と品種改良

第11時 植物の受精(柱頭についた花粉)3年(2004年)
 前節の動物の発生と比較しながら、植物の受精から種子ができるまでを学習します。なお、花や種子にいては単元植物学入門で学習しているいるので、本時は花粉を生殖細胞として捉え直すことに重点をおきます。
<授業内容>
1 花粉の精核
2 観察:花粉管
<準備> 花粉(生徒)、顕微鏡、照明装置、顕微鏡テレビ投影装置
<他の年度の実践例>
観察4『花粉管』
3年(1998年)
観察4 種子植物の受精(花粉)3年(2001年)

第3章 減数分裂と遺伝
第1節 メンデルの法則

第12時 ABO式血液型3年(2004年)
 ヒトの血液型は、形質と遺伝子型について理解を深める絶好の教材です。「本当に私は両親の子どもなのだろうか?」という深刻な問題から、「血液型と性格は関係あるの?」という非科学的な脱線まで本気で盛り上がります。話を膨らませて、他の形質(容姿や性質)につなげれば理解が深まること間違いありません。学習指導要領から外れても是非とも指導したい逸品です。 
<準備> 祖父母や親族の血液型(生徒)注意:複雑な家庭環境にある子どももいるので事前によく調べてから授業を展開して下さい。また、メンデルの法則に従わない例外もあります。
<授業の流れ>
1 ヒトの血液型について
2 形質(表面にあらわれる形や性質)
3 形質と遺伝子型
4 どんな子どもができるか


第13、14時 メンデルの法則3年(2001年)
 エンドウ豆を使ってメンデルの法則を発見した遺伝学者メンデルの逸話は感動的です。必ず全員で音読しましょう。ただし、実験にまつわる苦労を生徒がイメージするのは難しいので、まず先生が自身がメンデルの気持ちになって感動して下さい。そして、たくさん出てくる重要単語を順序よく説明して下さい。
<重要単語>形質、遺伝子(DNA)、
対立遺伝子、優性の法則、優性と劣性、表現型と遺伝子型
<授業の流れ>
<他の年度の実践例>
遺 伝
3年(1998年)

第3章 第2節 ヒトの減数分裂

第15時 ヒトの染色体と減数分裂3年(2004年)
 生物の種類によって染色体数や染色体上にある遺伝子数に違いがあることは簡単に理解できるので、ここはヒトに限定して学習すれば良いでしょう。なお、減数分裂中における染色体数や組み換えについては触れない方がよいと思います。分裂後に染色体数が半分になっていること、組み換えによって2つとして同じ精子や卵子ができないことだけを伝えれは十分です。
<授業内容>
1 生物の種類によって染色体の数が決まっている
2 親からもらう染色体の数
3 生殖器官(精巣、卵巣)で生殖細胞(精子、卵子)をつくる
5 減数分裂の過程
6 ヒトの男女の違いができる理由
7 性染色体異常
<他の年度の実践例>
観察8 減数分裂
3年(2001年)

第3章 第3節 無性生殖

第16時 観察10 有性生殖と無性生殖3年(2004年)
 生命の連続性に焦点を当てると、私たちの身体は性細胞(精子、卵子)を作るための装置で、生殖細胞になる。また、クローン人間の原理、つまり、筋肉・脳・骨など分化した細胞が、全能性を持った細胞(受精卵など)に戻ることをイメージさせることも面白い。
<授業内容>
1 生殖とは
2 無性生殖と有性生殖
3 無性生殖の例
3 ゾウリムシの生殖

第17時 動植物の品種改良3年(今後の実践を掲載する予定です)
 植物の無性生殖、植物(動物)の品種改良、遺伝子組み換え食品について学習する。豊富な教材が考えられるけれど、遺伝子のレベルの問題であること忘れなければ何でも良い。また、植物の品種改良の実験は遺伝学者メンデルの実験とも通じる。
以上です!!

note
 ゲノムは、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)を合成して作られた言葉です。ゲノムの意味は、ある生物を作るために必要なひとそろいの情報(遺伝子、染色体、DNA)です。ヒトの場合は、22本の常染色体と2種類の性染色体(X染色体とY染色体)を合わせてヒトゲノムになります。このヒトゲノムは、2003年4月、分子レベル(DNAの塩基配列)で解明され、その結果、3万2千の遺伝子があることが分かりました。※参考文献:清水信義、ゲノムを極める、講談社、2004年

 さて、ほどんどの生物(細胞)は2倍体といって、2そろいのゲノムを持っています。ヒトも例外ではありません。何故2そろい持っているのか?、その理由は簡単です。両親から1そろいずつもらったからです。子どもは父親と母親の両方から情報をもらったので、それぞれの特徴をもっているわけですね。

 では、2倍体の子どもが2そろいのゲノムを全て利用しているかというと、そうではありません。どちらか一方を選択して、どちらか一方は使わないままになっているようです。となると、理論的には1そろいのゲノムで完全な人間ができることになりますが、実際はすぐに死んでしまいます。また、3そろいのゲノムのまま成長する場合もありますが、何らかの異常(病気)が生じます。

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