このページは、Mr.Taka による中学校理科の授業記録:天文学 です。

天文学

はじめに
 あなたの住んでいるところで星は見えますか? 2005年現在、名古屋市内はさっぱりと見えなくなりました。月も簡単には見えません。たまにビルの隙間や車のフロントガラス越しに見つけると、その美しさと大きさに息を飲みます。また、宇宙で平均的な大きさを持っている太陽に変化はないようですが、太陽から神聖なるものを感じることはなく、むしろ有害な紫外線を避けて日陰を歩く人が多くなりました。このように考えると、星、月、太陽など天文学の学習は、その時代を終えてしまったのかも知れません。

 ここで、私の体験談をしましょう。1997年、アフリカの最高峰キリマンジェロに挑戦しました。最終アタックの日は、早々に夕食をすませてからテントで仮眠をとりました。23時35分、満月に見守られながら登頂開始。高山病と寒さに戦いながら、一切の植物が途絶えた分厚い岩盤の急斜面にへばりついている私にとって、一面を明るく照らしてくれる月明かりは上質な水銀灯の明かりを与えてくれただけでなく、慈愛に満ちた百済観音のように感じました。月明かりによって星空を楽しむことはできませんでしたが、そのお陰で登頂できたことを幻の奇跡のように感じます。

 さて、中学校理科で天文学に割り当てられている時間はとても短いものです。月や星が私達の生活に必要無いものになってしまったことが原因なんでしょうか。中学3年間で約20時間しかありません。それでも、私は中学生にとって絶対必要な学習だと思います。この学習で必要なキーワードは、神秘、ロマン、自然との生活、占い、美、敬虔な気持ち、畏敬の念です。天文学は人類にとってもっとも古い歴史をもつ自然科学の1分野であることは間違いないのです。限られた時間や環境にあっても、全力で取り組まねばなりません。

目 次
 物理学分野は次の3つの方法で分類・整理されています。

1 Taka先生のカリキュラム案
・ いろいろな内容が系統的にまとめられているので、何かを調べたい時に使えるページです。
・ 内容の系統性は、子どもとの実践から再編集したものなので現実的でありながら理想に近いです。
・ 中学校現場の先生にとって必読の生物学分野、3年間のカリキュラム教育カリキュラムです。
2 学年・年度別の授業記録
・ 学習指導要領にもとづいて行われた1999年(1年)と2004年(3年)の授業実践記録です。
・ 理想的なカリキュラムではありませんが、初めから順に読み進めることで、さまざまな出来事(天文現象、定期テスト、学校行事など)を解決していく様子が分かります。
3 テーマ別の授業記録
・ 学習内容によって授業記録を分類・整理したものです。
・ その配列は、1のに準じています。


1 Taka先生のカリキュラム案
 初等天文学のカリキュラムはいくつもの案が考えられます。あなたの学校がおかれた自然環境、指導しようとする季節、今年これから起きる天文現象を考えて決定して下さい。表1には、学習環境に合わせた3つのカリキュラム案を示しました。ただし、私の授業記録とリンクしているのは、名古屋市内のように星が見えない環境だけです。近くに大きな漁港があり、季節や潮の満ち引きと深い関わりをもつ環境、あるいは、山間部で星が良く見える理想的な環境にある場合は、表1の項目を参考にしてカリキュラムを考えて下さい。

表1 学習環境に合わせた3つのカリキュラム案

星が見えない環境
太陽の観測から始めます

海とかかわりが深い生活環境
月の観測から始めます

星が良く見える理想的な環境
星の観測から始めます
第1章 太陽、星の動き
第1節 太陽とは
第2節 太陽の日周運動
第3節 星の日周運動
第4節 星の年周運動
第2章 宇宙からみた地球
第1節 黄道12星座
第2節 東西南北と朝昼夕夜
第3節 日本の四季
第4節 赤道、極地の太陽
第3章 太陽系
第1節 地球と月
第2節 月の満ち欠け
第3節 太陽系の天体
第4節 惑星の見え方
第4章 宇 宙
第1節 宇宙を構成するもの
第2節 星の一生
第3節 星座早見盤
第1章 太陰暦
第1節 私たちの漁業の歴史
第2章 月の動き
第1節 潮の満ち引き(大潮と小潮)
第2節 月の自転
第3節 月の満ち欠け
第3章 太陰暦から太陽暦へ
第1節 地球の自転と公転
第2節 24時間の定義
第3節 太陽の南中、日周運動
第4章 太陽系の中の地球
第1節 太陽の年周運動
第2節 星の日周運動
第3節 星の年周運動
第4節 日本の四季
第5節 黄道12星座
第4章 太陽系から宇宙へ
第1節 太陽系の天体
第2節 宇宙を構成するもの
第3節 星の一生
第4節 星座早見盤
第1章 星の動き
第1節 季節の星の観測
第2節 星の日周運動
第3節 星の年周運動
第4節 黄道12星座
第2章 太陽の動き
第1節 太陽の年周運動
第2節 地球の公転と自転
第3節 太陽の南中、日周運動
第3章 宇宙からみた地球
第1節 東西南北と朝昼夕夜
第2節 日本の四季
第3節 赤道、極地の太陽
第3章 太陽系
第1節 太陽系の天体
第2節 惑星の見え方
第3節 月の満ち欠け
第4章 宇 宙
第1節 宇宙を構成するもの
第2節 星の一生
第3節 星座早見盤

表1とは別に2018年度カリキュラムもお薦めです。


2 学年・年度別の授業記録
 ここには1年(D校1999年度)と3年(E校2004年度、F校2018年度)の記録が掲載されています。それぞれの内容を調べると、3年(E校2004年度)が簡単になっていますが、その原因は学習指導要領の改定です。

学年
 授業記録
3年

2018年 天 文(19時間)
 (1)宇宙とは何か、太陽、天の北斜め上から見た地球
 2)天球(日周運動:自転、年周運動:公転)
 (3)星と太陽の1日の動き
 
(4)星とは何か、宇宙の階層
 (5)星座が見える季節、時刻、方位
 (6)太陽系の天体
 (7)太陽系の天体の見える時刻、方位、見え方
2004年 地球と宇宙(14時間)
 ア 天体の動きと地球の自転・公転
 イ 太陽系と惑星

2年 ありません
1年 1999年 地球と太陽系(19時間)
 ア 身近な天体
 イ 惑星と太陽系

 以下に、各学年で効果的だった内容を紹介します。

 1年(D校1999年度)は、名古屋市科学館プラネタリウムで特別投影をして頂きました。私は学芸員の方と事前うち合わせをして、特別プログラムを組んでもらいました。今から思えば、市教育委会によって1年生特別投影のチャンスが与えられていたのは、これが最後と年だったかも知れません。天文分野が3年生になってしまった今では(2005年現在)、受験という現実も合わせて郊外で学習する時間的ゆとりがなくなってしまいました。さて、当時、私が学芸員の方との事前打ち合わせでお願いしたことは、眠くならないように、難しすぎないように、そして、教室やビデオ映像では説明できない立体的な内容にすることです。その結果、『名古屋』『赤道』『南極』のおける星の日周運動をメインにしました。これによって、名古屋では見られない圧倒的な数量の星空を堪能できるだけでなく、北極星を中心に星がぐるぐる回ったり、南半球の星座を楽しんだり、(北極や南極へ移動して)天頂を中心にして同心円状に回転する星を見たり、(赤道へ旅行して)全ての星が東から西へ垂直に昇って垂直に沈んだりすることができました。ただ単純に美しい星空に感動するだけでなく、いろいろな学習レベルにある生徒が楽しめる内容になったと思います。学芸員の方、本当にありがとうございました。

 3年(E校2004年度は、10月12日に部分日食(図1)がありました。理論的には分かっていても、自分の肉眼で見るとやっぱり感動します。2004年10月12日、名古屋において最大に欠ける時間は、3時間め放課でした。私は全校放送で案内し、私の担当学年以外の生徒や先生方にも観測して頂いたことを大変嬉しく思っています。また、日食も含めて生徒が自分で調べたことを自由研究レポートとして発表させました。体系的な学習には至りませんでしたが、生徒自ら自主的に天文について興味をもって調べるという、現代社会において見捨てられそうになっている天文学にとっては意義深いものだと思います。なお、この自由研究レポートについては大変有効だったので、他の分野や教科においても参考になると思います。

図1 2004年10月12日、名古屋における部分日食

最大に欠けた頃


終了20分前

 3年(F校2004年度は、カリキュラム(教育課程)が最新のものです。中学校の先生はご検討ください。

 もう2つ追加します。1998年は群獅子座流星群が33年ぶりに「雨のように降る」様子を観測できました。その翌年は生憎の曇りで観測できませんでしたが、 1998年に観察できた生徒達は「先生、たくさん流れ星があったね。」「初めて見たよ。」「願い事がかなうかなあ。」などと初めてみる流星に目を輝かせていました。また、1997年はヘールボップ彗星がやってきました。幸い、C校の先生方は度量が大きい方ばかりだったので、授業後、校舎の屋上で彗星観測を行うという企画を応援してくれました。今から思うと、本当にたくさんの先生方に御迷惑をかけたものだと思い、感謝の念でいっぱいです。2日間観測しましたが、彗星の他に20個ぐらいは星が見えました。さらに、これをきっかけに東北大学で天文を学ぶ学生が出たことを聞き、本当に嬉しく思っています。

 このように中学校では限られた観測しかできないのが現状ですが、少なくとも1回は子どもと一緒に本物の天体を見て下さい。その子の人生を決定づけるかも知れません。それほど人の心をとらえる何かを星は持っています。先生方の努力によって、是非とも子供達に本物の天体を感じさせる機会を持たせて下さい。宿泊をともなう野外学習があるなら、星空教室を企画しましょう。夢とロマンを知らない大人に負けてはいけまんよ。


3 テーマ別の授業記録
1年(1999年度)と3年(2004年度、2018年度)の授業実践記録54ページにリンクしています。

テーマ
授業記録 学年(年度)

宇 宙

導入:宇宙とは何か?3年(2018年)
宇宙を構成するもの(天体)
3年(2004年)
宇宙における私の住所、階層3年(2018年)
星の一生(進化)3年(2004年)
宇宙の基本単位としての恒星、HR図3年(2018年)

太陽系

太陽系3年(2004年)
太陽系の天体3年(2018年)
太陽系の天体1年(1999年)
太陽系の天体21年(1999年)

太 陽
太 陽3年(2018年)
太 陽
3年(2004年)
太 陽1年(1999年)

内惑星

外惑星

惑星の動き1年(1999年)
金星の見え方3年(2018年)
金星の見え方3年(2004年)
金星の見え方1年(1999年)
火星の見え方1年(1999年)

地 球
地 球3年(2004年)
地 球1年(1999年)
マグマと地球の内部構造1年(1999年地学)

1年(1999年)
月の満ち欠け1年(1999年)
月の満ち欠け3年(2018年)
日食・月食3年(2018年)

東西南北
宇宙から見た地球の時間と方位(天の北極から見た図1)3年(2018年)
朝昼夕夜と東西南北
1年(1999年)
宇宙から見た地球上の東西南北(地球の自転3年(2004年)の部分)

日周運動
(地球の自転)

地球、地球の公転と自転(天の北斜め上から見た図)3年(2018年)
日本から見た太陽の動き、季節変化
(天の北斜め上から見た図)3年(2018年)
太陽の1日の動き(透明半球)(地球で調べる)3年(2018年)
太陽の1日の動き(透明半球)のまとめ(地球で調べる)3年(2018年)
日本から見た星の動き(日周運動)(地球から見た図)3年(2018年)
星は1日に360度+1度動く(天動説と地動説)(地球から見た図)3年(2018年)
太陽は1日に360度と少々動く(天の北斜め上から見た図)3年(2018年)

地球の自転3年(2004年)→ 太陽の日周運動・南中高度、宇宙から見た地球の東西南北
月・太陽の日周運動1年(1999年)
月・太陽の日周運動21年(1999年)
星の日周運動3年(2004年)
星の日周運動1年(1999年)

年周運動
(地球の公転)

88星座と黄道12星座(天の北斜め上から見た図)3年(2018年)
四季の星座の見え方(天の北極から見た図2)3年(2018年)
これまでの補足3年(2018年)

星の1日の動き(年周運動)3年(2004年)
実習1 太陽が天球上を動く1年(1999年)
(これまでの復習2)1年(1999年)
黄道12星座3年(2004年)
黄道12星座1年(1999年)
地球の公転1年(1999年)

日本の四季
日本の四季3年(2004年)
四 季1年(1999年)

その他

番外 しし座流星群1年(1999年)
校外学習『プラネタリウム』1年(1999年)
2004年10月12日の部分日食3年(2004年)
自由研究レポート3年(2004年)
星座早見盤3年(2004年)
天文分野の補足、星座早見盤3年(2018年)

note
 遠い昔、全身が体毛で覆われていた時代、私たちの祖先は自然の一部でした。暗い夜は身を寄せあって眠り、満月の夜は月明かりをたよりに活動していたことでしょう。月の満ち欠けは私達の体内リズムそのものだったと思います。やがて、農耕生活が始まると太陽や恒星の動きによって農業に必要な季節を知るようになりました。また、世界各地で星にまつわる神話が誕生し、惑星の動きを観測しすることで吉凶を占うようになりました。そして、天体の動きを説明するために数学が大きく発達したことと思います。このように、人類が初めて自然科学の扉を開いたのは、物理でも化学でもなく、天文学であることは間違いないでしょう。

 では、現代社会ではどうでしょうか。今までニュートン力学で説明できなかった天体の動きや現象が、量子力学や相対性理論の誕生によって解明されるようになってきました。この先、もっと違う理論が出現し、さらに未知なる分野を説明できるようになるでしょう。しかし、現在ある宇宙理論をきちんと理解するためには、大学で相当に専門の研究を重ねなければならないでしょう。高等学校においても、天文学が必須科目でない現実を考えると、天文学の前途は多難です。

 すると中学校における天文とは何なのでしょう。少なくとも、太陽系について正確に理解することは必要でしょう。2004年9月21日の中日新聞に掲載された国立天文台の調査によると、4割の小学生が天動説を信じているのですから、、、。そして、宇宙空間に存在する1つの小さな物体として地球を再認識させ、さらに、私達人類が、その小さな地球の上に誕生したごく最近の生命に過ぎないことを確認しましょう。そうすれば、星空に宇宙の神秘を感じ、畏敬の念を抱くはずです。地動説と人類のスケールを理解できれば、中学校の役目は果たしたといっても過言ではないでしょう。

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