|
化 学
はじめに
「先生、何か面白い実験やってよ。爆発実験!」という声が聞こえてきます。理科といえば化学、という固定観念ができるくらい化学変化の実験は印象深いものです。とくに、ガスバーナーや火を使う実験はわくわくします。しかし、化学分野を見渡すと、単純に説明できない実験や現象がたくさんあります。
例えば、アンモニアの噴水実験(図1)は、アンモニアの水に溶けやすい性質を利用しています。その説明はいくつかの段階に分けられますが、授業現場ですべてを理解させることは無理です。「アンモニアが水に溶けてフラスコ内の圧力が下がったから噴水ができたんだ!」を理解させるまでに(みなさんは理解できていますか?)、少なくとも5分必要です。その内容は化学ではなく、物理です。
しかし、生徒はそれで満足しますし、私もそれで十分だと思います。自然現象の全てを理解することは不可能ですから、今もっているイメージする力を1歩でも進めることができれば十分でしょう。その説明を先生ではなく、生徒ができるようになれば完璧です。
実験の面白さは、不思議さを感じたり自分の無知を理解したりすることから始まります。高校でも化学を勉強したと思うような知的好奇心を育てる実験を展開してください。
0
図1 アンモニアの噴水実験
目 次
化学分野は次の3つの方法で分類・整理されています。 1 Taka先生のカリキュラム案
・ 先生は必読、中学3年間のカリキュラム
・ 実践の繰り返しによる現実的&理想に近い案2 学年・年度別の授業記録
・ 学習指導要領にもとづいて行った2つの中学校における記録
・ 年間を通した学習の進め方がわかる 3 項目別(毎時間の記録)
・ 学習内容によって分類・整理
・ 何かを調べたい時に使える
1 Taka先生のカリキュラム案
次の5つの単元に分けて構成しました。それぞれの単元はいくつかの章、節に細分されていますので、各学校の実態に応じて、章単位で分離・追加することをお薦めします。
表1 中学3年間の化学分野 指導カリキュラム順序
単元1(11時間)
状態変化→ 単元2(8時間)
水溶液→ 単元3(14時間)
化学変化→ 単元4(8時間)
物質と化学式→ 単元5(14時間)
電気分解・イオン・中和第1章
第2章
第3章第1章
第2章
第3章第1章
第2章
第3章第1章
第2章
第3章第1章
第2章
第3章2005年3月中旬
Mr.TakaMr.Takaは、物質や物体の変化を3つに分類しました
1 状態変化(物質の相転移、固体・液体・気体)。
2 化学変化(ある物質が他の物質に変化すること)
3 物理変化(物体の変形(弾性)など物理学の範囲)
2つの中学校における実践です。A校(1999-2004年度)、B校(2012年度、2016〜2018年度)、合計199ページです。いずれも、学習指導要領のしばりや同学年の先生と歩調を合わせるために理想的カリキュラムで行うことはできていせんが、初めから順に読み進めることで、年間を通してさまざまな出来事(定期テスト、学校行事、気象現象など)を前向きに解決していく様子がわかります。
学 年 年度 単元名
(主な内容)3 年 2018年 イオン
(イオンの構造、電気分解、イオン化傾向、化学電池、酸とアルカリ、中和反応)
2004年 物質と化学変化の応用
(物質と化学反応の利用)
2001年 化学変化とイオン
(電気分解とイオン、酸・アルカリ・塩)2 年 2017年 原子・化学変化
(原子、周期表、化学反応式、定比例の法則、質量保存の法則、熱の出入り)
2003年 化学変化と原子、分子
(物質の成り立ち、化学変化と物質の質量)
2000年 化学変化と原子、分子
(化学変化、原子と分子)1 年 2016年 化 学
(燃焼、有機物、プラスチック、金属、密度、気体(分子)、状態変化、水溶液)
2012年 化 学
(固体の密度、有機物、金属、気体、状態変化、水溶液、濃度)
2002年 物質の性質
(物質のすがた、水溶液)
1999年 身の回りの物質とその変化
(水溶液、物質の状態変化、気体の発生)
3 毎時間の授業のページ
・ taka先生のカリキュラム案(2005年5月)に準じて配置
・ 1997〜2004、2012、2016〜2018年度の授業実践記録199ページにリンク
単元1 状態変化 (分子の3つの状態をイメージする→ 1年生には厳しい) |
||
基本操作 |
実習5 マッチ、ガスバーナー (1年)2012年 |
|
状態変化 |
実験15 沸騰した水の泡を集めよう (1年)2012年 |
|
融点・凝固点 |
実験18 パルミチン酸の融点、凝固点(1年)2012年 |
|
蒸 留 |
実験16 エタノール水溶液の分留(1年)2016年 |
|
気体の性質 |
実験11 二酸化炭素をつくって調べよう (1年)2012年 |
|
液体窒素 |
演示実験 液体窒素(1年)2002年 |
|
単元2 水溶液 |
||
導 入 |
実験20 こげた砂糖の拡散(水溶液)(1年)2012年 |
|
質量パーセント濃度 |
実習21 水溶液の濃度 (1年)2012年 |
|
溶解度 |
実験22 最高に濃い食塩水をつくろう (1年)2012年 |
|
再結晶 |
観察22' 再結晶した食塩 (1年)2012年 濃度と溶解度の復習 溶解度4(再結晶)(1年)1999年 実験15 飽和水溶液と再結晶(1年)2002年 |
|
単元3 化学変化 |
||
化合(硫化) |
実験1 鉄と硫黄の化合(硫化)(2年)2003年 |
|
化合(酸化) |
実験3 鉄を熱する(酸化)(2年)2003年 |
|
分解(還元) |
実験8 酸化銀の分解(還元)(2年)2003年 |
|
発展学習 |
化学変化(化合)のまとめ(2年)2003年 |
|
熱分解 |
実験6 いろいろな物質を加熱する (1年)2012年 |
|
カルメ焼き |
実験12 べっこう飴(2年)2003年 |
|
単元4 物質と化学式 |
||
原子周期表 |
原子周期表、原子と分子(2年)2003年 |
|
単体と化合物 |
原子を組み合わせていろいろな物質を作ろう(2年)2003年 |
|
化学反応式 |
化学反応式『化学変化(化合)のまとめ』(2年)2003年 |
|
質量保存の法則 |
実験7 質量保存の法則(アンモニアの生成)(2年)2003年 |
|
物質の性質 |
実験2 炎色反応(1年)1999年 | |
物質の性質 |
実験1 1円硬貨の密度 (1年)2012年 |
|
基本操作 |
基本操作 メスシリンダー、上皿てんびん(1年)1999年 第2章『物質のすがた』のまとめ(1年)2002年 |
|
単元5 電気分解・イオン・中和 |
||
導 入 |
実験1 水溶液に電流を流す(3年)2001年 |
|
電気分解とイオン |
実験11 塩化銅の電気分解(2年)2003年 |
|
いろいろな電気分解 |
実験5 いろいろな電気分解(3年)2001年 |
|
イオン化傾向 |
実験10 イオン化傾向(AlとCuの置換反応)(3年)2018年 |
|
乾電池 |
実験9 乾電池の分解(3年)2001年 | |
酸とアルカリ |
実験11 酸・アルカリを調べる(3年)2001年 実験11 酸・アルカリ(1年)2002年 |
|
中 和 |
実験12 塩酸と水酸化ナトリウムの中和(1年)2002年 |
|
いろいろな中和 |
実験14 いろいろな中和・塩(3年)2001年 |
|
電流とイオン量 |
実験16 中和するときのイオン量(3年)2001年 | |
note 2005春
範囲が限定されている生物学や地学と違い、化学のカリキュラム編成は迷いに迷っている。何から始めるべきか、新しい単元を作るべきか、中学生に適した実験をどこに配置するべきか。化学は物質(アトム)という視点から系統的に自然界全体を調べる学問であり、複雑にからみ合った自然そのものを研究対象にしている。だから、自然を調べる切り口を見つけたとしても、学習を深めるほどに互いの事象が関連しあい、(単元や章レベルでの)分類が不可能になっていく。小学生なら興味関心を高める事象を取り上げて学習すれば良いし、高校生なら原子(アトム)の学習から始れば良いだろう。しかし、中学1年生は、原子という概念を知らないまま有機的にからみあった化学という学問の扉を叩かなければならない。
ということで、もうしばらく研究すれば新しい視点が生まれてくると思うが、2005年春現在もっともベターと思われる単元の配置は図1の通りである。ただし、状態変化を正しく理解するためには、目に見えない分子の運動やエネルギー状態をイメージしなければならない。したがって、新しく教材を考案しなければ中学1年では困難だと思う。また、中学校理科を『化学』という連続した切り口でまとめた資料は、私の知る範囲ではない。
note 2019年5月
改元(平成から令和へ)にともなう10連休を利用して萩山中学校(2016年〜2018年)64ページを追加することで、本ページのリンク先が合計199ページになりました。読み返してみると分量が多すぎるので、取捨選択しなければいけないようです。 以下に、2005年のカリキュラム案を読み返した感想をメモします。
- 2005年に作成したものはダメだ
- 状態変化から入るのはおもしろくない
- おもしろくないというのは、中学1年生が自分の力で説明できないということである
- 私一人ならこうする、という理想的な(実践)案は次にように立案する
- まず、
- 小学校との違いは『粒(原子)』にあるので、
- 1年生から『原子モデル』を使って教える。
- 原子は一部を教えるだけでよい。
- 完全や完璧を求めることは、私の理想ではない
- 私の理想は、子ども自らが一歩だけ進んだ説明して満足することである。
- 原子(元素)周期表は2年で教えるが、これも一部でよい。
- 新入生に初めに教えることは、雑巾の洗い方である。
- それは私の著書『中学理科の化学2011年誠文堂新光社』p14−p15で紹介したように、
- 『汚れの粒』と『水の粒』をイメージさせるためだ。
- 次に、マッチの使い方、ガスバーナーの使い方を教える。
- それは燃焼というダイナミックな化学変化を楽しむための基本操作だ。
- 私は炎にこだわっている。
- そのエネルギー(熱)現象は私たちの心を躍らせる。
- 次に、いろいろな燃焼実験を行う。
- それらはすべてモデル化した『粒(原子)』で説明させる。
- もちろん、大切なことはモデル化ではなく実験を楽しむことである。
- その楽しみを倍加させる手段がモデル化なのである。
- この順序を間違えると、化学がつまらないものになる。
- 化学は学問であり、産業や経済や政治家のものではない。
- 先生は学ぶ歓びを教えることが仕事なのである。
- 子どもの大人も死ぬまで学ぶ歓びを持ち続けて欲しいと私は願っている。
- あ、脱線した。
- 1年から2年にかけての化学変化は『気体』が中心となる。
- それから『固体』、金属などを扱う。
- これで原子(元素)周期表を理解できるだろう。
- 次に、状態変化をさらっと学習し、
- 水溶液に入る。
- 水溶液は『2つの粒』の関係を扱うが、それは中学2年生以上の力が必要になる。
- 3年からイオン。
- そこでは水中における『原子』の振る舞いを学ぶ。
- それを説明する鍵は『電子』なので、
- 原子構造、電子配置を学ぶことになる。
- どこまで詳しくできるかは、地域と時代よって変わる。
- 文科省が十分な時間数を与えてくれれば、かなり深いレベルまでできるが、
- さもなければできない。
- 中学3年間を通して週4時間確保してくれるなら、
- 日本のレベルは世界トップ水準を維持できるであろう。
- とうことで、3年間を通して化学変化→(状態変化・水溶液)→イオンという流れになりましたが、そもそも『状態変化』や『水溶液』は大きく扱う必要はなく、化学は電気を帯びてない粒子(原子)と電気を帯びた粒子(イオン)たちのいろいろな振る舞いについて学習するんだ、という考え方にすれば良いのではないかと思います。
- それから、2021年度から完全実施される学習指導要領は、『放射線』の学習をさらに深めようとしていますが、それが福島の原発事故現場の危険性を見えにくいものにしたり原子力関連事業を正当化したりしようとする政治的戦略によるものであるように感じるのは、放射線という物理現象が中学生が理解できる範囲から逸脱しているという事実からではなく、(1)それが化学分野の正道に入れ難しいこと、(2)科学的に十分理解できていない(コントロールできていない)こと、という2つの事実から生じているのだと思います。
- 放射線は高いエネルギーを自然事象で、アルファー線、ベータ線、ガンマ線の3種類に分けることができ、霧箱で観察することができます。などの実験や学習で得られることは、霧箱で飛ぶ様子は面白いですね、放射線は自然界にもあるのですね、という程度で、まるで、仕掛けのわからない手品を見せられたお客さんが喜んでいるようなもので、そんなことを中学校でする必要はありません。逆に、手品を見たおかげて、その手品の危険性がわからなくなったら大変です。
- また、現行の教科書では放射線関連の単位としてベクレル、グレイ、シーベルトの3つを紹介しています。これらは数値を伴う、科学的なもののように感じますが、残念ながら人体が受けた悪影響の大きさを単位シーベルトは、マヤカシの域を出ません。巨大エネルギー放射線が人体に与える影響を、人類は知りません。人体実験を繰り返すなら話は別です。正常な人の卵巣や精巣に、あるいは、妊婦に、さまざな方法(量、時間、間隔)で放射線をあて、どこまでなら健常な子どもとして産まるのか、そして、健常な大人になるのか。異常になった場合、その人の子孫はどうなるのか、という実験を日本政府は繰り返したのでしょうか。まるでわかったかのようにシーベルトで危険性を表し、「ここは何シーベルトだから安全です」という政府の基準に、私は絶対に従いません。私は盲信や狂信が嫌いなのです。あ、また脱線してしまいましたが、それほど危険なことだからこそ、私は何度も繰り返すのです。粘り強く教えることは、教育者の基本の1つです。